ワクチン接種によってなぜ感染者数は増え、死者数は増加するのか(2)

 前回のブログでは、mRNAワクチンの問題点について検討しました。

 まず、mENAワクチンは想定と違って、接種部位の筋肉に留まらず全身の臓器の細胞に入り込むこと。mRNAが入り込んだ細胞は、細胞性免疫によって非自己とみなされて、細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)から攻撃を受けて破壊されること。これが、心筋炎などの臓器の炎症として現れることです。

 次に、mRNAワクチンによって作られ続けるスパイクタンパク質が、血管内皮細胞を傷害し、出血や血栓を生じさせることで心筋梗塞や動脈解離などの循環器系疾患や、脳梗塞脳出血などの脳血管障害を誘発することです。

 さらに、mRNAワクチンが新型コロナウィルスに対する体液性免疫や細胞性免疫を急激に高めるため、制御性T細胞が働いて免疫力を抑制させることです。そのため、ワクチンの高い感染予防効果や重症化予防効果が継続するのはせいぜい2,3ヶ月で、その後は免疫力全般が急激に低下します。2回の接種で終了するはずが、なぜか5回目接種が始まっているのは、ワクチンの効果が短期間で失われることの何よりの証左です。

 今回のブログでは、mRNAワクチンを接種を続けることの、さらなる問題点について検討したいと思います。

 

RNAワクチンに効果はあったのか

 まず、これまでのワクチン接種による効果を概観してみましょう。

 

  日本経済新聞社 『新型コロナウィルス感染 世界マップ』をもとに作成

                 図1

 

 図1は、新規感染者数や死者数と、ワクチン接種の関係を現したグラフです。矢印は、ワクチン接種の各回ごとの開始日を示しています。

 ちなみに、2023年1月29日時点での日本のワクチンの完全接種率(全人口における2回接種率)は83.1%で世界トップクラス、延べブースタ接種率(人口100人当たりのワクチン追加接種回数)は137.7%で断トツで世界一です。今や日本は、ワクチン接種においては、世界のトップランナーです。ワクチンが有効であるなら、当然効果が現れているはずです。

 ところが、図1を概観すれば、ワクチン接種の間隔が短くなっていること、それにも拘わらず新規感染者数も新規死亡数も減少していないことが分かります。むしろ、ワクチンを接種する度に、感染者と死亡者の山が大きくなっているようにしか見えません。

 

感染力の強さはウィルスの性質だけではない

 新規感染者数の山が順に大きくなっているのは、ウィルスが変異して感染力が強くなったからだ。そして、新規死亡者の山が大きくなっているのは、感染者数の急激な増大に伴って、見かけ上増えているに過ぎず、致死率は下がっているのだという反論もあるでしょう。

 一般的には、オミクロンBA.2株で感染力が急激に強くなり、オミクロンBA.5株になってさらに強力な感染力を発揮するようになったと考えられています。図1において、右端から順に1番目と2番目がBA.5株、3番目がBA.2株、4番目がデルタ株の山です。この山の推移からは、デルタ株、BA.2株、BA.5株と変異する度に、感染力が強くなっているように見えます。

 しかし、そうとも言い切れない側面があるのです。

 

ワクチン接種が少ない国では逆転現象が

 ワクチンの接種率が低い国々では、変異株ごとの感染力の強さは日本とは異なっています。

 まず、1月29日時点でのワクチンの完全接種率(全人口における2回接種率)が35.3%、延べブースタ接種率(人口100人当たりのワクチン追加接種回数)が6.5%の南アフリカを見てみましょう。

 

  日本経済新聞社 『新型コロナウィルス感染 世界マップ』をもとに作成

                 図2

 

 オミクロン株発祥の地とされる南アフリカでは、BA.2株のピークが2021年12月15日(図2の右から2番目のもっとも高い山)、BA.5株のピークが2022年5月11日(図2のもっとも右側の低い山)です。南アフリカではBA.2株の山が急峻で一番高く、BA.5株の山はそれに比べると随分小さくなっています。

 つまり、ワクチン接種率の低い南アフリカでは、BA.2株の方がBA.5株よりも感染力が強かったのだと言えます。

 次に、1月29日時点でのワクチンの完全接種率(全人口における2回接種率)が67.4%、延べブースタ接種率(人口100人当たりのワクチン追加接種回数)が15.9%のインドを見てみましょう。

 

  日本経済新聞社 『新型コロナウィルス感染 世界マップ』をもとに作成

                 図3

 

 デルタ株発祥の地とされるインドでは、デルタ株のピークが2021年5月6日(図3の最も高い山)であり、次が2022年1月20日のオミクロンBA.2株のピーク(図3のもっとも右側の山)で、BA.5株の感染拡大はほとんど出現していません。つまりインドでは、感染力はデルタ株が最も強く、次がオミクロンBA.2株であり、オミクロンBA.5株は非常に弱いことになります。

 このように、ワクチン接種(特に追加接種)率の低い国では、感染力の強さはBA.5株、BA.2株、デルタ株の順ではありません。南アフリカではBA.2株が、インドではデルタ株が感染力が最も強くなってるように見えます。こうした事態はなぜ起こっているのでしょうか。

 

ワクチン接種の少ない国では集団免疫ができている

 ウィルスの感染力は、ウィルスの性質だけでは決まりません。ウィルスの性質と人の免疫力の関係、つまり、ウィルスと人の免疫力との力関係によって決まります。ウィルスの感染力がいくら強くても、そのウィルスに対する人側の免疫力が強ければ感染拡大は起こりませんし、ウィルスの感染力がそれほど強くなくても、人の免疫力が弱ければ感染は急拡大します。

 図2と図3を見れば、南アフリカとインドでは、それぞれオミクロンBA.2株とデルタ株の感染急拡大が起こり、その結果として新型コロナウィルスに対する集団免疫が獲得されたと推定されます。そのため、それ以降は感染力の強い変異株が流入しても、南アフリカとインドでは感染拡大は抑えられていると考えられます。

 一方で、世界有数のワクチン接種大国である日本では、集団免疫が獲得されていないばかりか、感染者数も死者数も増加の一途をたどっているのです。

 なぜ、このようなパラドックスが起きているのでしょうか。その原因として、制御性T細胞の働きと、ADE(抗体依存性感染増強)の問題が指摘されています。

 今回のブログはまず、制御性T細胞の働きについて検討してみましょう。

 

長寿命のmRNAがもたらすもの

 mRNAが入り込んだヒトの細胞は、mRNAが存在する限り、新型コロナウィルスのスパイクタンパク質を作り続けます。すると、ヒトの身体の中でスパイクタンパク質が多量に、そして長期間作られます。作られたスパイクタンパク質は、マクロファージや樹状細胞が取り込んで分解します。そして、樹状細胞はリンパ節に移動して、ナイーブT細胞(ナイーブT細胞とは、まだ一度も抗原提示を受けていない未感作のT細胞のことをいいます)に抗原提示を行います。

 抗原提示を受けたナイーブヘルパーT細胞はヘルパーT細胞に分化し、B細胞が形質細胞に分化して抗体を産生するように導きます。一方で、抗原提示を受けたナイーブ細胞傷害性T細胞は、細胞傷害性T細胞に分化し、mRNAが入り込んで抗原提示している細胞を破壊します。

 こうしてワクチンのmRNAが存在する限り、スパイクタンパク質に反応する抗体が作られ、スパイクタンパク質を製造する細胞が細胞傷害性T細胞によって破壊され続けます。

 

制御性T細胞の作動

 こうした免疫の状態は、新型コロナワイルスの感染に限れば、確かに有効だと言えるでしょう。しかし、新型コロナウィルのスパイクタンパク質のみに特化した免疫反応は、他の感染症に対しては不適格だと考えられます。また、スパイクタンパク質を製造する自己の細胞が、細胞性免疫によって破壊され続けることも、身体にとって望ましいことではありません。

 そこで、行き過ぎた免疫状態にブレーキがかかるような仕組みが作動します。その働きを担っているのが、制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)です。

 制御性T細胞は、1990年代に「体から除去したら自己免疫性疾患が起こるT細胞」として発見されました。そして、免疫が暴走して自己を傷害するような状態が生じた際に、ヘルパーT細胞と細病傷害性T細胞を抑制するように働くことが分かってきました。

 制御性T細胞を発見した坂口志文大阪大学免疫学フロンティア研究センター教授は、制御性T細胞が免疫の恒常性に対して果たす役割を、次のように述べています。

 

 「制御性T細胞は、自己免疫性疾患の発症を抑えるだけでなく、かなり広範な免疫応答に関わっていることがわかってきた。例を挙げると、臓器移植時の拒絶反応(移植免疫)、炎症、アレルギー反応、さらには妊娠においても、制御性T細胞は、さまざまなな有害で過剰な免疫応答を抑制することで、免疫の恒常性の維持に重要な役割を果たしている」(『免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか』1)32ー33頁)

 

 mRNAワクチンによって免疫が過剰に働いている際にも、この制御性T細胞が作動していると考えられます。

 

制御性T細胞による抗体の抑制

 坂口教授は、制御性T細胞が抗体産生を抑える機序を解明しました(大阪大学研究専用ポータルサイト リソウ 2014-12-19「ワクチン接種反応における制御性T細胞の働きを解明」より)。

 坂口教授によると、その働きは次のようです。

 

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      「ワクチン接種反応における制御性T細胞の働きを解明」より

                  図4

 

 図4のように、制御性T細胞は、共抑制性分子CTLA-4を使って、ヘルパーT細胞とB細胞との情報伝達を遮断します。そのことによって、B細胞が形質細胞に分化して抗体を産生することや、B細胞がメモリーB細胞に分化することを阻害するのです。

 mRNAワクチンによって産生された抗体の抗体価が、わずか3ヶ月で25%に、6ヶ月で10%以下に低下するのは、過剰に産生された抗体に反応して、制御性T細胞が抗体産生を阻害しているからではないかと考えられます。

 また、制御性T細胞は、メモリーB細胞によって体液性免疫の長期的な記憶が形成されることも阻んでいます。そのため変異株が広まる度に、感染爆発が繰り返される要因の一つになっていると考えられるのです。

 

制御性T細胞が免疫を抑制する仕組み

 制御性T細胞が、「有害で過剰な免疫応答を抑制することで、免疫の恒常性に重要な役割を果たしている」としたら、mRNAワクチンによる細胞性免疫の賦活に対しても当然働きかけているでしょう。なぜなら、mRNAは、注射された肩の筋肉だけでなく、脾臓、骨髄、肝臓、副腎、卵巣、そして恐らくは心臓にも入り込んで、スパイクタンパクを作っているからです。

 制御性T細胞が働かなければ、mRNAが入り込んだこれらの細胞は、細胞傷害性T細胞によって軒並み破壊されてしまうと考えられます。そうなってしまえば、副作用として問題視されている心筋炎は、ほとんどの人で発症しているに違いありません。

 では、制御性T細胞が免疫応答を抑制する方法は、どのような機序によって行われているのでしょうか。坂口教授は、前掲書で次のように説明しています。

 

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        『免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか』153頁から引用                

                 図5

 

 図5は、樹状細胞などの抗原提示細胞が、未感作のナイーブT細胞に抗原提示を行う際に、制御性T細胞がそれを抑制する機序を模式図で示したものです。

 ナイーブT細胞が活性化するためには、T細胞受容体がMHCクラスⅡ受容体から抗原提示を受けるだけでは不充分で、ナイーブT細胞に発現したCD28と抗原提示細胞の補助資源分子であるCD80やCD86が結合することで生じる副刺激が必要になります。抗原提示細胞から抗原提示を受け、かつ抗原提示細胞から副刺激を受けることによって、初めてナイーブT細胞が活性化され、エフェクターT細胞に分化することができます。

 制御性T細胞は、CD28と構造的によく似ていて、しかもCD80やCD86と結合する親和性が20倍も高いCTLA-4を常時発現しており、このCTLA-4を介してCD80/86の発現を抑制します。その結果、制御性T細胞は抗原提示細胞からの副刺激を抑制し、ナイーブT細胞の活性化を阻止しているのです。

 

T細胞免疫の抑制

 以上のナイーブT細胞の抑制は、ナイーブヘルパーT細胞でも、ナイーブ細胞傷害性(キラー)T細胞でも行われます。その結果として、制御性T細胞は、体液性免疫と細胞性免疫の両方を抑制することになります。

 以下はそれを示したシェーマです。

 

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                 図6

 

 図6ように、制御性T細胞はヘルパーT細胞や細胞傷害性T細胞を、そして前回のブログでも述べたようにB細胞の活性化をも抑制しています。

 

自然免疫も抑制

 さらに制御性T細胞は、自然免疫の抑制にも関与しています。

 以下は、その関与を示したシェーマです。

 

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                  図7

 

 胸腺で選別された未熟なT細胞には、大きく分けてCD4という分子をもつCD4陽性ナイーブT細胞と、CD8という分子をもつCD8陽性ナイーブT細胞があります。CD8陽性ナイーブT細胞は全て細胞傷害性T細胞に分化しますが、CD4陽性ナイーブT細胞は3系統のヘルパーT細胞(Th1、Th2、Th17)か制御性T細胞の4つに分化します。

 ヘルパーT細胞のうちTh1は細胞性免疫を、Th2は体液性免疫を推し進め、Th17は免疫反応を推し進める役割を主に担っています。さらに、TH1はマクロファージを、Th17は好中球やマクロファージを刺激して自然免疫を高める働きももっています。

 制御性T細胞は、Th1やTh17を抑制するため、体液性免疫や細胞性免疫だけでなく、高まっている自然免疫も抑制することになるのです。

 

ブースター接種は免疫の過剰反応と抑制を繰り返す

 以上のように、制御性T細胞は、過剰に反応する体液性免疫や細胞性免疫、そして自然免疫を抑制し、免疫の恒常性を維持しようとします。

 mRNAワクチンによって過剰にスパイクタンパクが産生され、mRNAが全身の細胞に入り込めば、体液性免疫や細胞性免疫は過剰に反応を起こします。この過剰な反応が維持されている状態のときに新型コロナウィルスに感染すれば、ワクチンは高い予防効果を発揮しました。

 しかし、過剰な免疫反応に対して制御性T細胞が恒常性を保とうとすれば、体液性免疫や細胞性免疫、さらには自然免疫は抑制されます。抗体価の減少から推測すれば、これらの免疫反応は、3ヶ月から6ヶ月間で抑制されます。

 免疫が抑制されると、新型コロナワイルスに再び感染しやすくなります。全ての免疫が抑制されているのですから、感染は急速に拡大します。そこで再び免疫反応を高めようとして行われるのが、ブースター接種だったというわけです。

 ところが、ブースター接種によって一時的に免疫力が高まっても、再び制御性T細胞によって免疫力は抑制されます。この過程が繰り返されたのが、図1で示されたような日本の現状だと考えられます。

 

 問題は、この過程が繰り返されるうちに、ワクチンの有効期間が短くなり、効果が減少しているようにみえる点です。この問題点については、次回のブログで検討したいと思います。(続く)

 

 

文献

1)坂口志文 塚﨑朝子:免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか.講談社,東京,2020.