祖国を貶める人々 憲法九条の信奉者(3)

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 前回のブログでは、憲法九条を宗教のように信奉する平和主義者は、現実の世界情勢を理解できず、日本を誤った方向に導く可能性があることに言及しました。そして、ヨーロッパでは第一次世界大戦後に跋扈した平和主義者によって、ヒトラーの台頭と躍進が後押しされ、結果的に第二次世界大戦を招いたことについても検討しました。

 この史実、つまりナチスとヨーロッパ諸国との関係は、現在の中国と周辺諸国の関係によく似ています。それは、日本にとって決して看過してはならない事実です。

 今回のブログでは、この点について検討したいと思います。

 

世界の覇権を握ろうと目論む中国

 「中華民族の偉大なる復興」を掲げる中国の習近平国家主席は、中国国内の繁栄のみならず、世界の覇権を握ろうと目論んでいると言われています。

 産経新聞論説副委員長の佐々木類氏は、『日本が消える日』1)の中で次のように述べています。 

 

 習近平国家主席は『中国夢』を掲げ、清朝以来の版図復活を目論んでいる。それでは足りぬとばかり、世界第2位となった巨大な経済力を背景に『一帯一路』を推し進める。途上国への返済不能な巨額融資は『債務の罠』と呼ばれ、人民元で途上国首脳の横面を張ったり、賄賂漬けにしたりと、その手口は年々エスカレートしている。返済不能と見るや重要港湾や空港、電力施設などインフラを借金のカタに押さえにかかるあくどさだ」(『日本が消える日』4頁)

 

 一帯一路は、ユーラシア大陸からアフリカ、ヨーロッパを陸路と海路で結ぶ巨大経済圏構想ですが、一方で、重要港湾や空港を借金のカタに入手することによって、軍事的拠点を世界に拡げる目的も持っていると言われます。その実例として、スリランカ南部のハンバントタ港の運営権が中国企業に譲渡された事例や、ギリシャ最大の港であるピレウスを中国遠洋海運集団(コスコ・グループ)が事実上運営することになった事例が知られています。一帯一路とは別ですが、オーストラリア北部のダーウィン港の管理権が中国嵐橋集団(ランドブリッジ)に渡った事例も同様の手法に拠っています。

 

中国に宣戦布告したトランプ大統領

 2018年にトランプ大統領が、中国の通信機器大手のファーウェイの製品を使わないように友好国に要請しました。このニュースは、日本では中国の一企業にそこまでするのかという驚きを持って報道されました。しかし、米軍やサイバー安全保障専門家らの間では、中国系企業が大規模なサイバー攻撃を行って大量の機密情報や知的財産を盗み出していることが問題になっており、その懸念からファーウェイが名指しされたのです。

 加えてトランプ大統領は、中国に対して関税の引き上げを相次いで断行しました。中国側もアメリカへの関税引き上げで応酬したため、一連の報復合戦は米中間の貿易戦争の様相を呈しました。

 2018年10月4日には、アメリカのシンクタンクであるハドソン研究所で、ペンス副大統領が中国政策について演説を行いました。その中でペンス副大統領は、中国が通貨を操作し、技術を強制移転させ、知的財産を窃盗し、不適切に補助金を配布し、自由で公正な貿易とは相容れない行動を行っていると批判しました。さらに「中国製造2025」を通じて、人工知能などの先端技術の90%を支配するために、アメリカの知的財産を取得するように中国政府が指示をしたとも批判しています。

 

米議会でも

 この演説に先立つ8月に、アメリカ議会も、国防権限法に盛り込む形で輸出管理改革法(Export Control Reform Act  ECRA エクラ)を成立させました。

 佐々木類氏は、これらは銃を使わぬ宣戦布告であると指摘します。

 

 「米国の本気度が伺えるのは、規制の対象としたのが、バイオテクノロジー人工知能など、中国が国家発展のための開発目標としている『中国製造2025』に指定されている分野と、ほぼ同じである点だ。米国はこの国防権限法で、これまで定義されていなかった先端技術なども国家の安全保障に関わるものと定義した。(中略)

 これ以上、中国に先端技術を渡さない ― という、米議会の強い意志の表れである」(『日本が消える日』5頁)

 

 以上のような一帯一路の弊害や、米中間の貿易・情報戦争を、日本は対岸の火事のように傍観してきました。しかし、実は日本こそ、中国の侵略をもっとも受けている国になっているのです。

 

静かに侵略される日本

 わたしたちが他国の紛争を他人事のように傍観し、平和を享受していると思っている間に、日本は中国よって静かに侵略されました。

  中国資本はわたしたちの知らない間に、日本各地の土地を買い漁っています。佐々木類氏は、次のように指摘します。

 

 「わが国を見ると、少子高齢化による過疎化につけ込まれる形で、北は北海道から南は沖縄と、チャイナマネーがどこまでも合法的にわが国を買い叩いている。

 北海道や沖縄だけではない。長崎の五島列島対馬、鹿児島県の奄美大島、東京都の小笠原諸島新潟市佐渡島にも触手を伸ばす。最近では、埼玉県川口市千葉市にも巨大なチャイナ団地が出現し、地元住民とトラブルを起こしている」(『日本が消える日』26頁)

 

 中国のものになっていくのは、土地だけではありません。日本に移住してくる在留中国人の増加によって、日本そのものが侵食されています。

 

 「このまま日本政府が無為無策で蛇口を絞らず、中国人を来たいだけ来させれば、2020年代の早い時期に在留中国人は100万人を突破し、全在留外国人の4割近くを占めるのは間違いない。

 1995(平成7)年、オーストラリアを訪問した中国の李鵬首相は、当時のキーティング首相に対し、願望を込めてこう語っている。

『日本は取るに足らない国だ。30~40年もしたら、なくなるだろう』」(『日本が消える日』33頁)

 

 李鵬元首相の発言は、根も葉もない妄言であると聞き流すことはできません。わたしが毎年訪れる沖縄の観光地やホテルでは、中国人の方が多いのではないかというほど中国語が飛び交っていました。そのほかの観光地でも、同じような状況だったのではないでしょうか。

 中国の恐ろしいところは、政府と企業と人民が一体になって、海外侵略を行っていることです。一般企業が日本の土地を買い漁り、一般の労働者が日本の会社で働いているようにみえても、その背後には常に中国共産党が存在しています。そして、習近平主席の号令によって、彼らは日本を侵略するために一致団結して行動を起こすのです。

 

 21世紀の戦争は超限戦

 中国は今後の戦争を、従来の武力による戦闘に限定せずに、あらゆる手段で制約無く戦うものとして捉えています。これは、超限戦と呼ばれています。あらゆる手段とは、通常戦に加え、外交戦、国家テロ戦、諜報戦、金融戦、ネットワーク戦、法律戦、心理戦、メディア戦などが挙げられています。

 10月24日に、沖縄県尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域で、中国海警局の船1隻が航行しているのを海上保安庁の巡視船が確認しました。尖閣周辺で中国当局の船が確認されるのは48日連続になります。

 中国は、こうした目に見える軍事行動を執拗に行っているだけではありません。日本に対しても超限戦を仕掛けており、日本の政界、経済界、メディア界などあらゆる業界に親中派が入り込んでいます。欧米諸国が反中に傾くなか、日本では習近平主席の国賓来日が実現寸前にまで至っていたのはそのためでしょう。

 

 以上のような状況を見るにつれ、日本はあらゆる方面から中国の侵略を受け、平和を維持し続けることが難しくなっています。憲法九条を堅持すれば平和が護られると考えることが、いかに現実の世界情勢に則さないものかが分かります。そして、憲法九条を金科玉条のように奉っている間に、日本は今も超限戦で敗れ続けているのです。

 この意味で憲法九条を信奉する人々は、かえって日本の平和を危うくし、さらには日本を貶める危険性が高い人々であると言えるでしょう。(了)

 

 

文献

1)佐々木類:日本が消える日.ハート出版,東京,2019.