いじめはなぜなくならないのか 森会長へのバッシング(1)

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 「女性蔑視的な発言」をしてマスコミや一部の識者やアスリート、そしてネット民からの総攻撃を受けて、2月12日に東京オリンピックパラリンピック組織委員会森喜朗会長が辞任しました。

 森会長の発言が本当に女性蔑視なのかは別として、森会長へのバッシングは本当に恐ろしいものでした。森会長であれば何を言ってもいい、さらに森会長を非難しない人間は森さんと同罪だと言わんばかりの風潮が生まれ、まさに猫も杓子も森会長を叩き始めました。それは日本だけでなく海外にも飛び火し、ニューヨークタイムズやリベラルな思想をもつアスリート、そしてついにはIOCにも及んで、世界から森会長への非難が殺到しました。こうした日本と世界から浴びせられたバッシングを受けて、森会長は辞任を余儀なくされたのです。

 この構図は何かに似ていないでしょうか。そう、それは日本社会にはびこっている、いじめの構造そのものです。

 今回からのブログでは、森会長へのバッシングを、いじめの構造という観点から検討してみたいと思います。

 

問題の発言はどこでなされたか

 日本から、世界から、これだけの非難を受けたのですから、森喜朗会長の発言はどれほどひどいものだったのでしょうか。女性蔑視と報道されていることからすると、女性を蔑み、貶める目的をもった発言をしたのでしょうか。

 問題の発言は、令和3年2月3日に、日本オリンピック委員会JOC)の臨時評議会でなされました。

 その臨時評議会のあいさつに立った森会長は、会議場が実に立派で羨ましいと褒めることから話し始めました。そして、自分が日本体育協会の会長になった経緯、この建物が「オリンピック会館」と呼ばれるようになった経緯、オリンピックをやらせたくない勢力が私(森会長)や日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長を非難していること、山下会長のリーダーシップが素晴らしいこと、半年後に迫ったオリンピックを何としても実現させたいことなどを、独特の冗談で笑いを誘いながら、延々40分間も語りました。

 

本当に女性蔑視発言なのか

 このあいさつの中で、「女性蔑視発言」とされる部分は次のような内容でした。

 

 これはテレビがあるからやりにくいんだが、女性理事を4割というのは、女性がたくさんはいっている理事会、理事会は時間がかかります(笑)。これもうちの恥を言います。ラグビー協会は倍の時間がかかる。女性がいま5人か。女性は競争意識が強い。誰か一人が手を挙げると、自分もやらなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言されるんです。結局、女性はそういう、あまり私が言うと、これはまた悪口を言ったと書かれるが(笑)、必ずしも数で増やす場合は、時間も規制しないとなかなか終わらないと困る。そんなこともあります。

 私どもの組織委にも、女性は何人いますか。7人くらいおられるが、みんなわきまえておられる。みんな団体競技のご出身で、国際的に大きな場所を踏んでおられる方ばかり、ですからお話もきちんとした的を射た、そういうご発言されていたばかりです。

 

 さて、森会長の発言の真意はどこにあるでしょうか。

 東京オリンピックパラリンピック組織委員会は、女性理事を7人登用している。しかもその女性理事は、国際的に大きな場所を踏んでおられる方ばかりで、話もきちんとして的を射ていて立派である、ということではないでしょうか。

 前半部分の、「女性は話が長い」「女性は競争意識が強い」というのは、後半の組織委員会の女性理事を賞賛するための振りに過ぎません。「うちの恥を言います」とラグビー協会を例に挙げているのも、身内を卑下しながら、組織委員会の女性理事との違いを印象づけようとしている手法だと考えられます。

 また、上記の発言の前には山下会長のリーダーシップが素晴らしいことを、発言の後には半年後に迫ったオリンピックを何としても実現させたいことを述べていることからも、森会長の言いたかったことは、組織委員会の女性を褒めることだったでしょう。

 つまり、森会長の真意は、組織委員会の女性登用に努力していることと、登用された女性理事を賞賛することだったと考えられます。

 もし、これが入試の問題だったとしたら、マスコミが指摘するような女性蔑視の発言だと答えれば、間違いなく落第になるでしょう。

 

話しが長いのは森会長自身

 では、この問題を最初に取り上げた朝日新聞デジタルの記者は、文章の読解力がないのでしょうか。

 当然そうではありません。朝日新聞デジタルは恣意的に文章を切り取り、「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」と森会長が語ったと報じました。上記の文章を読めば、これが森会長の発言の真意でないことは明らかでしょう。

 実際には、本当に話しが長いのは森会長自身です。そのことはご本人も自覚されているようで、上記の発言に続いて次のように語っています。

 

 長くなって恐縮です。山下さんが、私に最初に挨拶しろと、こう言うもんですから。私は長くなるよと。議事進行にご迷惑になるからと。

 

 森会長自身が、「議事進行に迷惑がかかるほど自分の話は長い」と語っているわけですから、「女性が話が長い」ことを非難しようとしていないことは明らかでしょう。

 

非難するための切り取り

 それならばなぜ、朝日新聞デジタルはこのような切り取りを行ったのでしょうか。その理由は明白です。森会長を非難し、貶めるために文章の切り取りを行ったのです。

 この「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」という発言は、その後一人歩きを始めます。この発言はやがて、女性への「差別的発言」という評価を付与されて発信されるようになりました。そして、いつの間にか「女性蔑視発言」という見出しで日本中に、さらには世界中に発信されるようになりました。

 この発信を受けた多くの人が、発言内容を確認しないまま(!)、いっせいに森会長へのバッシングを始めたのです。

 この現象は、実に恐ろしいものではないでしょうか。(続く)