日本はこれまで、新型コロナウィルス感染症に対して感染を急拡大させることなく、諸外国に比べればさざ波程度の拡大に留めました。そして、超過死亡率がマイナスになるほどまで、死亡者数を抑えてきました。
ところが日本でも、これまでにない感染の急拡大が起こっています。東京五輪開催中の時期に起こった感染拡大に対して、わたしたちはどのように対応したらいいのでしょうか。
東京を中心に感染が拡大
7月に入ってから東京で、新型コロナ感染症の拡大が止まらなくなりました。7月27日には第3波での最高感染者数である2520人を超える2848人を記録し、28日には初の3千人台である3177人を、さらに31日にはついに4058人を記録しました。
(JX通信社 新型コロナウィルス最新感染状況マップ)
図1
図1でみるように、第3波、第4波と比べると、第5波は非常に急速な拡大であることが分かります。この拡大は、従来のコロナウィルスの1.95倍の感染力があると言われるデルタ株の感染拡大によるものだと考えられています。
この急速な拡大は、東京都の医療崩壊と死亡者の急増をもたらすのでしょうか。
イギリスでのデルタ株感染を検証する
今後の日本の感染状況を占うために参考になるのが、やはりデルタ株によって感染爆発を起こしたイギリスの状況です。
イギリスでは6月頃からデルタ株による感染が増え始め、UEFA EURO2020(サッカー 欧州選手権)やウィンブルドンテニス、全英オープンゴルフが有観客で行われたことと相まって、新型コロナウィルスの感染者(正確にはPCR陽性者数)が急増しました。
(日本経済新聞 新型コロナウィルス感染世界マップ)
図2
図2は、デルタ株によるイギリスの感染爆発を現したクラフです。7月18日には5万人を突破し、翌19日には5万4183人を記録しました。それにも拘わらイギリスのジョンソン首相は、半年間にわたって続いた行動規制を7月19日から完全に解除すると発表しました。同じ発表を管首相が行ったら、分科会の尾身会長は卒倒してしまうのではないでしょうか。
死亡者は増加していない
感染者が急増しているにも拘わらず、ジョンソン首相が行動規制を解除したのは、死亡者が増加していないからです。
以下は、同時期の死亡者数の推移です。
(日本経済新聞 新型コロナウィルス感染世界マップ)
図3
図3のように、感染者の急増にも拘わらず、死亡者は驚くほど増えていません。感染者と死亡者を比較したのが以下のグラフです。
(日本経済新聞 新型コロナウィルス感染世界マップ)
図4
図4のように、今回の感染急増にも拘わらず、死亡者は増えていません。
死亡者は今後増加してくるのだという指摘もあるかと思います。前回の感染爆発をみてみると、感染者のピークは1月7日(6万2556人)、死亡者のピークは1月21日(1826人)であり、2週間のタイムラグがあります。それに従えば、7月19日に感染者のピークを迎えたのだとすれば、死亡者のピークは8月2日あたりになります。死亡者は微増傾向にありますが、8月上旬に死亡者がピークになるような増加を示していないのが現状です。
東京でも死亡者は増えていない
同じように、感染者が急増している東京でも、死亡者は増加していません。
以下は、東京の感染者数と死亡者数の推移の比較を現したグラフです。
(JX通信社 新型コロナウィルス最新感染状況マップ)
図5
図5でみるように、東京では感染者の急増にも拘わらず、死亡者は今のところ増加していません。今後増加してくるという指摘もあるでしょうが、現状では死亡者はむしろ減少傾向にあると言えるでしょう。
デルタ株の性質は
デルタ株は、従来株の1.95倍の感染力があると言われています。新型コロナ感染症自体が旧型コロナの6倍の感染力がありますから、デルタ株はこれまでの風邪に比べて、約12倍の感染力があることになります。今回の急激な感染拡大は、この感染力によっていると思われます。
したがって、東京に緊急事態宣言が出されても感染拡大が止まらないのは、やむを得ないことかも知れません。問題は、感染した後にどうなっていくかです。
以下は、以前のブログでも紹介した、インドでの感染者数と死亡者数の相関を示したグラフです。
(デイリー新潮 5月20日配信)
図6
図6は、東京大学AI生命倫理・疫学解析研究コア統括責任者の伊東乾氏による医療統計解析です。伊東氏は「勾配が急な線は、昨年10月から今年2月の従来株への感染者数と死者数の相関を示し、緩い線は今年2月から4月23日までの、同じ相関を示しています。後者のほうが感染は広がりやすい代わりに、致死率が少ないことがわかります」と指摘します。
その致死率は、図6によれば30万人で約1800人の死亡者が出ていますから、
1,800÷300,000×100=0.6(%)
となります。
日本での新型コロナウィルス感染症では、7月17日までの日本の感染者数は83万4190人、死者は1万5029人ですから、日本での新型コロナウィルス感染症の致死率は、
15,029÷834,190×100≑1.8(%)
となります。
つまりデルタ株の致死率は、従来株の3分の1程度だと推察することができます。
ワクチン接種による影響は
こうしたデルタ株自体の特徴に加え、ワクチンによる影響も考えられます。イギリスでデルタ株による感染爆発が起こっているにも拘わらず、死亡者が増加していないのはワクチン接種による影響が大きいからです。
以下は、ワクチンを2階接種し終わった人の国別の割合です。
図7
図7のように、イギリスでは56%の人がワクチン接種を終わっています。ワクチン接種による効果が、死亡者の減少に影響を与えているのだと考えられます。
では、28%しか接種が完了していない日本では、ワクチンの効果は期待出来ないのでしょうか。
日本でもワクチンの効果が現れる
日本でもワクチンの効果は期待できます。それは日本では、高齢者のワクチン接種が進んでいるからです。
図8
図8のように、日本国内ではすでに65歳以上の高齢者の75%がワクチン接種を済ませています。
では、高齢者のワクチン接種が、全体の死亡率の減少に影響を与えるのはどうしてでしょうか。それは、新型コロナウィルス感染症では、高齢者の死亡が圧倒的に多いからです。
図9
図9のように、新型コロナウィルス感染症によって死亡する人は、60代以上にほぼ限られています。そのため、65歳以上の高齢者に率先してワクチン接種を行うことは、非常に意味のあることだと考えられます。(逆に言えば、50代以下の人、特に死亡率が0%の30代以下の人には、ワクチン接種の意義はないと言えるでしょう。さらに、遺伝子を直接体内に入れるワクチンは、中長期的な副反応のデータがないため、できる限り避けることが望ましいと私は思います)。
デルタ株への対応は
以上の検討より、わたしは今回のデルタ株の急速な感染拡大に対しては、必要以上に警戒をしなくてもいいのではないかと考えています。今まで通り人混みではマスクを着用し、手洗い、うがいを徹底して行うことを継続しましょう。むしろ家にこもってしまわずに、食事と睡眠を充分に取りながら、身体を動かして体力を蓄えることの方が感染の予防になるでしょう。
同じ理由で、東京五輪を無観客にする必要はなかったとわたしは思います。野球やサッカーや大相撲と同じように、感染対策を徹底したうえで有観客で行うことができたのではないでしょうか。アスリートには、その素晴らしいパフォーマンスを多くの観客の前で披露してもらいたかった。コロナ渦の状況においても日本人選手が躍動し、その活躍が著しいだけに残念でなりません。
ただ、唯一無観客にして良かった点があるとすれば、それは今回の感染拡大が、東京五輪にせいにされずに済んだことではないかと思います。(了)