前回のブログでは、有為な若者たちがなぜ多量服薬や自傷行為、そして自殺企図に向かうのかについて、社会的な要因について検討しました。
今回からのブログでは、若者たちが死へと走る、若者自身の要因について検討してみたいと思います。
自己肯定感の低い日本の若者
先のブログで、日本では10歳から39歳までの死因の第一位が自殺であり、これはG7の中では日本だけにみられる現象であることを指摘しました。その要因として、日本の若者には、他国の若者に比べて自己肯定感が低いことが挙げられます。
以下は、2018年11月から12月に行われた、各国の13歳から29歳の若者を対象とした意識調査の結果です。
図1
図1のように、「自分自身に満足しているか」という問いに対して、「そう思う」または「どちらかといえばそう思う」と答えた若者は、
日本 45.1%
韓国 73.5%
アメリカ 87.0%
イギリス 80.1%
ドイツ 81.8%
フランス 85.8%
スウェーデン 74.1%
であり、日本が突出して低いことが分かります。
図2
次に、「自分には長所があるか」という問いに対しては、「そう思う」または「どちらかといえばそう思う」と答えた若者は、
日本 62.2%
韓国 74.2%
アメリカ 91.2%
イギリス 87.9%
ドイツ 91.4%
フランス 90.6%
スウェーデン 72.7%
であり、先の問いほど突出してはいないものの、やはり日本が一番低いことが分かります。
以上のように、日本の若者は自分自身に対して満足しておらず、また自分には長所がないと思っており、自分を肯定する意識が育っていないことが窺われます。
自己否定感とは
日本の若者に自己肯定感が育まれていないことが指摘されていますが、さらなる問題点は、若者に自己否定感が存在していることです。
図3
図3は、「自分自身に満足しているか」という問いに対して、「そう思わない」と答えた割合を赤色で示したものです。この割合も日本が突出して高く、24.2%にも上っています。つまり、日本の若者の4人に一人弱が、自分自身に満足していないと答えているのです。
この中に、自己否定感をもつ若者が含まれています。
自己否定感は、文字通り自分を否定的に捉える感覚です。自分には良いところがない、何をやっても上手く行かない、人から嫌われているなどと自分を否定的に認識します。この否定感覚が高じると、自分はダメな存在だ、存在している意味がない、生きていても仕方ないという思いに発展し、それが死にたいと思う希死念慮に繋がるのです。
自己否定感の増強
自己否定感は、最初から希死念慮に繋がるほど強いわけではありません。他者との関わりの中で、次第に強くなってゆきます。
図4
自己否定感を持つ若者は、自己否定感を解消するために自傷行為や多量服薬をすることがあります。自傷行為を行うのは、ダメな自分を罰するためです。身体を傷つけるという罰を自分に与えることで、自分自身は許された気持ちになります。また、多量服薬は自分の身体を傷つけることに加えて、意識を飛ばしてダメな自分を忘れることもできます。これらの行為は自己否定感を軽減させる効果がありますが、効果はその場限りで、根本的な解決にはなりません。
さらなるマイナス点は、自傷行為や多量服薬が、身近な人たちの過剰な反応を生むことです。若者の自傷行為や多量服薬に驚き、ショックを受けた周囲の人たちの反応は、「そんなに辛かったんだね、分かってあげられなくてごめんね」にはなりません。往々にして「なんで自分を傷つけるの」「そんなことをしたら悲しい」「自分を傷つけるのはいけないことだ」「何の解決にもならない」といった反応を生みます。さらには、「二度としないように」「死ぬ気になれば何でもできるはずだ」と言われることさえあります。つまり、自傷行為や多量服薬に対して、再発しないように説得や叱責を受けることになるのです。
その結果どうなるでしょう。若者は周囲の説得や叱責を素直に受け入れて、自傷行為や多量服薬をしなくなるでしょうか。残念ながら、結果は逆になります。説得や叱責を受けた若者は、自分がさらにダメな人間であると感じます。それが彼らの自己否定感をさらに増強させます。自己否定感を増強させた若者は、再び自傷行為や多量服薬に走ります。繰り返された行為にショックを受けた周囲の者は、説得や叱責を繰り返します。そのことが若者の自己否定感をさらに増強させます。自己否定感の増強は、さらなる自傷行為や多量服服薬に繋がります。
こうして、自己否定感を増強させる負のスパイラルが作動することになるのです。
背景には対人不信感の存在が
自己否定感が増強していく経緯を述べてきましたが、その背景には、若者の対人不信感の存在があります。
自己否定感と対人不信感は、表裏一体の関係にあります。自己否定感は裏を返せば自分自身が信じられないのであり、同様に他者も信じることができません。要するに自己否定感が強い若者は、自分も他人も信じることができずに、自分に対しても他者に対しても否定的な感覚を抱いているのです。
自己否定感と同様に、対人不信感も周囲の対応によって増悪してゆきます。
図5
対人不信感を持つ若者は、自己否定感に伴う不安感や苦しさ、つらさを他者に打ち明けることができません。話したところで分かってくれないでしょうし、ダメな自分は見捨てられるのではないかという不安を抱いているからです。そこで、この苦しさをなりふり構わずに伝えようとして、自傷行為や多量服薬を行います。つまり、これらの行為には、周囲の人に向けたSOSの意味合いも含まれているのです。
しかし、この助けて欲しいというメッセージの多くは、正確に伝わることはありません。自傷行為や多量服薬という行為が重すぎて、身近な人たちは冷静に対応することができないからです。自分自身が平静を保つために、若者に対して「なんで自分を傷つけるの」「そんなことをしたら悲しい」「自分を傷つけるのはいけないことだ」「何の解決にもならない」「二度としないように」「死ぬ気になれば何でもできるはずだ」などという反応を引き出すことになります。
SOSを求めたのに、逆に説得や叱責を受けることになった若者は、他者が理解してくれないことに絶望します。この絶望が対人不信感を増強させます。対人不信感を強めた若者は、自分の苦しさを周囲の人たちに苦しさを言葉で打ち明けることができなくなります。そして、切羽詰まった際には、自傷行為や多量服薬という行動でし表現できなくなります。繰り返される自傷行為や多量服薬に不安を募らせ、または嫌気がさした周囲の者は、説得や叱責を繰り返します。この説得や叱責が、さらなる対人不信感の増強を招くのです。
絶望が自殺企図を生む
以上で述べてきたような自己否定感の増強、そして対人不信感の増強は、若者をますます追い詰めてゆきます。追い詰められた若者は、自分の人生に絶望します。希望に心躍らせるはずの若い時代に、人生に絶望しなければならない辛さ、苦しさはいかばかりであるか。しかもこの苦しさを理解してくれる人は存在せず、若者は絶望した世界の中で一人孤立しています。
こうして生じた絶望と孤立が、若者を自殺へと導くのです。
では、日本の若者に自己肯定感が低いのはどうしてなのでしょうか。さらに、若者の自殺の要因になっている自己否定感は、そもそもどうして生じるのでしょうか。
次回のブログで検討したいと思います。(続く)