日本にはなぜ祖国を貶めようとする人々がいるのか(5)

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 前回のブログでは、GHQが行った占領政策であるWGIP(ウォーギルト・インフォメーション・プログラム)と平和憲法の制定を利用して、大東亜戦争を一部の「軍国主義者」が起こした狂信的な戦争と位置づけ、われわれは無理やり戦争に引きずり込まれたのであり、本来は平和を愛する国民であると主張する人々が誕生したことを指摘しました。彼らはさらに、戦後70年以上にわたって日本に戦争がなかったのは、平和憲法を持っていたおかげだと主張し、現憲法の維持を何が何でも死守するという立場をとっています。

 彼らには、実際に戦争を起こしたのは日本国民自身であり、平和が維持されてきたのは日米安保に基づいて日本に米軍が駐留してきたからだという現実はいっさい見えていません。そして、自らにとって不都合な現実を否認し、非現実的な理想論を主張して自尊心を守ろうとする姿勢が貫かれています。

 彼らが行ってきた現実の否認は、さらに新たな主張を生むことになります。今回のブログでは、この点について検討したいと思います。

 

反米の否認

 近代のアメリカとの歴史は、屈辱の歴史でもありました。

 アメリカの東インド隊司令官であったペリーに開国を迫られた江戸幕府は、黒船によって示された技術力と軍事力に圧倒され、200年以上に渡って続けてきた鎖国政策を解き、アメリカとの間に屈辱的な不平等条約を結びました。

 この屈辱感を晴らす目的もあった対米戦争では、緒戦こそ善戦したものの、その後は無残な惨敗を繰り返したあげく、本土は空襲を受けて廃墟と化しました。さらに広島と長崎に人類初の原爆を2発も投下され、対米戦だけで200万人以上の犠牲者を出して敗戦に追い込まれました。

 敗戦後は、GHQから6年8ヵ月にわたる占領政策を受けました。これは、日本人が史上初めて受けた占領でした。軍事機構、国家警察、財閥資本が解体され、農地改革が行われるなど、日本社会の根本的な構造が変更されました。GHQの原案をもとに日本国憲法が制定され、政治の仕組みも抜本的に変革されました。内政は日本政府が担ったもののGHQの影響下に置かれ、日本政府は外交権すら持てない状態が続きました。

 独立回復後は経済発展に舵を切り、奇跡の復興を遂げた日本は、さらにアメリカの経済を脅かすまでに成長します。軍事力で敗北を喫した日本は、経済力でアメリカを打ち負かそうとしたのです。バブル絶頂期の1989年に、日本企業がニューヨークのロックフェラー・センターコロンビア映画を買収したのは、その象徴的な出来事でした。

 しかし、1991年の12月にソ連が解体すると、唯一の超大国となったアメリカは、「グローバル・スタンダード」という名のアメリカ基準の経済戦略を展開して、世界の覇権を再び取り戻しました。一方、91年にバブル景気が崩壊した日本は、長い停滞期を迎えることになりました。

 以上のように、日本はアメリカに何度も苦渋を舐めさせられました。アメリカに対する屈辱感は、日本人の精神を蝕み続けました。そこで、この屈辱感を抑圧し、反米感情を否認することによって、心の安定を図ろうとする人々が現れました。

 

反米感情の行方

 アメリカへの屈辱感を意識し、反米感情を認めることができれば、アメリカとの関係で現実的な行動を採ることができます。アメリカと適切な距離を取りながら、日本にとって必要な付き合いだけをすることができるでしょう。

 しかし、アメリカへの屈辱感を抑圧し、反米感情を否認すると、アメリカと現実的な関係を結ぶことができなくなり、次のような両極端な対応に走ることになります。

 すなわち、反米感情を感じまいとして無理やり親米的な振舞いをするか、反米感情を他に投影して、反米的な振る舞いをする対象に同一化するかです。前者は極端な親米となってアメリカに追従する態度を示し、後者は反米を表明するものに親近感を抱き、アメリカに敵対するものを支援する態度を採ることになります。

 今回取り上げるのは、後者の人々です。彼らは、アメリカに対する態度は直接表明しませんが、アメリカに敵対する勢力を礼賛し、その勢力に追従しようとします。その勢力とは、具体的には旧ソ連、中国、北朝鮮といった共産主義勢力です。

 

共産主義の礼賛

 彼らは、古くはマルクス・レーニン主義を信奉し、共産主義こそ人類史上もっとも進歩した社会思想であると主張していました。北朝鮮を「地上の楽園」と礼賛し、在日朝鮮人北朝鮮帰国事業を推進したこともありました。

 ソ連が崩壊し、北朝鮮の悲惨な現実が明らかになった後にも、親中派と呼ばれる人々が、経済界にも、政界のなかにも存在します。しかも親中派は、野党だけでなく、二階幹事長を代表とする自民党の国会議員にも多数存在しています。最近は安倍内閣の今井 尚哉内閣総理大臣秘書官兼補佐官が、ワシントンの戦略国際問題研究所から対中融和勢力として名指しされました。

 共産主義の国々を礼賛する人々には、共産主義国の現実が見えていません。共産主義国家では、平等な社会という理念とは裏腹に、例外なく独裁者が存在し、歴然とした社会階層が構築され、膨大な数の人民が虐殺されています(その詳細については、2018年のブログ『共産主義社会にはなぜ独裁者が生まれるのか』をご参照ください)。

 彼らになぜ、こうした現実が見えないのでしょうか。それは彼らが、はなから共産主義の現実を見ようとしていないからです。彼らが見ているのは、共産主義が掲げる理想の部分だけです。共産主義の理想しか見えないのは、共産主義が反米の象徴であるからです。

 アメリカへの屈辱感と反米感情を意識できていない人々は、アメリカと敵対するものに共感し、アメリカと正反対のものに理想を見出そうとします。そのため、彼らには共産主義国家の現実が、いっさい見えなくなってしまうのです。

 

親米政権への敵意

 アメリカへの屈辱感と反米感情を意識できていない人々が向かうもう一つの方向が、親米的な日本政府への態度です。アメリカへの屈辱感と反米感情を抱いているにもかかわらず、それらを意識できていない人たちにとって、親米的な態度を採る人々の言動は、全く理解できないでしょう。そればかりか、反米感情が投影されて、親米政権に対して敵意を抱くことになるのです。

 安倍政権は、典型的な親米政権です。しかも、ただの親米政権ではありません。これまでの親米政権は、アメリカへの屈辱感を意識できず、知らず知らずのうちにアメリカに追従する政権でした。しかし、安倍総理アメリカ大統領に追従するだけの総理ではありません。トランプ大統領の信頼を得て、同等に付き合い、時には相談に乗ることもある総理です。アメリカへの屈辱感と敵意を抱く人々にとって、安倍総理は敵意の対象だけではなく、嫉妬の対象でもあるでしょう。

 朝日新聞を代表する左翼マスコミや、それに追従する文化人が、執拗かつ執念深く安倍内閣を攻撃し続ける背景には、こうした敵意と嫉妬の感情が存在していると考えられます。

 

日本を貶めようとする人々の背景

 これまでのブログで検討してきたように、日本人でありながら日本を貶めようとする人々には、次のような特徴があります。

 まず、日本の伝統に裏づけられた、自らが帰属する集団を持っていないことです。そのため彼らは、新たな帰属集団に容易に所属する傾向があり、新たな集団への忠誠を果たそうとするために、それが従来への集団との対立や敵対行動につながりやすいという特徴があります。

 また、彼らは戦争で完膚なきまで打ち負かされた反動で、戦争は一部の狂信的な軍国主義者が起こしたものであり、日本人は平和を愛する国民であると自らを規定します。そして、平和憲法を抱くことで永遠に平和が守られるという、現実の国際関係を無視した空想的平和主義を信奉しています。

 さらに、開国から対米戦争の惨敗、占領から経済戦争の敗北に至る歴史から生まれたアメリカへの屈辱感と反米感情を意識できないことで、共産主義への盲目的な共感と、親米政権への執拗な敵意を示すようになりました。

 彼らに共通するのは、所属感覚のなさと、そこに由来する根源的な不安から、現実を見ずに空想的な理想に固執することです。自分を守るために理想に固執するというこの態度こそ、現実の社会を危機にさらし、日本を貶めることに繋がるのです。その具体例については、テーマを改めて検討したいと思います。(了)