新型コロナの第5波はなぜ終息したのか(1)

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 11月1日に、全国の新型コロナウィルスの感染者(正確にはPCR陽性者)が84人にまで減少しました。ほんの2ヶ月半前の8月20日に2万5980人を記録したことに比べると、実に驚くべき減り方です。このような急激な減少を示した国は、わたしが知っている限りでは、日本の他にはインドとインドネシアだけです。

 日本においては、第5波はなぜ急激に終息したのでしょうか。急速に進んだワクチン接種が功を奏したのでしょうか。それとも他に何か要因があったのでしょうか。

 今回からのブログでは、この点について検討したいと思います。

 

デルタ株の盛衰

 3月から6月にかけて猛威をふるったアルファ株(イギリス株)に代わり、7月に入ってデルタ株(インド株)が急速に日本全国で広がり始めました。感染力が増強したデルタ株はこれまでにない急激な感染者の増大を来し、東京オリンピックパラリンピックの開催も危ぶまれました。

 しかし、8月20日の感染者(PCR陽性者)2万5980人をピークに、その後は急減にその数を減少させました。その経緯を端的に現すのが以下のグラフです。

 

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       新型コロナウィルス感染症 世界マップ 日本経済新聞社

             図1

 

 図1のように、第3波、第4波と比べても、第5波は急峻な立ち上がりと同時に、急峻な減少を来しました。その形は、鋭い剣先のようです。

 世界的にみれば、これは一般的な現象ではありません。たとえば、同時期のイギリスやアメリカでは、次のような感染状況を示しています。

 

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         新型コロナウィルス感染症 世界マップ 日本経済新聞社

                  図2

 

 図2のように、イギリスでもアメリカでもデルタ株の感染は続いており、現在でも多くの感染者が出ている状況です。

 

人流の抑制効果?

 日本は新型コロナウィルス感染症に対して、独自の対策を採ってきました。「三つの密」を徹底的に避ける、「人と人との距離の確保」、「マスクの着用」、「手洗いなどの手指衛生」等の基本的な感染対策に加えて、緊急事態宣言で国民に外出の自粛を要請しました。学校の授業や会社での業務がリモートで行われ、各種のイベントが中止されました。飲食店が夜8時までに制限され、酒類の提供が禁止されました。これらは法的な拘束はないものの、要請という形で進められました。

 緊急事態宣言は、4月25日に発出されて以降、9月28日に解除されるまで日本のどこかで行われていました。その間の感染者数の変化は以下の通りです。

 

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                  図3

 

 図3でみるように、緊急事態宣言による人流の抑制は、第4波の収束にはある程度の効果をもたらした可能性はあるかも知れません、しかし、第5波の爆発的な感染者増大に対しては、まったく効果がありませんでした。そして、増大抑制に効果がなかったことと同様に、増大から1ヶ月半後に起こったピークアウトにも影響を及ぼしたとは考えにくいでしょう。

 つまり第5波は、緊急事態宣言とは全く関係なく、急激に増加した後でピークアウトし、そして急激に減少したと考えられます。

 

東京オリンピックパラリンピックの影響は

 では、第5波の最中に行われた、東京オリンピックパラリンピックの影響はどうでしょうか。

 以下の図は、第5波と東京オリンピックパラリンピックの関係を示したものです。

 

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                 図4

 

 東京オリンピックは世界205カ国並びに難民選手団から1万1092人の選手を集めて、7月21日から8月8日まで行われました。新型コロナ感染症に対しては、無観客のうえ、徹底した感染対策が行われました。グラフを見ると、オリンピックの期間だけ、多少感染者数が増大しているようにも見えます。しかし、その後は上昇カーブをやや緩める形で、8月20日のピークを迎えています。

 ピーク後の8月24日から9月5日までは、東京パラリンピックが開催されました。東京パラリンピックは、世界161カ国並びに難民選手団から4千403人を集めました。それにも拘わらず、感染者数は影響を受けることなく減少を続けました。

 総じて概観すると、コロナ感染症が増減するカーブはほぼ左右対称の形をしており、この間に行われたオリンピックは、感染症の増減には大きな影響を与えていないように見えます。

   

ワクチンの効果は

 では、日本で急速に進んでいるワクチンの効果はどうだったのでしょうか。

 以下のグラフは、ワクチンの接種率と新型コロナ感染者数の推移を比較したものです。 

 

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           新型コロナウィルス感染症 世界マップ 日本経済新聞社

           特設サイト 新型コロナウィルス NHK

                 図5

 

 ワクチンによる集団免疫は、国民全体の60~70%が接種を完了すれば達成されると言われています。図5で見るように、第5波がピークアウトした頃にワクチンを2回接種し終えた率は、50%に達していませんでした。つまりワクチン接種は、少なくとも感染者数がピークアウトした直接の要因にはなっていないと考えられます。

 

ワクチンは感染を終息させない

 実は、ワクチン接種は、新型コロナ感染症を終息させるという結果を出せないでいるのです。

 

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         新型コロナウィルス感染症 世界マップ 日本経済新聞社  

                  図6

 

 図6は、ワクチンの接種が世界で最も進んでいるイスラエルシンガポールの感染状況です。

 イスラエルでは昨年12月に集団接種を開始し、3カ月以内に成人の半数が2回接種を完了しました。その結果感染者数が減少し、日常生活の制限を解除しました。しかし、今年の7月から8月にかけてデルタ株による再感染者や重篤な患者が急増したため、イスラエル政府は3回目のワクチン接種に踏み切りました。それでも接種当初は感染増大を抑えることができず、過去最高の感染者数を記録しています。

 シンガポールでは9月末の時点で、人口の80%以上の人が2回のワクチン接種を終えていました。しかし、その後に感染者数が増加を続け、11月上旬の時点では増加は収まる気配を見せていません。

 なぜ、このようなことが起こっているのでしょうか。ワクチンの2回目接種から6カ月間で中和抗体価が低下すること、ワクチン接種によって感染増強抗体ができる可能性があること、さらには、ワクチン接種によって自然免疫やT細胞性免疫の働きが抑制される可能性があることなどが指摘されていますが、これらの点については後にまた検討したいと思います。

 いずれにしても、日本における第5波の終息は、ワクチン接種によって集団免疫ができた結果ではないと考えられるのです。(続く)