
トランプ大統領が国連総会で、これまで「AI(Artificial Intelligence)」と呼んできたものを、アメリカ政府では「SI(Super Intelligence)」と呼ぶと発言しました。AI(Artificial Intelligence)は日本語では人工知能であり、SI(Super Intelligence)は一般に、人間の知的能力を大きく上回る「超知能」という意味で使われてきました。トランプ大統領の発言は、AIの分野でもアメリカが世界をリードし、主導権を握ってゆくのだという意思を表明したものと捉えられています。
ところで、AIの進化は著しく、その発展速度は指数関数的であるとされています。そして、その究極の到達点が、シンギュラリティ(技術的特異点)と呼ばれています。
今回のブログでは、このシンギュラリティと本能の関係について考えてみたいと思います。
AGIとは
未来予測者のレイ・カーツワイルは、AIが指数関数的に進化している状況を鑑み、2029年にはAGI(Artificial General Intelligenceー汎用人工知能)に到達すると予測しました。
AGIとは、人間が行うあらゆる知的タスクを、人間と同等かそれ以上の水準でこなせるAIを意味します。現在実用化されているAIは、画像認識や翻訳、文章生成といった特定の領域に特化して設計されています。すでに将棋や碁では、どんなプロでも敵わない最強AIが誕生していることは周知の事実です。
これに対してAGIは、医療診断から法律相談、科学研究、芸術創作まで、領域を問わず柔軟に対応できる点が本質的に異なります。さらに、未知の課題に直面しても、過去の経験や知識を応用して、自律的に解決策を導き出す能力を備えるとされています。
AGIができれば、自律的に学習ができるだけでなく、異なる領域間での知識を応用することができるようになり、独自のアイデアや理論を創出することが可能になると言われています。そうなればAGIは、「あらゆる知的活動において人間と協働できるパートナー」へと進化するのです。
プレシンギュラリティが訪れる
AGIが実現すると、社会はプレシンギュラリティに移行します。
プレシンギュラリティでは、科学技術の発展が加速し、人間の生活が従来の枠を超えて変化を始めます。具体的には、AIが人間の知能を超越し始め、ロボットが人間の日常生活に広く普及し、生物工学によって人間の身体能力が向上し始める時期であると言われます。
テクノロジーが日常生活に深く浸透し、仕事や娯楽だけでなく、人間の生活のあらゆる側面がデジタル化し、自動化されます。従来の職業が自動化され、特に知的領域では、人が担ってきたや役割の多くをAIが代用するようになります。新しい職業が生まれる一方で、ホワイトカラーが職を失ったり、職種間の所得格差の拡大などの課題も生まれることが予想されます。昨今のAIの驚異的な進化を鑑みると、プレシンギュラリティの到来は、これまでの予想よりも早く実現されることが危惧されています。
シンギュラリティが実現した社会では
さらに、シンギュラリティが実現すると、社会はどうなってしまうでしょうか。
レイ・カーツワイルは、その著書である『シンギュラリティは近い(The Singularity is Near 2005年)』で「2045年頃にシンギュラリティが到来する」という予測を行いました。具体的には、「2045年に1台のコンピュータの処理能力が、全人類の知能の総和を超えるとし、その時点を『人間の能力が根本的に変容する転換点』と定義しました。
「コンピューターの処理能力が、全人類の知能の総和を超える」とどのようなことが起こるでしょうか。それは、これまで人類が行おうとしても実現し得なかったことが、現実のものになることを意味します。
例えば、常温核融合という技術があります。
常温核融合とは、通常の核融合が必要とする数千万〜1億度の高温を使わずに、室温から数百度の低温で水素の核融合を起こす技術です。もし実現すれば、従来の原子力発電ような核廃棄物を排出しないために、数万年もの管理が必要である環境問題が生じません、そればかりか、核分裂よりもさらに膨大なエネルギーを得られる核融合が実現すれば、世界のエネルギー問題の多くが解決することになる夢の技術です。
それだけでなく、現在は一部の野菜でしか実現していない水耕栽培が、あらゆる植物で可能になります。稲や麦といった主食が水耕栽培によって工場で人工的に作られるようなれば、世界の食糧問題も解決に向かうでしょう。
また、医療の分野でも、個人の遺伝子の解析が進み、病気による治療ではなく、各個人に適合した個別の薬剤や治療法の開発が進展すると言われています。
AIが進展した社会では何が必要になるのか
AIの発達は、わたしたちの予想をはるかに超える速度で進展しています。最近問題になっている各企業からの個人情報の漏洩問題も、外部からの侵入を防御するシステムを突破するAIが開発されたことで起こっているのでしょう。
AIの発達は、わたしたちの社会を便利にする一方で、わたしたちの存在意義を脅かすまでになっています。わたしたちがこの世界の主人公として君臨してきたのは、他の生き物にはない知性があったからですが、AIが個人の知性だけでなく、これまでの人類が築いてきた知性の総体を凌駕する可能性が現実のものとなりつつあります。
身近に迫ったシンギュラリティを前に、わたしたちはどうしたらいいのでしょうか。
わたしはその鍵が、生物が45億年かけて築いてきた「本能」、または人類が700万年をかけて作り上げてきた「文化」や「伝承」にあると思っています。
今後のブログでは、その「本能」、「文化」や「伝承」について、シンギュラリティに対する側面から検討していきたいと思います。(了)