日本にブースター接種は必要か(1)

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 日本では新型コロナ感染症の第5波がほぼ終息していますが、新たな問題が浮上しました。南アフリカで、新しい変異株であるオミクロン株が確認されたのです。オミクロン株は従来株と比べて変異した箇所が多く、感染力がさらに強いと言われています。

 オミクロン株の出現に伴って、日本でもブースタ接種と呼ばれるワクチンの3回目の接種が推奨されています。12月1日からは、医療従事者を対象として3回目のワクチン接種が開始されました。

 現状の日本において、ブースター接種は本当に必要なのでしょうか。今回からのブログでは、この問題について検討したいと思います。

 

ワクチンとは

 まずは、ワクチンの話しから始めましょう。従来のワクチンは、大きく分けると次の二つのタイプに分類されます。

 一つ目は生ワクチンです。これは弱毒ワクチンとも呼ばれ、毒性を弱めた病原微生物をあえて投与することで、その病原微生物に対する免疫を高める予防的治療法です。弱毒化されているとはいえ生きている病原微生物ですので、細胞内に侵入してときどき増殖を繰り返します。そのたびに感染細胞が抗原提示を行い、それが細胞傷害性T細胞とマクロファージを繰り返し活性化します。その結果として病原微生物に対する細胞性免疫が長期間にわたって維持されます。また、病原微生物が増殖して細胞外に飛び出すたびに体液性免疫も活性化されるため、その祭に中和抗体も作られます。この抗体は、変異株など構造の異なるウイルス株にも対抗できるため、広域中和抗体と呼ばれています。

 実際の生ワクチンとしては、結核を予防するBCG、麻疹、風疹、ムンプス(おたふくかぜ)、水疱、ポリオ(急性灰白髄炎)などがあります。

 もう一つは不活化ワクチンです。これは死滅ワクチンとも呼ばれ、抗原性だけを残して殺してしまった病原微生物を投与するものです。死滅した病原微生物を投与するので副反応が少なく安全性が高いという利点がある一方で、実際に細胞に感染しないために細胞性免疫は成立しません。投与された抗原に対する抗体が産生されて体液性免疫が獲得されますが、免疫の続く期間が短いため、複数回の接種が必要になります。

 実際の不活化ワクチンとしては、インフルエンザ、B型肝炎破傷風ジフテリア日本脳炎などがあります。

 

まったく新しいタイプのワクチン

 現在日本で使用されているワクチンはファイザー製とモデルナ製で、いずれもメッセンジャーRNAワクチンと呼ばれるものです。このmRNAワクチンは今までにないタイプのワクチンで、従来のものとは仕組みが根本的に異なります。

 mRNAとは、DNAから写し取られた遺伝情報をリボゾームに伝達する役割を担います。mRNAによって伝えられた遺伝情報によって、リボゾームでタンパク質が合成されてゆきます。

 mRNAワクチンには、新型コロナウィルスのスパイク蛋白の突起部分をつくる遺伝情報が入っています。ワクチンを接種すると、mRNAが人の細胞の中に入り込み、そのリボゾームを使ってスパイク蛋白の突起部分が大量に作り出されます。細胞外に排出されたスパイク蛋白の突起に対して体液性免疫が、mRNAが入り込んだ細胞に対しては細胞性免疫が獲得されるという仕組みになっていると言われます。

 体液性免疫と細胞製免疫の両方に作用するため、90%以上の予防効果があると喧伝される一方で、ウィルスの遺伝子を直接人間の細胞に入れるという従来にない手法が採られるため、重篤な副反応が起こるのではないかという懸念もあります。この点は後々検討することとして、新しいタイプのワクチンが、どの程度効果を上げているのかを概観してみましょう。

 

ワクチン接種が進んだ国は

 ワクチンは世界中で接種が進められてきました。その中で、2回の接種が完了している国々は以下の通りです。

 

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                        日本経済新聞社

                  図1

 

 図1は、12月1日の時点で、ワクチンの2回接種が完了した人の割合が高い国を示したものです。これらの国々のうち、日本と中国を除いた各国の、新型コロナウィルス感染状況をみてみましょう。

 

UAEシンガポール、チリでは

 まず、接種率が80%を超えているアラブ首長国連邦UAE)、シンガポール、チリの状況は以下のようです。

 

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           新型コロナウィルス感染症 世界マップ 日本経済新聞社

                   図2

 

 UAEでは、ファイザーアストラゼネカの遺伝子を使ったワクチンだけでなく、中国のシノファーム製のワクチンを多く使用しています。シノファーム製のワクチンは従来型の不活化ワクチンであり、副反応が少ないという特長があります。感染者数の下げ止まりがみられたため、8月からは3回目の追加接種が行われています。現在は感染者数は減少していますが、今後の動向が注目されます。

 シンガポールでは、ワクチン接種率の増加に比例するかのように、感染者数も増加しました。現在は新規感染者数はピークアウトしていますが、ワクチンの接種が新規感染者数を減少させたようにはみえません。

 チリでは、4月にはシノバック製のワクチンが主でしたが、その後ファイザー製とビオンテック製のワクチンも使用するようになっています。ワクチンの接種は進んでいますが、図のように感染は終息していません。

 

スペイン、韓国、カナダでは

 次に、接種率が70%台後半の、スペイン、韓国、カナダではどうでしょう。

 

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           新型コロナウィルス感染症 世界マップ 日本経済新聞社

                  図3

 

 スペインではファーザー・ビオンテック製、モデルナ製、アストラゼネカ製のワクチンが接種されています。7月からデルタ株が拡大したあといったん減少しましたが、11月末から再拡大の兆しをみせています。

 韓国では、アストラゼネカ製のワクチンが中心であることが特徴です。ワクチンの接種が進むなか、韓国ではデルタ株の爆発的な感染がみられています。

 カナダでは、ファーザー製とモデルナ製のワクチンが中心です。接種は進んでいますが、デルタ株の感染を抑制させることはできていないようです。

 

イタリア、フランス、イギリス、ドイツでは

 摂取率が70%台前半のイタリアと、60%台後半のフランス、イギリス、ドイツではどでしょうか。

 

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          新型コロナウィルス感染症 世界マップ 日本経済新聞社

                  図4

 

 イタリアでは、ファイザー・ビオンテック製、モデルナ製、アストラゼネカ製、ジョンソン&ジョンソン製のワクチンが使用されています。かつての感染爆発から感染者はいったん減少しましたが、デルタ株の感染がまた増加してきています。

 フランスでは、ファイザー・ビオンテック製、モデルナ製、アストラゼネカ製のワクチンが接種されています。イタリアと同様にいったん感染者は減少していましたが、デルタ株の再拡大がみられています。

 イギリスは、イギリス製のアストラゼネカ製に加え、ファイザー・ビオンテック製、モデルナ製のワクチン接種も始まっています。デルタ株の感染者数は、波はありますが高止まりの状態が続いています。

 ドイツではビオンテック・ファイザー製のワクチンが使われてきましたが、モデルナ製のワクチンも使われるようになっています。ドイツではこれまでで最大の感染爆発を起こしており、12月4日現在でもピークアウトする様相をみせていません。

 

遺伝子ワクチンは有効なのか

 以上を総括すると、ワクチン接種が進んでいる多くの国では、感染が終息していないことが分かります。現在UAEでは感染者が減少していますが、3回目のワクチン接種を行っているために減少している可能性があり、今後の経過が注目されます。

 ファイザー・ビオンテック製とモデルナ製のmRNAワクチンは、90%以上の予防効果があると喧伝されてきました。アストラゼネカ製のワクチンはウィルスベクターワクチンと呼ばれ、これはウイルスのスパイク蛋白を作る遺伝子を無害な別のウイルスに組み込んで、そのウイルスごと投与する仕組みです。ウィルスベクターワクチンも、70%以上の予防効果があると言われてきました。

 しかし、現実にはこれらの遺伝子ワクチンは、充分な予防効果を発揮しているとは言えません。次回のブログでは、その理由を検討したいと思います。(続く)

 

 

参考文献

・齋藤紀先:休み時間の免疫学 第3版.講談社,東京,2018.