ポリコレはなぜ危険なのか 国家を破壊しようとする人々(4)

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 前回のブログでは、共産主義国家では例外なく独裁者が誕生し、人民の平等が実現されるどころか、より不平等性が増した強固な階級社会が形成されることを指摘しました。

 そのため共産主義思想に心酔する人々は、生き残りをかけて新たな戦略に望みを託すことになります。今回のブログでは、その戦略について検討したいと思います。

 

赤狩り

 第二次大戦後の冷戦時代に、米ソの対立の激化を背景に、アメリカでは「赤狩り」の嵐が吹き荒れました。赤は共産党およびその支持者を指しており、アメリカ国内の様々な組織から共産主義者が摘発されました。その対象は政治家、連邦職員、マスメディア、文学者、映画関係者にまで及びました。多数の要人が弾劾され、特に原爆製造の機密情報をソ連に流したとして摘発されたローゼンバーグ夫妻は、死刑に処されました。ハリウッドでは追放された映画人は300名以上にのぼり、その中にはあのチャールズ・チャップリンも含まれています。

 この運動により、アメリカには共産主義者は存在できなくなりました。では、共産主義者は、アメリカから本当に消え去ったのでしょうか。

 

リベラルという隠れ家

 実は共産主義者は、「進歩的なリベラル派」と名前を変えて存在し続けました。

 リベラルとは本来、自由主義リベラリズム)の立場を採る人々を指す言葉で、ヨーロッパでは個人の自由を尊重する思想を意味していました。ところがアメリカでは、社会的多様性や公正を重視し、穏健な革新を目指す思想がリベラルと称されるようになります。その背景には、個人の自由を可能にするためには、国家の支援が必要になるという考えが存在しました。そして、社会保障福祉国家を目指す政治的な活動として、一定の勢力を形成して行きます。彼らは進歩的なリベラル派と呼ばれ、主に民主党の支持層になりました。

 このリベラルという社会自由主義思想の中に、共産主義者は入り込みました。そして、多様性や公正を重視しながら、社会の平等を目指す活動を続けるようになったのです。

 

トランプの出現で共産主義思想が鮮明に

 リベラルの中に隠れた共産主義者は、社会保障の充実や福祉国家を目指す活動を行い、自由主義社会の中でそれなりに共存を果たしました。しかし、トランプ大統領の出現によって、本来の共産主義思想が頭をもたげるようになり、その性格が鮮明になって行きます。なぜならトランプ大統領の政策は、共産主義思想とは対極に位置し、その政策の実現は共産主義の夢を打ち砕くことに繋がるからです。

 トランプ大統領アメリカ第一主義を訴え、アメリカを偉大にするというスローガンを掲げたことには、アメリカの自由主義、資本主義をより強固にするという目的がありました。共産主義者には、その姿は、ソ連を崩壊に導いたレーガン大統領を彷彿とさせたのではないでしょうか。

 さらに共産主義者の神経を逆なでしたのは、トランプ大統領の超現実的な政策です。アメリカの国益を最優先するために、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目標にしたパリ協定から離脱し、環太平洋パートナーシップ協定 TPP からも離脱しました。果ては、不法移民を排除するためにメキシコとの国境に壁を造ると宣言して、就任後には本当に壁の製造に着手しました。

 決定的だったのは、対中強硬政策でしょう。ファーウェイなどの中国テクノロジー関連企業の封じ込めに始まり、中国製品に追加関税をかけて輸入制限措置を行い、不均衡貿易を是正するためとして中国との経済戦争に乗り出しました。

 こうしたトランプ政権の政策に危機感を募らせたのが、アメリカ国内に存在する隠れ共産主義者たちです。

 

何が何でもトランプを引きずり下ろす

  トランプ大統領は、自由主義と資本主義を守り、アメリカ国民の生活を守るための現実的な政策を次々と繰り出しました。さらに、中国との対決姿勢を鮮明にし、世界の覇権を握ろうとする中国共産党を弱体化させるべく、経済的な攻撃を開始しました。

 これに慌てたのが、リベラルの中に隠れていた共産主義者です(この中には、トランプによって共産主義への親和性を覚醒させられた、無自覚共産主義者もいたでしょう)。このままでは自分たちが抱いてきた共産主義の夢が完全に潰されてしまう。さらに、自分たちの存在意義が失われてしまう。そう感じた彼らは、何が何でもトランプを引きずり下ろす作戦に出ました。

 それが如実に現れたのが、昨年11月に行われたアメリカ大統領選挙です。選挙では、共産主義者の行動様式が典型的に現れました。その行動様式とは、「正しいことを実現するためには、どのような手段を用いても構わない」というものです。社会主義国では、理想の社会を実現するという正しい目標を実現するために、独裁者は恣意的に政治を行い、自国民を大量に虐殺しました。

 それと同様に今回の選挙では、バイデンを当選させるという正しい結果を導くためには、どのような手段を用いても構わないという行動様式が出現しました。郵便投票やドミニオンによる大規模な不正集計と、アメリカ議会にトランプ支持者(?)が乱入して4人が死亡した事件に対する偏向した報道などがそれに当たります。その結果バイデンが大統領に選ばれ、彼らの目的は達成されました。今回の選挙は民主主義を標榜する国のそれではなく、まるで社会主義国の選挙のようでした。

 

ポリコレやキャンセル・カルチャーの嵐

 バイデン大統領の誕生に大きな役割を果たした隠れ共産主義者は、今後のアメリカ社会で、より大きな力を発揮することになるでしょう。

 ポリコレでは、性別・人種・民族・宗教などに基づく差別、偏見をなくすことが叫ばれています。しかし、そうした正しい目標を実現しようとする抗議活動のなかで、商店の破壊や放火、略奪などを主導する事件が発生したり、ワシントン州シアトル市では市の中心部が武力で占拠され、一時的にアンティファ自治区が宣言されたことがありました。また、ワシントンやリンカーンといった歴代の大統領を非難する運動が起こり、この運動はアメリカ合衆国の歴史から誇りを奪い、さらに建国の神話を崩壊させる可能性すらあります。

 ポリコレと並んで、キャンセル・カルチャーも盛んになってきました。キャンセル・カルチャーは、個人や組織、あるいは思想などの一側面や一要素だけを取り上げて問題視し、その存在全てを否定するかのように非難します。さらに、それは多人数で一斉に行われるため、非難を受けた個人や組織は、社会的に抹殺されることすら起こります。トランプ大統領が非難され弾劾を受けたことや、日本では東京オリンピックパラリンピック組織委員会森喜朗会長が、女性蔑視発言をしたとして内外から一斉に非難を受けて会長を辞することになったことは、まさにキャンセル・カルチャーの典型例です。

 

共産主義者の行動原理

 ポリコレやキャンセル・カルチャーにみられるこうした攻撃的、破壊的側面は、それを行っている共産主義者の行動原理に拠っていると考えられます。

 マルクスは、プロレタリアート階級闘争によって資本主義社会を一掃し、プロレタリアートが支配する社会が到来すると予言しました。究極の平等社会を実現するためには、社会を支配している資本家を階級闘争によって倒し、資本主義社会を一掃しなければなりません。 つまり、支配者と闘って彼らを打倒し、現在の社会を破壊することが共産主義運動の原点にはあるのです。

 現代の共産主義者が、まさかそんなことを考えているわけはないと言われるかも知れません。ポリコレやキャンセル・カルチャーを推進している人たちも、自分たちは平等で正しい社会の実現を目指しているだけだと主張するでしょう。

 しかし、もし彼らが社会や国家を破壊しようなどと思っていなければ、さらには自分たちを共産主義者であると意識していなければ、逆に社会や国家が破壊される可能性が高まります。なぜなら、意識していない行動原理は無意識の中で改変されずに継承され、そのままの形で存在し続けるからです。そして、実際に行動を行う際に無意識の中から頭をもたげ、有無をも言わせぬ力で本人の行動を支配してしまうからです。彼らが自らを共産主義者であると認識し、理想の社会を実現しようと意識している方が、まだ行動をコントロールしたり制御したりすることが可能になるでしょう。

 

自由主義社会に巣食うがん細胞

 共産主義者共産主義者と自覚しないまま、自由主義社会で活動することほど危険なことはありません。共産主義者が自らの意見を表明し、自らの理想に沿って行動できるのは、彼らが自由主義社会の中で運動を起こしているからです。これが社会主義国であれば、自らの意見を自由に発信することはできないでしょう。その内容がどうであろうと、強力な発信者は、社会主義国を支配する独裁者の逆鱗に触れることになるからです。

 一方自由主義社会であれば、共産主義者は自由に意見を発信し、自由主義社会を攻撃することになります。彼らは共産主義者の行動原理に従って、資本主義社会、さらには自由主義社会を打倒し、新たな理想社会を構築しようします。彼らが自らを共産主義者と自覚していなければ、その破壊活動は歯止めが利かなくなるでしょう。自らの行動原理を意識していない者は、自らの行動を制御することができないからです。果てない破壊活動は留まることを知らず、ついには本当に社会や国家を破壊してしまうかも知れません。

 その生態は、人体に巣食うがん細胞のようです。がん細胞はもとは正常な細胞でした。その細胞ががん化することによって、無限の増殖を始めます。無限の増殖は身体の細胞間のつながりと調和を無視し、やがて臓器を破壊して人を死に至らしめます。

 同じように、共産主義者によるポリコレやキャンセル・カルチャーは、社会や国家の調和を乱し、やがて社会や国家を破壊してしまう危険を内包しています。差別をなくして平等な社会を目指すという美しいスローガンの裏に隠された危険を、わたしたちは見逃さないようにしなければなりません。(了)