ポリコレはなぜ危険なのか 神話の崩壊(2)

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 ポリコレは、社会的正義を実現するために、弱者やマイノリティに対する差別や偏見、およびそれに立脚した表現や制度までが是正されなければならないとする政治的な運動です。今回のブログでは、一見正しいようにみえるこの運動が、実は社会に深刻な影響を与えている点について検討したいと思います。

 

ワシントンやリンカーンが非難される

 前回のブログで取り上げたように、アメリカでは昨年から今年のはじめにかけて、ポリコレによってワシントンやリンカーンといった歴代の大統領を非難する運動が起きました。ワシントンはアメリカの独立期を、リンカーンアメリカが農業国から工業国へと発展する時期を支えた偉大な大統領です。そんな彼らが非難されたのは、次のような理由からです。

 ワシントンは自らが所有する農園で400人にもおよぶ黒人奴隷を所持していたことが、リンカーンはインディアンから文化を奪い農業を強制する「ホームステッド法」を公布したことが、黒人やインディアンに対する差別に当たるというのです。

 この運動によって、カリフォルニア州サンフランシスコの教育委員会は、ワシントンやリンカーンなど人種差別や先住民族の抑圧などに関係したとされる歴史的な人物から名づけられた公立学校について、校名を廃止することを決めました。対象校は、市内の3分の1にあたる44校に上りました。また、昨年の12月には、ボストンで直立するリンカーン銅像が撤去されています。

 

歴史から誇りを奪う

 ワシントン大統領やリンカーン大統領にも、当然負の側面は存在したでしょう。そして、負の側面にも光を当て、歴史を正確に理解することは正しいことのように思われます。

 しかし、この運動には二つの問題点があります。

 一つ目は、過去の歴史的事実を、現在の価値観で判断して非難していることです。そんなことをしたら、過去の偉人たちは大抵は非難されることになるでしょう。日本でも戦国時代の大名はみな大量殺人者になりますし、維新の英雄たちも古来からの日本文化を破壊しました。色に溺れたり金に汚かった人物もいたでしょう。しかし、これらの負の側面は、当時の社会では許容されていました。

 歴史の偉人たちの負の側面を現代の基準で非難すれば、偉人たちの社会への貢献を矮小化し、歴史から誇りを奪うことに繋がります。得をするのは、過去の偉人たちを非難することによって、自分が偉大になったかのように勘違いしている人たちです。過去の偉人を非難すること優越感を得ることが、ポリコレの目的の一つであるのかも知れません。

 

子どもたちから誇りを奪う

 もう一つの問題は、子どもたちへの影響です。

 歴史から誇りを奪うことは、それを学ぶ子どもたちの誇りを奪うことに繋がります。カリフォルニア州で、歴史的な人物から名づけられた公立学校で校名を廃止したことは、子どもたちへの教育に直結する出来事でしょう。そして、その影響は何年か後に、深刻な問題となって社会に現れるでしょう。

 実はその影響は、すでに日本社会で如実に現れています。

 国立青少年教育振興機構が平成30年3月に発表した、高校生の心と体の健康に関する意識調査の中で、次のような結果が出ています。

 「私は価値のある人間だと思う」という問いに対して、「そうだ」「まあそうだ」と回答した高校生の国別の割合(%)は、

 

 日本 44.9  アメリカ 83.8  中国 80.2  韓国 83.7

 

 「私は今の自分に満足している」という問いに対して、「そうだ」「まあそうだ」と回答した高校生の国別の割合(%)は、

 

 日本 41.5  アメリカ 75.6  中国 62.2  韓国 70.4

 

という結果でした。

 この調査からは、日本の高校生だけが、目立って自己肯定感が低いことがわかります。日々の臨床においても、若者の自己肯定感の低さを感じされられることは決して珍しくありません。それどころか、「自分は何の役にも立たない存在だ」「生きている意味がない」「消えてしまいたい」などといった自己否定感を訴える若者が、ますます増えているように感じられます。

 ではなぜ、日本の若者は自己肯定感が低いのでしょうか。

 それは、日本の歴史から誇りが奪われているからです。

 

戦後の教育に原点

 個人の自己肯定感の問題は、親の自己肯定感の問題に還元されます。さらに、親の自己肯定感の問題は、その親の自己肯定感の問題に還元されます。つまり、現在の高校生の自己肯定感の低さは、両親やさらにその祖父母に行くつくことになります。

 ここで、祖父母の世代が受けた教育がクローズアップされます。それが敗戦後にGHQ連合国軍最高司令官総司令部)の画策した、WGIPウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)に導かれた教育です。

 WGIPは、ウオーギルト(War Guilt)、つまり戦争の罪悪感を日本人に植え込み、日本人がアメリカに敵意を向けないようにするための教育プログラムです。それによれば、日本を無謀な戦争に引きずり込んだのも、悲惨な戦争を継続したのも、現在および将来の日本に苦難と窮乏をもたらしたのも、すべて戦前の軍国主義者たちであって、国民はその犠牲者に過ぎないというものでした。戦後になって、しかも戦勝国の立場から戦前の日本の指導者を非難する点において、ポリコレの運動と同じ構図が見て取れるでしょう。

 WGIPは学校教育だけでなく、ラジオや新聞でも伝えられましたが、当初はそれほど大きな効果を上げることはありませんでした。GHQが直接、間接に関与したことであり、占領政策の一環であることが当時は明らかだったからです。しかし、このプログラムに影響された日本人が、自らの意見として発信するようになると、その効果は無視できないものになって行きます。

 

日教組反戦・反国家教育

 日教組は、1951年に開いた中央委員会で「教え子を再び戦場に送るな、青年よ再び銃を取るな」というスローガンを採択し、文部省の方針に対立する運動を開始しました。教育の国家統制に反対する立場を取り、1950年以降国旗掲揚と国歌斉唱の強制に対して反対しています。1996年頃から教育現場において、文部省の通達によって日の丸の掲揚と君が代の斉唱の指導が強化されると、日教組憲法が保障する思想、良心の自由に反するとして、日の丸の掲揚と君が代の斉唱は行わないと主張しました。

 1965年から始まる「歴史教科書問題」をめぐる裁判、これは高校日本史教科書の執筆者である家永三郎氏が、文部省による教科書検定は、憲法の禁じる検閲にあたり違憲であるとして国を相手に提訴した裁判ですが、この家永裁判を日教組は支援しました。

 以上のように日教組は、軍国主義者や旧秩序に対して反対しただけでなく、政府や文部省(今の文科省)にも対立する姿勢を取り続けています。国が正式に認めた教育機関で働く教員が、国旗掲揚と国歌斉唱に反対している教育現場は、世界中で日本だけではないでしょうか。このような特異な教育現場の出現こそ、WGIPの影響なくしては考えられないと思われます。

 

軍国主義と旧秩序を批判し続けるマスコミ

 軍国主義と旧秩序を非難し続けることに関しては、マスコミも負けていません。朝日新聞はその代表的存在でした。

 「北朝鮮は地上の楽園」とする朝鮮総連の喧伝に乗り、在日朝鮮人とその家族を北朝鮮に帰国させる「北朝鮮帰国事業」に賛同する記事を発表したことや、中国側が用意した"証人"の声を聞いただけで確認のための取材もせず、毎回残虐で非人道的な日本軍とその行為だけが語られていった本多勝一氏の「中国の旅」、高校の歴史教科書の中国華北地域への「侵略」を「進出」に書き換えさせたと誤報した教科書問題、そして、吉田清治氏の嘘から始まり、その後も誤報で積み重ねられた従軍慰安婦問題など、軍国主義者や旧秩序を批判する記事が朝日新聞には掲載されました。軍国主義と旧秩序を非難し、日本における伝統的秩序を破壊するというWGIPの目的を、朝日新聞は見事に果たしていると言えるでしょう。

 

自尊心の低下は反日教育の成果

  GHQが画策したWGIPは、こうして日本人自身の手によって少しずつ社会に浸透し、戦後70年という歳月を経て如実な効果を現しました。日本人の若者の自己肯定感はアメリカだけでなく中国や韓国に比しても著しく低下し、自己肯定感の低下は若者の引きこもりやうつ状態、さらには自傷行為や自殺企図の増加という問題にまで繋がっています。さらに、平成30年の厚労省の統計によれば、日本における10~39歳の死因順位の1位は自殺となっており、国際的にも、15~34歳の死因順位の1位が自殺となっているのはG7の中では日本のみです。

 戦後にGHQが行ったWGIPは、アメリカに対する敵対心や復讐心を起こさせないという当初の目的を果たしただけでなく、日本の歴史から誇りを奪い、さらに日本人の若者から自尊心を奪うという副産物まで生じさせました。

 

 この成果をみたポリコレ推進者たちは、同じことをアメリカでも実践しようとしているのではないでしょうか。

 その目的については、次回のブログで検討したいと思います。(続く)