韓国はなぜ繰り返し賠償を求めてくるのか(18)

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 前回のブログでは、韓国の非難に対する日本人の反応の背後には、明治維新から併合時代に生じた、朝鮮への後ろめたさの感情があることを指摘しました。

 今回のブログでは、この後ろめたさの感情が、日本社会にどのような影響を与えたのかを検討したいと思います。

 

後ろめたさの内容とは

 前回のブログで検討したように、日本人が朝鮮を併合したことに対して感じた後ろめたさの内容とは、次のようなものでした。

 アメリカから無理矢理開国させられ、自国を護るために急速に欧米文化を取り入れざるを得なかった日本人は、伝統的な文化だけでなく自らの自尊心も失いかけていました。そこで、日本の近代化政策の正しさを証明するために、近隣諸国にも同様の政策を施そうとしました。

 その一環として、朝鮮を併合して日本流の近代化政策を推し進めました。その結果朝鮮は、中華文化を日本に教える立場から、欧米文化を日本から教わる立場へと百八十度逆転しました。日本人が朝鮮に対して後ろめたさを感じるのは、そのことによって朝鮮人の自尊心を奪ったことです。つまり、後ろめたさの内容とは、日本人が自らの自尊心を建て直すために、朝鮮の人々の自尊心を奪ったことだと考えられます。

 このように後ろめたさの内容は、あくまで自尊心の問題です。そのことを理解していないと、日韓の間で生じる問題への対応は、全く的外れなものとなってしまいます。

 

近代化の基盤が形作られ、活気にあふれた併合時代

 韓国は、日韓併合の36年間を「人類史上類例のない過酷な植民地支配」と非難しています。しかし、以前のブログ(『韓国はなぜ(5)』)で検討したように、日本が統治した戦前の朝鮮は、消費が拡大し、広告があふれていた時代でした。そして、経営者、金鉱王、パイロット、スポーツ選手など世界に誇る朝鮮民族の男たちが輩出され、「新女性」というモダンガールの風俗流行を生み、職業婦人が登場し、女性解放運動が起こるほどの自由な空気が満ち溢れた時代でした。

 そもそも併合と植民地化は違います。併合(annexation)とは、国際法上ある国が他の国の領土の全部または一部を、合意によって自国のものとすることです。これは武力などを背景に一方的に支配する植民地化(colonization)とは異なり、両国の合意によって成立します。朝鮮併合も朝鮮政府との同意のもとで行われたのであり、だからこそ併合後の朝鮮は、近代化の基盤が形作られ、活気にあふれた社会になったのです。

 それにもかかわらず、韓国から日韓併合を非難されると、日本政府は謝罪と賠償を繰り返すのでした。日本はなぜ謝罪を繰り返し、そして、いったい何に対して謝ってきたのでしょうか。

 

日本はなぜ謝罪するのか

 韓国が併合時代を非難する内容は、実は歴代の中華帝国から受けた「人類史上類例のない過酷な支配」を元に創作した架空の物語でした。韓国の非難に対して謝罪する背景には、朝鮮人の自尊心を奪ってしまったという後ろめたさがあるからですが、それにしても架空の物語に対してまで謝るのはなぜでしょうか。そこには、アメリカ占領時代に、GHQ連合国軍最高司令官総司令部)が画策した、WGIPウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)に導かれた教育がありました。

 この教育によって、太平洋戦争を起こしたのは「軍国主義者」であるとされ、戦争の責任はすべて「軍国主義者」にあるとされました。そして、大都市の無差別爆撃も、広島・長崎への原爆投下も、「軍国主義者」が悪かったから起った災厄であって、実際に爆弾を落とした米国人には少しも悪いところはないという正当化が行われました(WGIPの詳細は、2018年10月のブログ『憲法九条の改正はなぜ必要なのか(1)』をご参照ください)。

 つまり、アメリカへ敵意が向かないようにGHQ支配下で、戦前の日本の「軍国主義者」が戦争を起こした重罪人であるという徹底した教育が行われたのです。

 

WGIPの優等生である進歩的文化人

 この教育の優等生になったのが、いわゆるA級戦犯を代表する「軍国主義者」を非難し、「軍国主義者」たちが行った政策をすべて悪と見なし、朝鮮や中国に自ら進んで謝罪をする進歩的文化人と称される人たちです。そして、彼らの意見を代表する報道機関が朝日新聞でした。

 彼らは、「軍国主義者」が行った悪事を証明するために奮闘しました。韓国や中国が戦前の日本を非難できるように、架空の物語を創作する手助けもしました。「南京大虐殺」や「従軍慰安婦」という問題を創作する際には、朝日新聞は手助けどころか主演級の大活躍を果たしています。彼らが主導して作りあげる世論によって、日本政府は追い詰められていきました。

 

空気に屈した自民党政府

 朝日新聞進歩的文化人たちが創り上げた、「戦前の日本はすべて悪で、近隣諸国に甚大な被害と多大な苦痛を与えた」という架空の物語は、後ろめたさの感情を背景に日本社会に浸透して行きました。そして、日本社会にこの物語を疑うことすら許されない空気が充満して行きました。

 日本社会に充満した空気は、自民党政府の政策さえ支配しました。宮沢首相の韓国への謝罪や、軍の強制性を認めた河野談話はこの空気に支配されて行われました。彼らはもともとリベラルな政治家だったため、この空気の圧力にひとたまりもなくなびきました。事実を知っている保守の政治家も、黙して堪えるしかありませんでした。何しろ、オフレコで「戦前の日本はいいこともした」と発言したことが漏れただけで、大臣が罷免されるような時代でした。

 こうして進歩的文化人朝日新聞は、日本社会の主流となり、戦後の日本を代表する存在となりました。彼らは日本の正義として、そして日本の良心として振舞うようになりました。その結果、彼ら自身の自尊心は大いに満たされました。

 しかし、その一方で、日本はとてつもなく大きな損害を被ることになったのです。

 

架空の物語が現実になった

 朝日新聞が主導して創り上げた架空の物語に対して、日本政府が謝罪を繰り返したことによって、架空の物語は事実として世界で認識されるようになりました。

 それは、「戦前の日本はすべて悪で、近隣諸国に甚大な被害と多大な苦痛えを与えた」ことを自ら認めることでした。特に「南京大虐殺」と「従軍慰安婦」の物語は、中国や韓国に莫大な金額の賠償金(ODAや経済協力という形をとっていますが)を支払うことになっただけでなく、世界中で日本の評価を貶めることにつながりました。

 それは現在の日本に有形無形の足かせを与えただけでなく、過去の日本人の行いに対しても、徹底した攻撃を加えることになりました。そして、過去から現在の日本に計り知れない損失を与え続けています。

 結局、日本政府が謝罪することによって救われたのは、中国政府と韓国政府、そして朝日新聞進歩的文化人だけでした。

 

自尊心をもてない日本の子どもたち

 その影響は、過去と現在だけでなく、未来にも及んでいます。

 WGIPの優等生は、教育界にも存在しました。日教組に所属する教師たちです。彼らは子どもたちに、「戦前の日本はすべて悪で、近隣諸国に甚大な被害と多大な苦痛えを与えた」という架空の物語を教え続けました。その結果、どのようなことが起こったでしょうか。自分たちの祖先や社会が悪だったと教えられた子どもたちは、自尊心を育むことができなくなりました。

 それを示す資料があります。国立青少年教育振興機構が平成30年3月に発表した、高校生の心と体の健康に関する意識調査の中で、次のような結果が出ています。

 「私は価値のある人間だと思う」という問いに対して、「そうだ」「まあそうだ」と回答した高校生の国別の割合(%)は、

 日本 44.9  アメリカ 83.8  中国 80.2  韓国 83.7

 「私は今の自分に満足している」という問いに対して、「そうだ」「まあそうだ」と回答した高校生の国別の割合(%)は、

 日本 41.5  アメリカ 75.6  中国 62.2  韓国 70.4

という結果でした。
 この調査からは、日本の高校生だけが、目立って自己肯定感が低いことがわかります。

 日々の臨床においても、若者の自己肯定感の低さを感じされられることは決して珍しくありません。それどころか、「自分は何の役にも立たない存在だ」「生きている意味がない」「消えてしまいたい」などといった自己否定感を訴える若者が、ますます増えているように感じられます。

 

もう後ろめたさを感じる必要はない

 日本は戦後、謝らなくてもいい謝罪を繰り返し、膨大な賠償金を支払い、韓国(や中国)の経済発展に労力を惜しまずに協力してきました。それは、世界史に類例をみない規模と期間に及びました。ただ彼らの自尊心を奪ってしまったという後ろめたさのために、戦後の日本人はひたすら謝罪と賠償を繰り返し、彼らに協力し続てきました。

 もういいのではないでしょうか。日本はもう充分過ぎるほど償ったのではないでしょうか。架空の物語に、これ以上付き合う必要はないのではないでしょうか。

 これ以上架空の物語に対して謝罪することは、日本人に負の影響をもたらすだけでなく、韓国に対しても悪い影響を及ぼすものと考えられます。

 この点については、次回のブログで検討してみましょう。(続く)