人はなぜ依存症になるのか 脳を支配される人々(1)

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 現代は依存症の時代だと言われます。近代社会と共に誕生したアルコール依存症に始まり、われわれの世代ではシンナー依存症がありました。また、非合法の麻薬や覚醒剤の依存症は、人々を社会生活から脱落させてきました。依存症は、こうした物質の依存に留まりません。ギャンブル依存症にゲーム依存症やスマホ依存症、過食症という食べ物依存症やストーカーという一種の対人依存症まであります。現代人はこうした様々な依存症に陥り、豊かなはずの社会の中でもがき苦しんでいます。

 なぜ現代人は、これほど依存症に陥りやすくなったのでしょうか。今回のブログでは、もっとも身近な依存症として存在する、スマホ依存症について検討してみたいと思います。

 

脳を支配される生物

 唐突ですが、寄生虫の話しから始めましょう。

 皆さんはロイコクロリディウムという寄生虫をご存知でしょうか。ロイコクロリディウムは鳥を最終宿主とする寄生虫です。普段は鳥の直腸に吸着して暮らしており、体表から鳥の消化物を吸収して栄養としています。鳥の直腸で卵を産み、その卵は糞と共に排出されます。カタツムリが鳥の糞を食べると卵は消化器内で孵化してミラシジウムという幼生になります。

 恐ろしいのはここからです。幼生は成長するとカタツムリの触角に移動します。異物を感じたカタツムリは触角を回転させると、その触角があたかも脈動する芋虫に見えるようになります。

 

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 上の写真は、ロイコクロリディウムの幼生が触覚に入り込み、芋虫のように蠢いている様子です。その姿は、まさに本物の芋虫のように見えます。

 さらにこの寄生虫は、カタツムリの行動にも影響を与えます。カタツムリは通常鳥などから捕食されないように夜行性の行動をとります。ところがロイコクロリディウムに寄生されたカタツムリは、昼に行動するようになり、葉の表面に出てきます。つまり、寄生虫によって都合のいいように行動を支配されるようになるのです。

 こうして葉の上でうごめく芋虫のように見えるカタツムリは、鳥に捕食されます。捕食されたロイコクロリディウムは、鳥の消化管の中で成虫に成長し、卵を産んで鳥の糞と一緒に排出させます。そして、糞を食べたカタツムリに寄生して別の鳥に食べさせます。これがロイコクロリディウムという寄生虫のライフサイクルです。

 

行動を支配される人たち

  なぜこんな話しを持ち出したかというと、ある光景を見たときに、ロイコクロディウムに寄生されたカタツムリを思い出したからです。

  わたしは以前、住まいの近くにある公園で、週に2,3度くらいジョギングをしていました。夕食をとって一休みしてからだったので、夜の9時過ぎくらいの時間帯だったでしょうか。公園の中を走っていると、ある時期からスマホを手に携えた人が集まってくるようになりました。彼らは何をするわけでもなく、またお互いに会話をするわけもなく、一人一人がスマホを片手に公園の中をさ迷うように歩いているのです。

 公園に集まってくる人は次第に増えていきました。そして、ついには走るのに邪魔になるくらいに、多くの人が夜の公園に集まるようになりました。しかも彼らはスマホを眺めているだけで、何をしているのか、何をしたいのか見当もつきません。その姿は異様でした。まるで何かに操られ、行動を支配されて公園に集められているかのようでした。この姿が、わたしにはロイコクロリディウムに寄生されたカタツムリのように見えたのです。操られた人たちは、カタツムリとは反対に、夜行性にさせられていましたが。

 

脳を支配される人たち

 わたしは今もスマホを持っていないため(この春から病院でスマホを持たされ、悪戦苦闘していますが)、当時の人たちが何をしていたのかはよくわかりません。時の経つことも忘れて、何かを一生懸命にしていたようには見えました。それは強制ではなく、自ら進んで楽しみのために行っていたのかも知れません。しかし、何も分からない人から見ると、その姿は知らず知らずのうちに操作され、自らの意志とは別のものに操られているようにしか見えないのです。

 同じような光景は、至るところで見ることができます。例えば電車に乗ると、ほとんどの人がスマホを眺めています。

  

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 上の写真のような状態は、もはや日常的な光景になっているでしょう。電車の中で本を読んでいたり、話をしている人(今はコロナでそれも難しくなっていますが)を見るとほっとするのは、わたしだけでしょうか。

 先に述べた公園の風景は、どうもゲームによるもののようです。時期的に合致しているかどうかは分かりませんが、ポケモンGOというゲームによって、多くの人がいろいろな場所に殺到しました。

  

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 上の写真は、ポケモンGOによって人々が押し寄せた、東京の日比谷公園の様子です。これだけの人が殺到するのは、通常は何らかの非常事態が起こったときでしょう。しかし、これがまさか「ポケモン」を集めるためだったとは、本当に驚愕の事実です。

 

スマホに依存する人々

 現代の人々は、1日4時間以上をスマホに費やしていると言われています。これは異常なことではないでしょうか。

 スマホが本格的に普及したのは、たかだかここ10数年の話しです。その間に急速にスマホを使う人が増え、今ではスマホを持っていないのはごくごく少数派です。若い人でスマホを持っていなければ、友人の仲間に入ることすらできないでしょう。スマホに接する時間はどんどん増えていっています。スマホに接する時期も早まっており、なかには乳幼児期からスマホを触らせる母親がいるほどです。

 この現象を、時代の流れだと片付けてしまってもいいのでしょうか。わたしは、スマホが日常生活に入り込みすぎている現在の状況は、非常に危険な現象であると思います。なぜなら、人々はますますスマホに依存するようになっており、それが人々の健康を害するだけでなく、スマホ依存症という精神疾患にまで至る可能性すらあるからです。スマホは便利だから必要であるという域を、すでに超えてしまっているのです。

 

 次回のブログでは、スマホがもたらす様々な問題について検討したいと思います。(続く)