前回のブログでは、ワクチン先進国であるイスラエルで行われている、ブースター接種について検討しました。
6月末から徐々に新規感染者が増え始めたため、イスラエル政府は7月30日からブースター接種を開始しました。その直後から、デルタ株による感染は急増しました。接種開始から1ヶ月ほどして感染はピークアウトし、その後急速に減少しました。
ワクチン接種後の急激な増加からは、ブースター接種に感染予防効果があるようにはみえませんでした。一方、重症化予防効果については、死亡者数の減少から一定の効果があったように捉えられます。ただし、デルタ株自体の致死率が低下しているため、ワクチン接種の効果だけによるものかは分かりません。
これまでmRNAワクチンの感染予防効果は90%以上であるとか、重症化を防ぐ効果があると喧伝されてきました。しかし、実際に接種が進んだ国の感染状況をみると、どうもその効果は、言われてきた程ではないように思われます。
mRNAワクチンは、なぜ期待通りの成果を出せていないのか。今回からのブログでは、その原因を検討したいと思います。
抗体は万能ではない
最初に指摘しておきたいことは、抗体の効果についてです。mRNAによって誘導される抗体は、新型コロナ感染症を終息させるために万能な働きをするわけではありません。それどころか抗体は、ウィルスを撃退する主役ですらないのです。
なぜかというと、ウィルスは人の細胞のなかに入り込んで増殖してゆくのですが、抗体は人の細胞のなかには入れないからです。ウィルスが人の細胞から細胞へと渡り歩いて増殖を続ける間は、抗体は一切手出しができません。体液性免疫によって誘導された中和抗体が感染を防ぐのは、ウィルスが細胞のなかに入り込む前の時期と、ウィルスが増殖して細胞外に飛び出し、組織や血液内に拡散した時です。この時期に限って中和抗体は、細胞外に存在するウィルスを不活性化することができます。
つまり、中和抗体が活躍できるのは、まさに感染が起こりかけた時期と重症化する前の時期に限られています。ワクチンの効果が感染予防と重症化の予防であるのは、抗体のこうした特徴によっています。
ウィルスを撃退する主役は、あくまで細胞性免疫(と自然免疫)です。ウィルスが入り込んだ細胞を、細胞性免疫によって誘導された細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)が破壊し、細胞から出されたウィルスを、活性化されたマクロファージが貪食することでウィルスは撃退されるのです。
抗体は減少する
生ワクチンによって誘導される抗体と違って、mRNAワクチンで作られた抗体は、長期間効果を維持することができません。当初は数年程度持続するのではないかと言われていた抗体の効果は、実際にはもっと短期間であることが分かってきました。
今年の8月25日に藤田医科大学が、同大学職員209名(男性67名、女性142名)を対象に行った調査結果を発表しています。それによると、ワクチン接種後3ヶ月の抗体価の平均値は、2回目接種後に比べて約1/4に減少していました。
以下は、それを示したグラフです。
出典:藤田医科大学 プレスリリース
図1
図1のように、抗体価の平均値は2回目接種後に比べて3ヶ月後は大幅に低下しており、それは性別、年代を問わず全ての被検者で低下していることが分かります。
抗体価の減少が予想以上に速いため、感染が収束しないイギリスでは、3ヶ月でブースター接種を開始しています。この研究は、3ヶ月でのブースター接種の論拠となるものでしょう。
さらに11月15日には、先端医科学研究センターが、医療従事者98名を対象に行った調査結果を発表しました。それによると、ワクチンを2回接種した6ヶ月後には、抗体価は接種ピーク時(1~3週間後)に比べて10 %以下に低下していることが分かりました。これが日本で、6か月後にブースター接種を行うことの根拠になっています。
以上の結果より、mRNAワクチンが誘導する抗体は短期間で減少するため、効果を持続するためには頻回の接種が必要なことが分かってきました。
ADE(抗体依存性感染増強)の存在
やっかいなことに、抗体は感染症に対して良い働きをしてくれるばかりではありません。
本来ウイルスから身体を守るべき抗体が、ウイルスの標的細胞への感染を起こしやすくしてしまうことで、ウイルスを増殖させたり病気の重症化を引き起こす現象が知られています。これを抗体依存性感染増強(antibody-dependent enhancement:ADE)といいます。また、感染を起こしやすくする抗体は、感染増強抗体と呼ばれています。ADEは、これまでにSARSやMARSといったコロナウイルス感染症で認められてきました。
大阪大学の荒瀬尚教授を中心としたグループは、今年の5月25日に日本医療研究開発機構のプレスリリースで、新型コロナウィルスの感染を増強する抗体を発見したと発表しています。
それによると、感染増強抗体が新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の特定の部位に結合すると、抗体が直接スパイクタンパク質の構造変化を引き起こし、その結果、新型コロナウイルスの感染性が高くなることが判明しました。
以下は、電子家顕微鏡による解析と、その模式図です。
出典:日本医療研究開発機構 プレスリリース
図2
図2のように、感染増強抗体がスパイクタンパク質のNTD(N-Terminal Domain)という部位に結合すると、抗体によってNTDが牽引された結果、スパイクタンパク質の構造が変化し、RBD(Receptor Binding Domain 受容体結合領域)が開いた構造になります。RBDはスパイクタンパク質が細胞の受容体であるACE2と結合する領域であり、閉じた構造のRBDはACE2に対する結合性が低いものの、開いた構造のRBDが増えるとACE2に対する結合性が高くなり、感染性が強くなるのです。
新型コロナに感染しやすくなる
こうして感染増強抗体が新型コロナウィルスとACE2受容体の結合を容易にすると、どのようなことが起こるのでしょう。
当然のことですが、まず考えられることは新型コロナに感染しやすくなることです。
出典:日本医療研究開発機構 プレスリリース
図3
図3のように、感染増強抗体がない例に比べて、ある例ではウィルス量の明らかな増大が認められます。つまり感染増強抗体は、実際に新型コロナウイルスのヒト細胞への感染性を顕著に増加させていることが判明しました。
では、中和抗体では感染を防げないのでしょうか。
以下は、中和抗体と感染増強抗体との関係を現したグラフです。
出典:日本医療研究開発機構 プレスリリース
図4
図4のように、中和抗体が充分量あった場合(赤線)には、感染増強抗体が増えても中和抗体はウィルスをACE2受容体に結合させないように作用します。しかし、中和抗体の量が少ない場合(青線と綠線)は、感染増強抗体が増えるにつれ、ウィルスがACE2受容体に結合しやすくなっています。
つまり、感染増強抗体が産生されると、中和抗体があったとしてもそれが充分量でないと、感染が起こりやすくなるのです。
感染増強抗体は感染を重症化させる
それだけではありません。感染増強抗体は、感染症の重症化をまねく可能性を有しています。
出典:日本医療研究開発機構 プレスリリース
図5
図5のように、中和抗体より感染増強抗体の方が多い人に、重症患者が多いことが分かります。つまり、感染増強抗体は、感染をさせやすくするだけでなく、重症化の一因を担っている可能性があるのです。
ワクチンでADEは起こるのか
これまでにmRNAワクチンが、感染増強抗体を誘導したという正式な報告はありません。しかし、コロナウイルスが原因で起こる重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)に対するワクチンの研究では、フェレットなどの哺乳類動物にワクチンを投与した後、ウイルスに感染させると症状が重症化したという報告があります。そして、これはADEが原因であると考えられています。
もし、ワクチンによって感染増強抗体が産生されるようなことがあれば、ワクチン接種が感染を増大させるだけでなく、重症化を招く可能性すらあります。ブースター接種が各国で行われ始めている現在、この点を注意深く観察しておく必要があるでしょう。
最近、韓国では国民の80パーセント以上がワクチンを二度接種しているにも拘わらず、感染者が爆発的に増えています。それに並行して、死者数も急激に増加しています。その原因はまだ明らかではありませんが、遺伝子ワクチンの接種によって、ADEが起こっている可能性があるのではないでしょうか。この点については、今後の経過をみて再度検討したいと思います。(続く)