東京五輪はなぜ無観客になったのか(番外編) アスリートたちが日本を救った

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 東京五輪は8月8に閉会式を迎え、19日間にも及ぶスポーツの祭典に幕が閉じられました。日本選手の活躍もあって、大会は大いに盛り上がりました。選手たちは口々に、大会を開催してもらえたことに対して感謝の言葉を述べました。

 しかし、本当に感謝をしなければいけないのは、わたしたち日本国民の方です。なぜなら、選手たちの活躍が日本を救ってくれたからです。

 今回のブログでは、番外編として、アスリートたちがなぜ日本を救ったのかを述べておきたいと思います。

 

五輪開催に感謝するアスリートたち

 メダリストたちへのインタビューで、彼らは口々に支えてくれた人たちへの感謝を述べました。それに加えて、大会関係者やボランティアの人たちへの感謝を、さらに五輪を開催してくれたこと自体への感謝を述べました。

 なぜ彼らは、大会が開催されたことに感謝の念を述べたのでしょうか。それは東京五輪開催の直前まで、大会の中止を訴える声があったからです。アスリートたちは、本当に大会が開催されるのか、突然の中止によって長年の準備が水泡に帰すことにならないか、不安な日々を送っていたことでしょう。

 それが無観客とはいえ大会が開催され、自分たちのパフォーマンスを発揮する機会が与えられたことに対して、アスリートたちは感謝の言葉を表明せずにはいられなかったのだと思われます。

 

五輪開催と感染拡大は無関係

 現在全国で拡がっている新型コロナウィルスのデルタ株は、すでに5月には日本に入っていることが分かっています。感染力の強いこのデルタ株が、東京では7月中旬頃から増え始め、7月下旬から感染拡大を起こしています。

 これに対して、東京五輪では感染対策が徹底して行われ、選手を始めとした大会関係者は選手村で生活し、一般市民との接触は極力抑えられました。さらに多くの競技場では無観客で大会が開催されたわけですから、今回の感染の急拡大と五輪開催は無関係であると考えられます。

 わたしは、感染対策を徹底したうえで、プロ野球Jリーグや大相撲のように有観客で東京五輪を行うべきだと考えてきました。しかし、無観客でおこなった唯一の利点は、感染拡大を五輪のせいにされずに済んだことだと思います。

 

もし五輪が開催されなかったなら

 感染力が従来株の1.95倍といわれているデルタ株は、五輪を開催してもしなくても全国に拡大したでしょう。そして、もし東京五輪が開催されていなかったなら、マスコミを始めとした識者たちは、なんと言ったでしょうか。

 

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            (JX通信社 新型コロナウィルス最新感染状況マップ)

                  図1

 

 図1は、昨年の11月1日から今年の8月8日までの、全国の感染者数(正確にはPCR陽性者数)の推移です。感染の拡大に伴って、政府は7月12日から東京を非常事態宣言の対象に加えました。それにもかかわらず、その後も感染者数が急増しました。もし、五輪が開催されていない状況でこのような急拡大が起こったなら、マスコミや識者は声を大にして次のように叫んだのではないでしょうか。

 

 ついに日本も、新型コロナウィルスの感染爆発が起こった。これまでにない医療崩壊が起こり、死者も急激に増加するだろう。そうならないためには、全国一律で非常事態宣言を行わなければならない。ただし、従来の非常事態宣言では防げない可能性がある。そのため法改正を行って、要請に従わない者には、罰則を伴った措置を行うことが必要になるだろう。

 

 上述の意見は、決して大げさな表現ではありません。オリンピックが開催されていても、これに近い意見が見え隠れしていたからです。

 もし、このような過激な意見が大半を占め、現実に強制力を伴った非常事態宣が全国で施行されたらどうなったでしょうか。立ち直りかけた経済は大打撃を受けて失速し、特に政府から目の敵にされている飲食業は壊滅的な被害を被るでしょう。社会には暗い雰囲気が充満し、人々は息苦しい日々を送ることを強いられ続けたでしょう。そして、失業者の増加と相まって、多くの自殺者を生むことに繋がったのではないでしょうか。

 

日本では死者数は増えていない

 ちなみに、感染者の急拡大にもかかわらず、日本では死者は増えていません。

 以下は11月1日から8月8日までの、日本における感染者と死亡者の推移です。

 

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           (JX通信社 新型コロナウィルス最新感染状況マップ)

                  図2

 

 図2のように、 第3波、第4波と比べると、第5波は感染者の増加に比して、死亡者が増加していません(もう少し経過をみる必要はありますが)。これはデルタ株の性質に、65歳以上の高齢者にワクチンを接種した効果が加わった結果であると考えられます。

 こうした状況にもかかわらず、もし強制力を伴った非常事態宣言を全国で施行したなら、日本は取り返しのつかない事態になっていたでしょう。

 

閉会式でみたフランスの日常

 閉会式の後半で、3年後に五輪が開催されるフランスの映像が映し出されました。この映像を観て、これは何年前の映像なのだ、またはCGによって創られた仮想の空間なのかと思った人が多かったのではないでしょうか。なぜなら、人々が大挙して集まり、フランスの小旗を振りながら大歓声を上げていたからです。

 

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 しかし、金メダルと銅メダルを掲げた柔道のリネール選手が映し出されると、これが現実のフランスの映像であると気づかされました。そうであるなら、フランスでは新型コロナウィルス感染症は、完全に克服されたのだと理解した人が多かったのではないでしょうか。

 そんなことはありません。8月8日のフランスの新規感染者数は2万5755人です。フランスの人口が6706万人ですから、1億2626万人の日本でいえば、4万8千人以上の感染症が出ていることになります。ちなみに、8月8日の日本の新規感染者数は1万5035人でした。

 これがヨーロッパの現実なのです。

 

アスリートたちが感動を与えてくれた

 東京五輪でのアスリートたちの活躍は、わたしたちの生活に、喜びと感動と活気をもたらしてくれました。暗く沈みがちだった日常に、明るさを与えてくれました。日本選手の活躍は、わたしたちに失いかけた自信さえ取り戻させてくれました。

 活躍した選手だけではありません。金メダルを期待されながら、思うような結果が残せなかった選手たちもいました。オリンピックという舞台は、4年に一度、今回は5年に一度という舞台であり、それに比べると極めて短時間で結果が出てしまう残酷な場所でもあります。多大な努力が一瞬で水泡に帰してしまう場面を、わたしたちは何度も目の当たりにしました。それにもかかわらず、潔くこの現実を受け入れ、前を向くアスリートの姿は、苦難を乗り越える道標をわたしたちに示してくれているようでした。

 

アスリートたちが日本を救ってくれた

 それだけではありません。アスリートたちの活躍は、日本社会を奈落の底に突き落とそうとする、最悪の政策に至る途を回避させてくれました。

 それは、直接的な働きかけではありません。彼らの活躍が、政治に直接影響を与えたわけではありません。彼らの活躍が間接的に、新型コロナ感染症に対する過剰な恐怖感から、わたしたちを解き放ってくれました。

 彼らは人間の限界に迫るようなハードな運動をし、競技によっては非常に激しいコンタクトをしていながら、新型コロナウィルスに感染しませんでした。大会を通じて競技に参加ができなかったのは、検査で陽性になったアーティスティックスイミングのギリシャ代表メンバー5人だけでした。感染に充分に気をつければ、世界中から選手を集めて競技会を開催できることを、今回の大会を通じて世界に示すことができたのです。

 そして、選手たちは直接的にはわたしたちに希望と勇気を与え、明るい日常生活を取り戻してくれました。さらに間接的には、日本を壊滅させかねない、過剰反応とも言える政策から距離を置くことを可能にしてくれました。

 わたしは、何年か後には東京五輪を開催してよかった、あのときのアスリートたちが、コロナの風評被害で壊れかけていた日本社会を救ってくれたと評価されると思います。

 

 アスリートの皆さん、そしてボランティアを含めたすべての大会関係者の皆さん、本当にお疲れ様でした。そして、日本を窮地から救って下さって本当にありがとうございました。(了)