前回のブログでは、新型コロナウィルスの第5波について検討しました。
7月に入って日本で急速に広がり始めたデルタ株は、これまでにない急激な感染者の増大を来し、東京オリンピック・パラリンピックの開催さえ危ぶまれました。しかし、8月20日の感染者数(正確にはPCR陽性者数)2万5980人をピークに、その後は急減にその数を減少させました。このような鋭い剣先のような形を示した感染者の増減は、非常事態宣言の効果でも、ピークアウト当時に50%に満たなかったワクチン接種の効果でもないと考えられました。
なぜ日本のデルタ株は、急激な増加と急激な減少を見せて終息したのか。専門家がいろいろな説を唱えていますが、どうも納得できる理由に出会えません。ついには、東大の児玉龍彦名誉教授による、ウィルス自壊説までが登場しています。ウィルスが変異を繰り返す中でコピーエラーを起こし、感染性を失っていったという説です。もしそうなら、なぜ全国のウィルスが一斉に自壊を起こしたのか、なぜ日本以外の国で自壊が起きていないのかの説明ができないと思います。
今回のブログでは、第5波終息の原因をさぐるため、日本と同様に急速に感染が減少したインドとインドネシアの事情を検討してみたいと思います。
インドとインドネシアの感染曲線
まず、インドとインドネシアの感染状況を見てみましょう。
図1
インドでは、3月中旬頃から急激に感染者が増え始めました。そして、5月7日には41万4188人(!)を記録してピークアウトしました。その後急激な減少を来して、7月1日には4万8786人、さらに11月2日には1万3668人まで減少しました。感染者数はまだ多いようにも感じますが、インドの人口は13億8千万人で日本の10倍以上ですから、感染者数は随分減っていることになります。
一方インドネシアでは、6月中旬から急激に感染者が増え始めました。7月15日には5万6757人でピークアウトしました。その後は急激に減少して9月15日には4914人に、11月2日には598人まで減少しました。インドネシアの人口は2億7千万人で日本の2倍ですから、ちょうど日本と同じような感染者数の推移をたどったことになります。
インドが感染爆発した事情
インドでは感染力が増強するように変異したデルタ株が、3月中旬頃から拡大し始めました。その時期と重なった3月29日、インドでは色のついた水などをかけあって春の訪れを祝うヒンズー教の伝統の祭り「ホーリー」が行われました。各地の寺院にはたくさんの人が集まり、赤や緑など鮮やかな色のついた粉や水をかけあったあと、神に祈りをささげました。
以下は、2021年のホーリー祭での様子です。
この後の感染症者は、爆発的に増大しました。3月29日には6万8020人だった感染者は、7月1日には41万4188人へと急拡大したのです。
インドネシアで感染爆発した事情
インドネシアで感染が爆発した事情は、少々異なるようです。感染者数が増大し始めた6月には、インドでみられた祭りなどの大規模な行事はありませんでした。ただ、インドネシアの人口の約9割を占めるイスラム教において、宗教上アルコールの接種が禁止されているため、一般的に手指の消毒に使用されているアルコール消毒も利用されていなかったことや、4月12日から5月12日まで続いたラマダン(断食月)が開け、レバラン(断食明けの大祭)が行われたことが多少影響を与えたかも知れません。
しかし、それよりも大きかったのが、インドネシア政府の“無策”だった可能性が考えられます。7月22日付けの東洋経済ONLINEは、以下のような記事を載せています。
「8万9000人超と、ASEAN諸国でダントツに新型コロナウイルス感染者数が多いインドネシアで、感染拡大に一向に歯止めがかからない。1週間で医師14人がコロナウイルスに感染して死亡したり、東ジャワ州の州都スラバヤでは感染者向けの医療機関のベッド数が不足し始め、万が一に備えてシンガポールに近い離島に搬送する計画に着手したりと、医療崩壊の瀬戸際に追い込まれようとしている。
3月に入るまで感染者ゼロが続いていた。ところが、3月2日に国内でインドネシア人の初感染者2人が確認されると事態は一変した。慌てて感染の拡大防止策に取り組んだものの、それまでの無為無策があだとなり、政府の対応も医療・保健当局の動きも二転三転。その結果、瞬く間に感染者数、感染死者数(約4320人)はASEANで断トツの最多記録となっている。(中略)
医療従事者の感染者が増えている背景として、インドネシア医師協会やインドネシア看護師協会では防護服、手袋、マスクなどの防護機材の絶対的な不足に加えて感染者数の急増による長時間、過剰労働という環境が疲労を蓄積させて感染リスクを高めていると分析する」
新型コロナ感染症に対してインドネシア政府が無策だった時期にデルタ株が拡大し始め、そのことが医療崩壊を招いために、さらなる急激な感染拡大をもらたしたのだと考えられます。
両国のワクチン接種率は
では、感染爆発を起こした両国の新型コロナ感染症が、急速に減少したのはなぜでしょうか。世界中で叫ばれているワクチン接種によってでしょうか。
以下はのグラフは、インドの感染者数がピークアウトした5月7日と、インドネシアがピークアウトした7月15日における各国のワクチン接種率です。
図2
図3
図2のように、5月7日時点でのインドのワクチン接種率は人口の2.4%でした。また、図3のように7月15日時点でのインドネシアのワクチン接種率は人口の5.8%でした。このように、感染者数のピークアウトとワクチン接種には何の関係もないことが分かります。
インドでのイベルメクチンの効果
では、治療薬の効果はどうだったのでしょうか。治療薬の中では、イベルメクチンが注目されています。
インドでは今年3月から、新型コロナ感染症が感染爆発を起こしました。そのため7つの州(ウッタルプラデーシュ州、西ベンガル州、マハラシュトラ州、アッサム州、ゴア州、カルナータカ州、ケララ州で、これらの州の総人口は、インドの人口の60%以上に相当します)が、大村智博士が発見した抗寄生虫病薬イベルメクチンを治療・予防に使う政策をとりました。
以下は、新型コロナ新規感染者数とイベルメクチン投与の関係を示したグラフです。
図4
図4のように、首都デリーでは4月20日からイベルメクチンの大規模投与が始まりました。インド最大の人口を抱えるウッタルプラデーシュ州(約2億人)では、2020年8月からイベルメクチンが新型コロナ感染症の治療と予防に使用されてきました。さらに5月5日からは、PCR陽性者にイベルメクチンが配布されることになりました。
こうした関係を見る限り、インドの感染が減少した要因の一つとして、イベルメクチンの投与があったと推察することができます。
インドネシアでのイベルメクチンの効果
インドネシアでは6月中旬から、新型コロナ感染症者の感染爆発が始まりました。イベルメクチンは新型コロナの「奇跡の治療薬」として人気を集め、全国の薬局で売り切れる事態となりました。
保健当局は当初、「イベルメクチンは新型コロナ治療に有効だという信頼できる証拠に欠ける」と警告していました。しかし、感染拡大が止まらない状況に迫られたインドネシア政府は、6月28日からイベルメクチンの臨床試験を開始しました。そして、7月15日には正式承認するに至ったのです。
図5
図5のように、インドネシアでもイベルメクチンの使用が、感染爆発の抑制に効果を発揮しているのではないかと推察することができます。
では、インドとインドネシアの感染爆発は、イベルメクチンで抑制されたのでしょうか。それとも、何か他の要因もあったのでしょうか。
次回のブログで検討したいと思います。(続く)