前回のブログでは、mRNAワクチンに誘導される抗体について検討しました。これまでmRNAワクチンによる抗体は、感染予防効果が90%以上であり、さらに重症化を防ぐ効果があるとされてきました。そして、抗体の効果は数年間持続すると言われていました。
しかし、実際にワクチンの接種が行われると、抗体価は3ヶ月後には25%に、6ヶ月後には10%以下に低下していることが分かってきました。mRNAワクチンが誘導する抗体価は短期間で減少するため、効果を持続するためには頻回の接種が必要なことが分かってきました。
また、新型コロナウィルス感染症で、感染力を強め、重症化を招いてしまう感染増強抗体の存在が見つかりました。これまでコロナウイルスが原因で起こるSARSやMERSに対するワクチンの研究で、感染増強抗体が誘導されることが知られており、新型コロナウィルス感染症でも、ワクチンが感染増強抗体を産生しないかが危惧されています。
では、mRNAワクチンのもう一つの売り物である、細胞性免疫の効果はどうでしょうか。実は、mRNAワクチンによる細胞性免疫は、まさに諸刃の剣だと考えられるのです。
細胞性免疫を誘導する仕組み①
まず、mRNAワクチンが、細胞性免疫を誘導する仕組みから検討してみましょう。
ファイザーの新型コロナワクチンに関わる説明資料には、以下のように記されています。
図1
図1は、遺伝子ワクチンが、免疫応答を起こすまでの経過を示したシェーマです。ここでは、mRNAワクチンについて説明しましょう。
mRNAワクチンの中には、スパイクタンパク質の一部または全てをウイルス抗原として産生する鋳型であるmRNAが含まれています。このmRNAは脂質の膜に覆われています。脂質の膜は、細胞表面の膜にくっつくと中のmRNAを細胞の中に運び入れます(ヒトの細胞の中に、簡単に遺伝子の一部を入れてしまっていいのかという問題がありますが、この点については後に触れることにします)。
さて、細胞内に入ったmRNAは、ヒトの細胞内のタンパク質産生工場であるリボゾームを使って、新型コロナワイルのスパイクタンパク質の一部または全てを産生します。
細胞内で作られたスパイクタンパク質は、細胞外へと放出されます。放出されたスパイクタンパク質を、マクロファージや樹状細胞といった抗原提示細胞が取り込みます。このうち樹状細胞は、リンパ節に移動し、ここから本格的な免疫応答反応が始まってゆくのです。
以上の経路は、ワクチンが注入された筋肉を中心として起こる反応です。新型コロナワクチンが、インフルエンザワクチンのように皮下注射でなく、筋肉注射で行われるのは、筋細胞内でウィルスタンパク質が産生され、それが免疫反応に使われることを期待しているからだと考えられます。
細胞性免疫を誘導する仕組み②
さて、樹状細胞が受け取った抗原情報は、どのように免疫反応に繋がってゆくのでしょうか。
図2
図2は、ファイザーの新型コロナワクチンに関わる説明資料に描かれた、mRNAワクチンの作用機序を示したシェーマです。
このシェーマは、図1からの続きを簡略化して示したものか、全く別の経路を示したものか、説明がないのでよく分かりません。ここではまず、図1からの続きを簡略化したものとしてみてみましょう。
図2の、①脂質に包まれたmRNAが細胞に取り込まれる、②mRNAが放出される、③ウィルスタンパクが産生される、までが図1で示された筋肉などの体細胞で行われる過程です。体細胞から排出されたウィスルスタンパクは、樹状細胞に取り込まれリンパ節まで運ばれます。
ここで樹状細胞は、MHC(主要組織適合遺伝子複合体)を用いて抗原情報を提示します。MHCは、細胞表面にある「私は自分自身の細胞です」という身分証のような分子ですが、同時に「こんな敵が来ています」という抗原提示を行う機能ももっています。樹状細胞のような抗原提示細胞は、全ての有核細胞に存在するMHCクラスⅠ分子と、抗原提示細胞だけにあるMHCクラスⅡ分子の両方をもっています。MCHクラスⅠはCD8という分子をもつCD8陽性ナイーブT細胞に、MHCクラスⅡはCD4という分子をもつCD4陽性ナイーブT細胞に、それぞれ抗原提示を行います(ナイーブT細胞とは、まだ一度も抗原提示を受けていない未感作のT細胞のことをいいます)。
抗原提示を受けたCD4陽性ナイーブT細胞は、ヘルパーT細胞または制御性T細胞に分化します。ヘルパーT細胞は、B細胞が形質細胞に分化・増殖して抗体を産生するためのサイトカイン(生理活性タンパク質)を放出して体液性免疫をコントロールします(制御性T細胞の働きについて、後々触れることにします)。一方で、抗原提示を受けたCD8陽性ナイーブT細胞は、細胞傷害性(キラー)T細胞に分化し、細胞性免疫に重要な役割を果たします。
こうしてmRNAワクチンは、体液性免疫と細胞性免疫の両方を活性化させる機序を有しているというのです。
mRNAは抗原提示細胞にも入り込む?
一方、図2をそのまま解釈すると、ここで描かれている細胞は抗原提示細胞ということになります。なぜなら、図のようにクラスⅠとクラスⅡの二つのMHCを有しているのは、マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞だけだからです。
すると図2は、マクロファージや樹状細胞といった抗原提示細胞に直接コロナウィルスのmRNAが取り込まれていることになります。しかし、これは通常は起こりえない現象です。
ウィルスが侵入できるのは、自分が結合できるタンパクを表面にもっている細胞だけで、新型コロナウィルスの場合はACE2受容体をもっている細胞だけです。ところがmRNAワクチンが脂質に囲まれた構造のため自由に細胞の中に侵入できるとしたら、あらゆる細胞に新型コロナウィルスのmRNAが入り込むことになってしまいます。
もし、免疫の発動に重要な役割を果たす抗原提示細胞の中に、mRNAが入り込んでスパイクタンパクを産生したら、どのような反応が起こるのか見当もつきません。本当に図2のように、正常な免疫応答反応が起こるのでしょうか。
mRNAワクチンは筋肉に留まらない
さて、肩の筋肉に注射され、そこで免疫反応に使われることを期待して作られているmRNAワクチンですが、ワクチンが入り込むのは肩の筋肉だけではありません。筋肉は動きますから、これがポンプの働きをしてワクチンを筋肉の外に押し出します。押し出されたワクチンは、筋肉細胞間の組織液→リンパ管→リンパ節→リンパ本幹→上大静脈→心臓→肺→大動脈 という経路を通って全身に運ばれます。運ばれたワクチンは、全身の臓器を巡ります。
日本政府へ情報開示されたファイザー社の社内データによれば、ワクチンに含まれる脂質ナノ粒子(ファイザー社ならポリエチレングリコール)は身体全体に循環し、脾臓、骨髄、肝臓、副腎、そして卵巣にも蓄積されるといいます。脂質ナノ粒子はmRNAを包んでいる物質であり、この蓄積が確認されることは、すなわちmRNAが蓄積されることを意味します。ちなみに、脂質ナノ粒子が蓄積される臓器には心臓が含まれていません。しかし、心臓は筋肉の塊であり全身の血液が集められる場所ですから、肩の筋肉と同様に、mRNAが心臓に取り込まれている可能性が高いのではないかとわたしは考えています。
細胞性免疫が自己の細胞を攻撃する
ファイザーの新型コロナワクチンに関わる説明資料には、「細胞に導入されたmRNAは自然に分解され、人の身体の遺伝子には組み込まれません」と記されています。mRNAは自然に分解されてヒトのDNAには組み込まれないため、害を及ぼすことはないと強調されています。
しかし、mRNAが分解されるから安全であるとは限りません。ウィルスのmRNAが安易にヒトの細胞に侵入し、ウィルスのスパイクタンパクを作ること自体に問題があるとは言えないでしょうか。なぜなら、スパイクタンパクは紛れもない異物であり、異物を抱えた細胞は、MHCクラスⅠ分子に抗原提示を行うと考えられるからです。MHCクラスⅠ分子に抗原提示を行った細胞は、免疫的には非自己の細胞、つまり自分の細胞ではないと表明することを意味します。そのため、スパイクタンパクを抱える細胞は、細胞傷害性T細胞から攻撃を受け、破壊されることになります。
しかも、破壊される細胞は、注射を受ける筋細胞だけではありません。先に指摘したように、脾臓、骨髄、肝臓、副腎、卵巣、そして場合によっては心臓の細胞までが細胞性免疫の機能によって破壊される可能性があるのです。(続く)
参考文献
・齋藤紀先:休み時間の免疫学 第3版.講談社,東京,2018.
・山本一彦 監修 萩原清文 著:好きになる免疫学 第2版.講談社,東京,2019.