なぜブースター接種は、今すぐ打ち止めにすべきなのか(3)

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 前回のブログでは、ブースター接種が進んでいる国で、オミクロン株の感染の再拡大が起こっている理由について検討しました。その理由として挙げられるのが、ブースター接種に使われているワクチンが武漢株をもとに作られていることです。加えて、ワクチン接種で産生される抗原の記憶に免疫系が固執し、変異株に対して柔軟で効果的な反応ができなくなる抗原原罪という現象がが起こっている可能性があります。さらには、オミクロン株への感染を起こしやすくする、感染増強抗体が産生されている可能性も危惧されています。

 今回のブログでは、最近になって感染爆発を起こした韓国を取り上げて、ブースター接種の危険性について検討したいと思います。

 

驚くべき分析

 韓国で感染爆発が起きた理由を、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの宮坂昌之教授は、4月3日付けの講談社ホームページの中で、以下のように分析しています。

 

 韓国では、すでに60%以上が追加接種を終えており、日本よりも先行しているのですが、一度社会規制を緩めたなかではオミクロンの流行は止まらず、3月17日には62万1328人もの新規感染者が出ました。これは日本の人口で考えると約150万人に相当します。これまで徹底的な検査や隔離による「K防疫」を誇ってきた韓国ですら、ひとたび感染予防策を緩めてしまうと、感染をまったく制御できなくなってしまうのです。

 このように新型コロナウイルスの流行は、変異株の感染力、感染予防策の徹底度、ワクチンの感染予防効果の減衰、社会に存在するウイルスの総量など複数のパラメーターによって目まぐるしく変わるので、その動向を正確に予測して、制御することはきわめて困難です。

 しかし感染を収束させるためにやるべきことは決まっています。まずは、マスク着用、3密回避、通風・換気の励行などの感染予防策をしっかりと取ることです。そのうえで、ワクチンの追加接種を推進して感染予防効果を維持するのです。反ワクチン派の方が主張するように、ワクチンを打たずに自然感染を良しとして、マスクも着用せず、多人数での飲食を続けるようなやり方は危険なアプローチと言わざるをえません。

 

 つまり、宮坂氏は、韓国で感染爆発が起きたのは、マスク着用、3密回避、通風・換気の励行などの感染予防策を緩めたためだと分析しているのです。

 本当に感染予防策を緩めただけで、日本の人口で考えると、1日で約150万人に相当する新規感染が起こるのでしょうか。それなら、感染予防策を緩めている欧米諸国で、再び韓国の感染爆発に相当する新規感染者が連日発生しなければなりません。しかし、現実には、マスク着用の義務を全州で廃止したアメリカでは、新規感染者数はむしろ減少しています。

 

ワクチンの免疫の方が質が高い?

 宮坂氏は続けて、ワクチン接種の必要性を以下のように説いています。

 

 『新型コロナワクチン本当の「真実」』にも書きましたが、自然感染で得られる免疫よりも、ワクチン接種による免疫のほうが質の高いことが科学的にも裏付けられています。ワクチン接種でできる抗体は、自然感染でできる抗体に比べて、ウイルスのスパイクタンパク質に対する結合性が高いため、高い感染予防効果があります。また、ワクチン接種で得られた中和抗体は、自然感染で得られた抗体よりも反応性も幅広いため、複数の変異株を中和できます。しかもワクチンでできた免疫は、追加接種で効果を高めることができます。

 

 宮坂氏は、「自然感染で得られる免疫よりも、ワクチン接種による免疫のほうが質の高いことが科学的にも裏付けられています」と述べ、ワクチン接種を進めることを推奨しています。

 しかし、この文章は論理破綻していないでしょうか。

 ワクチンの追加接種が最も進んでいる国の一つである韓国で、感染爆発が起きている。→それは、感染予防策を緩めたためである。→ワクチン接種で得られる免疫は、自然感染で得られる免疫よりも質が高い。

 これでは、最初に挙げられている事実と、そこから導かれている結論の間に整合性が認められません。

 普通に考えれば、ワクチンの追加接種が最も進んでいる国の一つである韓国で、感染爆発が起きている。→ワクチン接種で得られる免疫は、自然感染で得られる免疫よりも質が悪い(または、感染を防ぐ効果はない)となるのではないでしょうか。事実、インド、南アフリカインドネシアといった追加接種が遅れている国々では、オミクロン株の感染はむしろ終息に向かっているのです。

 

韓国で感染爆発が起きた本当の理由

 韓国で感染爆発が起きた本当の理由、それは初期の感染対策が、あまりに成功しすぎた結果であるとわたしは考えています。

 韓国は、2015年にMERS(Middle East respiratory syndrome :中東呼吸器症候群)の流行に直面しました。その際に、密接接触者の定義を狭くしたために初期対応に失敗し、感染が広まった苦い経験があります。

 その経験を活かして韓国では、新型コロナ感染症に対しては大量のPCR検査を実施し、早期に発見した感染者の隔離を徹底して行いました。その結果、人口当たりの感染者数を圧倒的に少なくするという実績を挙げました。韓国の新型コロナ感染症への対応は、アメリカや日本の一部の識者から賞賛され、韓国もこれを「K防疫」と呼んで、その有効性を誇ってきました。

 しかし、その結果として、韓国では最近に至るまで、国民が新型コロナウィルスに暴露される機会を逸してきたのです。このことが、今回の感染爆発の布石になっていると考えられます。

 

ウィルス感染症の二つの対処法

 そもそもウィルス感染症への対処法は、大きく二つに分けることができます。

 一つは、重症化し、致死率の高いウィルス感染症への対処法です。致死率の高い感染症では、感染者を早期に発見し、感染者の隔離を徹底して行います。そして、感染拡大を未然に防ぎ、感染自体を封じ込め、感染者をゼロにすることを目指します。

 例えば、致死率が40~50%だったMERSや、9.6~11%だったSARSではこうした対応が採られました。致死率の高い感染症は、患者が重症化して活動できなくなることもあって、一般的に感染力は強くならず、感染者の隔離を徹底すれば感染を終わらせることは可能です。実際に、MERSやSARSは複数国に感染が広がりましたが、いずれも感染は完全に終息しました。

 その意味で、MERSやSARSといったコロナウィルスは、「ゼロコロナ」を目指すことで解決したと言えるでしょう。

 

集団免疫の獲得を目指す

 もう一つは、致死率が低く、感染力の強いウィルスへの対処法です。

 致死率の低い感染症は、不顕性感染も多く、感染者が元気に動き回ることもあって、一般的に感染力は強くなる傾向があります。感染力が強いウィルスほど感染者を早期に発見することは難しく、たとえ隔離を徹底しても、感染は瞬く間に拡大してしまいます。そうなれば、非常に多くの感染者が発生することになります。

 この場合は、むしろ多くの人が感染することによって、ウィルスへの集団免疫が獲得されることを目指します。集団免疫が獲得されると、ウィルスはそれ以上広がらなくなり、感染は終息に向かいます。

 具体的な例としては、毎年日本でも流行するインフルエンザが挙げられるでしょう。インフルエンザは冬になると1千万人以上の人が罹患し、関連死も含めると1万人が亡くなります(したがって、インフルエンザの致死率は0.1%以下です)。

 インフルエンザへの対応は、発熱などの症状がある間は仕事や学校を休んで休養し、重症化したり持病が悪化した際には入院して治療を受けます。隔離を徹底したり、感染を封じ込めることはしませんが、感染が拡大するとやがて集団免疫が獲得され、感染者は急激に減少して終息に向かいます。

 

新型コロナの対処法は?

 2019年の12月に、中国の湖北省武漢で、新型コロナウイルスの集団感染が発覚しました。武漢は封鎖され、病院では患者が待合室にも溢れ、路上で倒れる人の姿が世界に向けて発信されました。WHOと中国当局専門家による発表では、2020年2月末の時点での致死率は5.8%でした。強烈な映像と致死率の高さから、新型コロナ感染症の対処法は、MERSやSARSと同じように感染者を早期に発見し、感染者の隔離を徹底して行う方法が採られました。日本で新型コロナ感染症が、感染症法の分類で結核SARSと同じ2類相当になっているのは、このときの判断に拠っています。

 その後、新型コロナ感染症は全世界に広がり、ウィルス自体も次々と変異を繰り返し、感染力の増強と致死率の低下を示すようになりました。デルタ株の時点で致死率は0.3~0.5%に低下し、オミクロン株に至っては0.13~0.14%まで低下しています。そのためどこかの時点で、感染症対策を、致死率の低いウィルス感染症のものに変換する必要がありました。すなわちそれは、多くの人が感染して集団免疫を獲得することを目指す方針です。

 

韓国の感染爆発には二つの要因が

 オミクロン株の致死率の低下に伴って、欧米諸国は、行動制限を徹底して感染を封じ込める方針から、行動制限を解除して集団免疫を目指す方針に転換しました。UEFAチャンピオンズリーグや先日開幕したメジャーリーグの試合で、マスクなしで以前と同じように観戦する観客の姿が見られるのはそのためです。韓国も欧米諸国と同じように、行動制限を解除する方針に舵を切ったのだと思われます。

 ところが、韓国には欧米諸国と異なる要因が二つ見られました。一つは、先に述べたように感染対策が徹底され、新型コロナの感染者が極力抑えられてきたことです。そのため、国民が新型コロナウィルスに暴露される機会が少なく、自然な感染を経験することによって得られる免疫が獲得されてきませんでした。

 もう一つは、韓国がワクチン接種を徹底して推進し、2回接種率においてもブースター接種率においても、欧米を凌駕してきたことです。そのため長期的には免疫が抑制され、さらには感染増強抗体の出現が懸念される状態になっています。

 以上の要因が重なったことによって、韓国では、欧米諸国を越える感染爆発が起こったと考えられるのです。(続く)