若者はなぜ死に走るのか(1)

 今回からはテーマを変えて、若者の自傷行為や自殺企図について取り上げてみたいと思います。

 一時期3万人を超えていた自殺者は、2万人まで減少しました。しかし、若者の自殺だけは年々増え続けています。その原因には、日本人の若者にみられる自尊心の低下や、さらには若者に顕著にみられる自己否定感の蔓延という現象があります。そして、若者に自己否定感が蔓延している背景には、教育の問題、さらには日本文化が危機に瀕しているという重大な問題が潜んでいるとわたしは考えています。

 今回のブログでは、日本の若者の自傷行為や自殺企図がいかに重要な問題であるのかを、統計資料をもとに示してみたいと思います。

 

日本は自殺大国

 あまり知られていませんが、日本は自殺者の非常に多い国です。

 以下は、世界で自殺死亡率の高い20ヶ国を示したグラフです。

 

                  図1

 

 図1は、厚労省が、世界保健機関資料(2023年2月)から2013年以降の人口及び自殺者数が掲載されている国を対象に自殺死亡率(人口10万に当たりの自殺死亡者)を算出し、上位20カ国を掲載したものです。

 それによれば、日本は総数では世界5位、男性は10位、女性は2位となっています。

 さらにG7(主要7ヶ国首脳会議)に限れば、日本の自殺死亡率の多さが際立っています。

 

                  図2

 

 図2のようにG7では、日本の自殺死亡率は総数で1位、男性は2位、女性は1位です。

 このように日本は、自殺者の多い自殺大国であると言えます。その背景には、宗教的な問題があります。キリスト教イスラム教など多くの宗教が自殺を禁じていることに対して、日本では「武士の切腹」や、「心中物」が歌舞伎や人形浄瑠璃で演じられるように、自殺に寛容な文化であることと無関係ではないと思われます。

 

バブル崩壊後に自殺者が急増

 次に、日本の自殺者数の変化をみてみましょう。

 以下は、近年における自殺者数の年次推移です。

 

                  図3

 

 図3のように、日本の自殺者は平成10年(1998年)に3万の大台に乗り、ピーク時の平成13年(2001年)には、3万4,427人に達しました。自殺者の急増には、バブル崩壊の影響が大きく、平成10年には企業の倒産が1万7,493件、負債総額は前年度を65%上回る15兆1,203億で戦後最悪を記録しました。この時期に男性の自殺者が増加していることからも、不況による企業倒産の影響が大きいことが分かります。

 

東日本大震災後に自殺者が減少

 その後、日本の自殺者は減少に転じます。

 

                  図4

 

 図4のように、自殺者が3万人を下回るようになった平成24年の前年には、東日本大震災がありました。死者・行方不明者が2万2,318人、建造物の全壊・流失・半壊は合わせて40万6,067戸、避難者がピーク時には約47万人にも及んだ未曾有の大震災は、わたしたちを現実に引き戻しました。生きるか死ぬかという現実に直面すると、人は自ら命を絶たなければならないという「イメージ」を失うのかも知れません(ここでイメージと言ったのは、自殺した人でも、現実的には死ななければいけない状況にないことが多いからです)。

 令和2年(2020年)から、新型コロナ感染症の流行に伴う経済的な困窮や、長期的な行動制限によるストレスが影響したためか、自殺者がわずかに増加しています。それでも、自殺者は2万人台の前半を推移しています。

 

若年者の自殺は増加を続ける

 ところが、若者の自殺者数だけは増え続けています。

 

                図5

 

 図5のように、小・中・高生の自殺者は年々増加し、令和4年には過去最高の514人を記録しました。

 若者の自殺の深刻さを現すもう一つの統計が、若者の死因の第一位が自殺であることです。

 

                  図6

 図6のように、10歳から39歳までの死因の第一位が自殺であることが分かります。これは、G7の中では日本にだけみられる現象です。

 以上の統計資料から分かるように、現在の日本では、若者の自殺は非常に深刻な問題になっていると言えるでしょう。

 

自傷行為や自殺未遂はさらに膨大な数

 これまで挙げてきたのは、自殺既遂者の統計です。自殺未遂者や自傷行為者まで広げてみれば、その数はさらに膨大になります。

 

                  図7

 

  図7のように、日本では自殺既遂者が年間2万人強いますが、自殺未遂者はその10倍の約20万人存在します。さらに、自傷や多量服薬で治療を受ける人は数百万人に上ると言われています。

  同様に捉えると、小・中・高生の自殺者の自殺既遂者が500人を超えていれば、自殺未遂者は5,000人を超え、自傷・多量服薬で治療を受ける人は数万人を超えると考えられます。治療の現場でも、小学生はともかく、中・高生の自傷や多量服薬は大きな問題になってきています。

 

 では、なぜ若者は、死に走ろうとするのか。次回以降のブログで、その原因を探っていこうと思います。(続く)