安倍政権はなぜ歴代最長になったのか(8)

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 前回のブログでは、安倍内閣が中空均衡構造であることの負の側面について述べました。強力な権力と権限を持つ中心統合構造のリーダーと異なり、全体の調和を図るリーダーとしての役割を求められる安倍総理は、観光業界、経済界、外務省、親中派議員、習近平国家主席などの各界に忖度しました。そのために急速に進む感染拡大への対応が後手後手に回り、そのことが政権の危機管理が問われる事態に繋がったのだと考えられます。

 では、安倍内閣の対応の遅れが、日本を危機に陥れてしまうのでしょうか。中空均衡構造は、また別の側面をみせることになります。今回以降のブログで検討してみることにしましょう。

 

厚労省の基本方針

 去る2月25日に、厚生労働省の感染対策本部が、新型コロナウイルス感染症対策の基本方針を発表しました。その中で厚労省は、 現在の状況を次のように捉えています。

 

 新型コロナウイルス感染症については、これまで水際での対策を講じてきているが、ここに来て国内の複数地域で、感染経路が明らかではない患者が散発的に発生しており、 一部地域には小規模患者クラスター(集団)が把握されてい る状態になった。しかし、現時点では、まだ大規模な感染 拡大が認められている地域があるわけではない。 感染の流行を早期に終息させるためには、クラスター (集団)が次のクラスター(集団)を生み出すことを防 止することが極めて重要であり、徹底した対策を講じて いくべきである。また、こうした感染拡大防止策により、 患者の増加のスピードを可能な限り抑制することは、今後 の国内での流行を抑える上で、重要な意味を持つ」

 

  「国内の複数地域で、感染経路が明らかではない患者が散発的に発生しており、 一部地域には小規模患者クラスター(集団)が把握されてい る状態になった」とは、事実上水際対策が失敗したことを示しています。感染経路が明らかでない患者が発生したのは、日本国内に感染症が入らないないような有効な入国制限を行うことが出来なかったためです。

 そこで、次の策が「感染の流行を早期に終息させるためには、クラスター (集団)が次のクラスター(集団)を生み出すことを防 止することが極めて重要であり、徹底した対策を講じて いくべきである」として挙げられています。つまり、入ったものは仕方ないので、今後は日本国内で感染症を広げないようにと方針転換を図ったということです。

 

感染拡大を防ぐ方策

 では、感染症を広げないために、厚労省が取った対策はどのようなものなのでしょうか。引き続き、厚労省の基本方針をみてみましょう。

 

 「① 国民に対する正確で分かりやすい情報提供や呼び かけを行い、冷静な対応を促す。(中略)

② 患者・感染者との接触機会を減らす観点から、企業に 対して発熱等の風邪症状が見られる職員等への休暇取得の勧奨、テレワークや時差出勤の推進等を強力に呼びかける。

③ イベント等の開催について、現時点で全国一律の自粛要請を行うものではないが、専門家会議からの見解も踏まえ、地域や企業に対して、イベント等を主催する際 には、感染拡大防止の観点から、感染の広がり、会場の状況等を踏まえ、開催の必要性を改めて検討するよう要請する。

(中略)

① 地域で患者数が継続的に増えている状況では、
・ 積極的疫学調査や、濃厚接触者に対する健康観察は縮小し、広く外出自粛の協力を求める対応にシフトする。

・ 一方で、地域の状況に応じて、患者クラスター (集団)への対応を継続、強化する。

② 学校等における感染対策の方針の提示及び学校 等の臨時休業等の適切な実施に関して都道府県等から設置者等に要請する」

 

 これらの方策には、あまり具体的な内容が書かれていません。「正確で分かりやすい情報提供や呼び かけを行い、冷静な対応を促す」、「風邪症状が見られる職員等への休暇 取得の勧奨」、「テレワークや時差出勤の推進等を強力に呼びかける」、「イベント等の開催について、・・・開催の必要性を改めて検討するよう要請する」、「学校等の臨時休業等の適切な実施に関して都道府県等 から設置者等に要請する」とあるように、対策を呼びかけたり要請したりしているだけです。実際の具体的な判断は、企業に、イベント主催者に、教育委員会に委ねられているのです。

 

医療崩壊を防ぐ

 もう一つの方策は、医療崩壊を防ぐことです。

 

 「① 新型コロナウイルスへの感染を疑う方からの相談を 受ける帰国者・接触者相談センターを整備し、24 時間対応を行う。

② 感染への不安から帰国者・接触者相談センターへの 相談なしに医療機関を受診することは、かえって感染するリスクを高めることになる。このため、まずは、 帰国者・接触者相談センターに連絡いただき、新型コ ロナウイルスへの感染を疑う場合は、感染状況の正確な把握、感染拡大防止の観点から、同センターから帰国者・接触者外来へ誘導する。

③ 帰国者・接触者外来で新型コロナウイルス感染症を疑う場合、疑似症患者として感染症法に基づく届出を行うとともにPCR 検査を実施する。必要に応じて、感染症法に基づく入院措置を行う 

 

 最も恐れることは、感染を心配した人々が病院に殺到し、医療のキャパシティーを超えた事態が発生することです。そして、本当に医療が必要な重症の患者さんが、治療を受けられなくなることです。

 そのため新型コロナウイルスへの感染を心配する人は、病院でなく、新たに整備される帰国者・接触者相談センターにまず相談することになります。その結果、同センターが必要と判断した人々を、帰国者・接触者外来へ誘導します。帰国者・接触者外来とは、指定された病院が、他の患者さんとの接触を避けるために、通常とは異なった導線(経路)で治療を行う外来です。同外来で新型コロナウイルス感染症が疑われる人々にはPCR 検査が実施され、結果が陽性で、かつ肺炎など入院治療が必要な人たちが病院で濃密な治療を受けることになります。

 この方針は、医療崩壊を防ぐために重要なものであると言えるでしょう。

 

病院に受診せずにいられるか

 問題は、人々が発熱などの症状が出たときに、病院を受診せずにいられるかどうかです。厚労省は、帰国者・接触者外来に相談する目安を、次のように述べています。

 

 「 以下のいずれかに該当する方は、帰国者・接触者相談センターに御相談く ださい。

・ 風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く方 (解熱剤を飲み続けなければならない方も同様です。 )

・ 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある方

 

  なお、以下のような方は重症化しやすいため、この状態が2日程度続く場 合には、帰国者・接触者相談センターに御相談ください。

・ 高齢者 ・ 糖尿病、心不全、呼吸器疾患(COPD 等)の基礎疾患がある方や透析を受 けている方

免疫抑制剤抗がん剤等を用いている方 (妊婦の方へ) 妊婦の方については、念のため、重症化しやすい方と同様に、早めに帰国 者・接触者相談センターに御相談ください」

 

 この方針には、次のような問題点が指摘されています。マスコミがこれだけ新型コロナウィルスの危険性を報道する中で、いったいどれだけの人が、病院にかからず家で安静にしていられるのかという点です。

 

政府の新たな対応

 政府の対応は、新たな展開をみせています。 

 安倍総理は2月26日に、政府の新型コロナウイルス対策本部で、今後2週間はスポーツや文化に関するイベントの開催について中止・延期、または規模縮小等の対応を行うよう要請しました。また、韓国での感染拡大を受け、入国申請前の14日以内に韓国の大邱市や慶尚北道清道郡に滞在歴のある外国人の入国を拒否することを発表しました。

 続いて27日に安倍総理は、「何よりも子供たちの健康、安全を第一に考え、多くの子供たちや教員が日常的に長時間集まることによる感染リスクにあらかじめ備える観点から、全国全ての小学校、中学校、高校、特別支援学校について、来週3月2日から春休みまで、臨時休業を行うように」要請しました。

 さらに29日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために要請した小中高校などの臨時休校措置に伴い、休業する保護者の所得減少に対応するための新たな助成金制度を設ける考えを表明しました。また、PCR検査を保険適用とし、簡易検査が行える体制を整えることにも言及しました。

 

スイッチが入った安倍総理

 強力な権限を持って政策を実行するリーダーではなく、全体の調和を図るリーダーとしての役割を求められてきた安倍総理は、これまで積極的な感染防止策をとってきませんでした。しかし、ここにきて安倍総理には、突然「やる気スイッチ」が入ったようにみえます。第一次安倍政権のときのような、批判を恐れずに信念を貫くという姿勢をみせ始めました。つまり、中空均衡構造型のリーダーから、中心統合構造型のリーダーへと転換したのです。

 しかし、突然の転換のため、安倍総理の政策はやや整合性を欠いています。感染報告例の少ない子どもの登校制限を優先するなど、一部の専門家からは、科学的な根拠が希薄であるとの疑問符が投げかけられています。

 

 以上で述べてきたように、政府の一連の政策にはさまざまな問題点が含まれています。果たして日本は、新型コロナウィルス感染症パンデミックから、逃れることができるのでしょうか。(続く)