祖国を貶める人々 共産主義の信奉者(1)

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 前回のブログで、慰安婦問題の端緒となった吉田清治氏や総理退任後の鳩山由紀夫氏は、幼少期の全能性を復活させて行動し、現実が見えなくなっていたことを指摘しました。そして、そのために「人類のすべての差別に反対」したり、「世界の平和を実現する」といった究極の正義を目指しているつもりが、実際には理想が実現しないばかりか、韓国や中国からいいように利用されて日本を貶める結果に至ったことを検討しました。

 この「幼少期の全能感に浸って現実が見えなくなる」という現象は、他の人々にも共通して認められる現象です。

 今回以降のブログでは、こうした観点から、共産主義を信奉する人々について検討したいと思います。

 

共産主義は究極の理想

 18世紀の半ばから19世紀にかけて欧米各国で産業革命が興ると、資本家階級の優位が確立した一方で、無産の賃金労働者の数が増加しました。経済恐慌が発生するたびに失業する労働者が増加し、労働条件はますます悪化しました。資本家は、機械の発達によって単純化された仕事に婦人や子どもを就け、低賃金で長時間の労働を強いることも珍しくありませんでした。都市では労働者がスラム街を形成し、その生活は劣悪を極めました。

 こうした社会状況の中で、救世主のように登場したのがカール・マルクスです。マルクスエンゲルスと共に、共産主義思想を発展させました。共産主義とは、財産の私有を否定し、生産手段・生産物などすべての財産を共有することによって、貧富の差のない社会を実現しようとする思想です。

 マルクスは、プロレタリア革命によって資本主義社会が一掃され、社会主義社会が到来すると予言しました。社会主義はさらに共産主義に発展します。共産主義は人類史の発展の最終段階としての社会体制であり、そこでは階級は消滅し、生産力が高度に発達して、各人は能力に応じて働き、必要に応じて分配を受けるとされました。

 まさに共産主義は、究極の平等が達成され、理想の社会が実現されるための思想であると言えるでしょう。

 

社会を科学的に分析

 もちろんマルクスは、単なる理想主義者ではありません。フランスのサン=シモン、フーリエ、イギリスのロバート=オーウェンといった思想家たちが提唱した社会主義思想を「空想的社会主義」と呼び、道徳的な観点から社会主義を主張しても意味がないと批判しています。

 マルクスは、ヘーゲル哲学の弁証法フォイエルバッハ唯物論哲学を融合させ、唯物論弁証法で歴史の発展を説明する唯物史観を打ち立てました。それによれば、政治や社会の仕組みといった上部構造はそれ自体で変化するのではなく、経済構造や生産手段といった下部構造によって規定されます。
 さらにマルクスは、社会が発展する原動力は、生産力と生産関係の矛盾から生じる階級闘争にあるとし、歴史はすでに産業社会が新しい労働者階級(彼はこれを産業プロレタリアートと名づけました)を生み出しており、歴史的必然に従って、労働者階級によって革命が達成されると考えました。

 マルクスは、かつて封建主義社会が資本主義社会に一掃されたように、この革命によって資本主義社会が一掃される時が訪れると予言しました。そして、社会主義社会では、生産手段の社会的共有化によって平等主義の理念が達成され、新しい社会形態が実現されると主張したのです。

 

社会主義国に誕生した独裁者 

  マルクスの唱えた社会科学的な分析と予測にもかかわらず、現実の社会では共産主義思想によって、平等な社会は実現されませんでした。

 20世紀にはソ連に続く形で、共産主義を標榜する国々が誕生しました。これらの国々では、社会の平等が実現されるどころか、例外なく独裁者が誕生しました。ソ連スターリン、中国の毛沢東ユーゴスラビアのチトー、ルーマニアチャウシェスクキューバカストロカンボジアポル・ポト北朝鮮金日成金正日などです。独裁者は継承され、現在の中国では習近平北朝鮮では金正恩が独裁者の地位にあります。

 さらに驚嘆すべきは、この独裁者たちが自国民を虐殺(!)していることです。しかも、その数が半端ではありません。共産主義研究者のステファヌ・クルトワの『共産主義黒書〈ソ連篇〉』1)によれば、その数は次のようです。

 

 ソ連       死者 2000万

 中国       死者 6500万

 ヴェトナム    死者 100万

 北朝鮮              死者 200万

 カンボジア    死者 200万

 東欧       死者 100万

 ラテンアメリカ  死者 15万

 アフリカ     死者 170万

 アフガニスタン  死者 150万

                   (『共産主義黒書〈ソ連篇〉』19頁) 

 

 この恐ろしい現実は、なぜ起こってしまったのでしょうか。

 

 旧約聖書の世界が現前した

 マルクス唯物史観によって、世界を捉えようとしました。そのマルクスが発展させた共産主義という思想が、現実の社会制度として実現する際には実に驚くべきことが起こりました。社会主義革命は、科学とは対極にある宗教、具体的に言えば旧約聖書で現わされた世界に倣った形で進められたのです。

 その過程を、最初に社会主義革命が起こったソ連で検証してみましょう。

 国家の頂点に君臨したスターリンは、マルクス主義の思想を独自に解釈し直し、政治権力によって経済構造を改革しても構わないと主張して工業化を押し進めました。その結果ソ連は、農業国から工業国へと転換しました。その後もスターリンは、経済の発展と軍事力の強化を推し進め、ソ連アメリカと並ぶ世界の大国になりました。

 このように社会主義国ソ連は、技術の発達や経済の発展が政治や社会の仕組みを規定したのではなく、独裁者であるスターリンによって恣意的に創り上げられました。

 独裁者スターリンは、旧約聖書で示された神ヤハウェのごとく振舞いました。それは、スターリンが人民の大虐殺を行ったことにも現れています。

 

大虐殺を行った神ヤハウェ
 スターリン民族主義者を弾圧し、何百万人もの農民を餓死させ、共産党員を一掃するほどの大粛正を行ったことは、旧約聖書の神の行動様式をそのまま踏襲したものと捉えることができます。

 旧約聖書には、神が何度も「大虐殺」を行ったことが記されています。『創世記』には、人間が堕落したことを嘆いた神が、ノアと彼の家族を除く人類を大洪水によってすべて死滅させたというノアの洪水の物語(『創世記』6・5-7・24)が記されています。また、頽廃と享楽の町として知られるソドムとゴモラに、神が天から硫黄と火を降らせ、町々と全窪地および全住人と地の植物を滅ぼしてしまった物語(『創世記』19・1-29)が記されています。

 さらに、『出エジプト記』には、神の掟を守らずに偶像を崇拝したイスラエルの民を滅ぼそうとした神を、モーセが必死になってなだめる様が描かれています。神はイスラエルの民を滅ぼすことは思いとどまりましたが、モーセの命によって三千人もの犠牲を出すことになりました(『出エジプト記』31・18-32・35)。

 このように、神は掟を遵守しない人間に対して、容赦のない「大虐殺」を断行したのです。

 

神に倣った大虐殺

  この行動様式は、スターリンにそのまま引き継がれました。彼は、自らの立場を危うくする者、自らの掲げる方針に敵対する者を、社会主義の実現に反目する人民の敵と見なしました。そしてスターリンは神の行いに倣い、社会主義を実現する正当な手段として大粛正を断行したのです。『収容所群島』の作者ソルジェニーツィンによれば、スターリン体制下で粛正された者の数は実に1500万人(!)にも上るとも言われています。

  スターリンによる大虐殺は、人類を一度はほとんど死滅させた神には及びませんが、過去のどのような暴君の行為も児戯に見えるほどすさまじいものでした。彼の行為はもちろん非難に値する暴挙であることには変わりませんが、その一方で、神と同様の全能性を有する存在者であることを立証した点に限れば、彼の試みは成功したと言えるでしょう。

 

他国にも同様の現象が

 ソ連以外で誕生した社会主義国家においても、事情はまったく同じでした。ソ連と同じ路線を歩んだ国もソ連と対立した国も、共産主義を掲げた諸国には、スターリンのようなカリスマ性を有する指導者が誕生しました。彼らの多くは、反対勢力の虐殺を断行して権力を握る一方で、人民からは神のように崇拝されました。

 このように社会主義国家には、神を擬した絶対権力者の存在が不可欠でした。その一方で、共産主義を掲げた各国の指導者たちに、マルクスの理論を踏襲した者は誰一人としていませんでした。「一国社会主義」を掲げたスターリンも、「新民主主義」や「継続革命論」を掲げた毛沢東も、「原始共産制」を目指したポル・ポトも、「社会主義非同盟中立路線」を歩んだチトーも、「主体思想」を掲げた金日成も、マルクスの革命理論とはほど遠い内容をスローガンにしていました。

 それはスローガンの理論的な部分は、自国の社会状況に合わせて、または自らの立場を守るためにいかようにも改変することができるからです。しかし、旧約聖書の示す世界がモデルになって社会構造の根幹が形成されるという特徴は、新たに誕生した社会主義国で認められる共通した現象だったのです。(なぜこのような現象が起こったのかは、2018年2月のブログ『共産主義社会にはなぜ独裁者が生まれるのか』をご参照下さい)。

 

今も中国では独裁政権

 現在も 中国政府は、チベット自治区新疆ウイグル自治区において、文化と宗教を根絶する試みを行っています。チベット亡命政府は、動乱前後の中国によるチベット侵攻および併合政策の過程で、120万人の犠牲者が出たと主張しています。さらに新疆ウイグル自治区では、今も政府の収容所に100万人ものイスラム教徒のウイグル人を投獄し、24時間体制で思想改造を行っています。最近では、中国の内モンゴル自治区で、モンゴル語を廃止して漢語を強制しようという政策が明るみ出て批判を浴びています。

 これらの政策は、ナチスユダヤ人絶滅のために行った虐殺に匹敵する、またはそれを超えるのではないかという指摘がなされています。しかし、これは決して目新しいものではありません。共産主義を掲げる国家が、過去に行ってきた政策を踏襲したにすぎないからです。

 

 以上のような戦慄の事実が繰り返されてきたにもかかわらず、なぜ今も、共産主義の信奉者は存在し続けているのでしょうか。(続く)

 

 

文献

1)ステファヌ・クルトア.二コラ・ヴェルト.(外川継男 訳):共産主義黒書〈ソ連篇〉.筑摩書房,東京,2016.