前回のブログで、わたし自身が新型コロナに感染したこと、しかもそれだけでは済まずに、入院治療が必要になってしまったことを書きました。
今回のブログでは、入院後の経過について報告させていただきます。
入院後も病状が悪化
発熱と全身倦怠感、頭痛と食欲不振が続いたわたしは、症状が出現後第9病日である8月12日(土)に救急外来を受診して新型コロナ肺炎の診断を受け、当日そのまま入院となりました。
入院当日から、RNAポリメラーゼを選択的に阻害する作用機序を有するレムデシビルの点滴投与が開始されましたが、入院後も病状が進行していました。血液中の酸素飽和度が下がっていたのです。
新型コロナ肺炎にとって、血中の酸素飽和度が下がるかどうかは重要な指標です。肺炎の重症度を現わす指標になりますし、それが治療方針の変更にもつながるからです。
現在の新型コロナ肺炎の重症度分類は、以下のようになっています。
図1
図1のように、新型コロナ感染症は、症状によって軽症、中等症、重症の3つに分類されています。
わたしが入院したときには、血液検査や胸部CTなどによって新型コロナ肺炎と診断されれました。ただし、はっきりした呼吸困難や酸素飽和度の低下は認めらず、「中等症Ⅰ」に分類されていました。中等症Ⅰの治療として、レムデシビルの点滴投与5日間(最大10日まで)が行われる予定になっていました。
ところが、入院3日目(第11病日)の8月14日(月)から、酸素飽和度が低下し始めました。これは新型コロナ感染症の重症度が、「中等症Ⅰ」から「中等症Ⅱ」に悪化したことを意味します。
ステロイドを追加投与することに
重症度が「中等症Ⅰ」から「中等症Ⅱ」に悪化すると、治療方針も変更されます。一つは、血中の酸素飽和度が下がっているわけですから、持続的な酸素投与が必要になります。わたしの場合は、酸素飽和度の低下は軽度だったため、経鼻カニューレ(鼻の穴に2本短い管が入るタイプ)による酸素投与を、毎分1リットルで受けことになりました。
もう一つは、肺炎の炎症自体を抑制させる目的で、ステロイド薬を追加投与することです。
炎症自体は、病気を治すために自分の体が引き起こす反応です。今回の新型コロナ感染症で言えば、コロナウィルスを排除するために、免疫機能が活性化されて炎症が活発になっています。しかし、何事も過ぎたるは及ばざるがごとしで、炎症が活発になりすぎると、却って免疫が暴走を起こしたり、自分の臓器が傷害されることが起こり得ます。そのため、炎症が活性化されすぎて呼吸機能が障害されると判断される場合は、ステロイド薬を投与して免疫を抑制させることが必要になります。
ただし、わたしの場合は持病があったため、ステロイド薬自体の副作用にも対応が必要になりました。
持病とは、糖尿病のことです。わたしの母方が糖尿病の家系で、わたしもご多分にもれず糖尿病の傾向がありました。半年ほど前には、糖尿病の内服薬またはインシュリン注射が必要な状態になっていました。ただし、思うところがあって治療はすぐには始めず、妻に協力してもらいながら、炭水化物を極力減らす食事療法を行っていました。その結果として、血糖の平均値がようやく改善してきたところでした。
ところがステロイドを使用すると、副作用として血糖が上昇します。わたしのようにもともと糖尿病体質の者が使用すると、当然高血糖になることが想定されます。
高血糖では、細い血管の血液の流れが悪くなります。酸素や栄養が十分に行き渡らずに細胞の働きが低下したり、白血球やリンパ球が感染部位に到達しにくくなって感染しやすくなります。さらに高血糖になると免疫機能自体も低下しますから、新型コロナ感染症の治療が阻害される可能性が出てきます。これでは何のために治療を行っているのかわりませんから、インシュリン注射を使用して、ステロイド薬使用で上がった血糖を下げなければなりません。そのため毎食前と眠前の血糖を測定しながら、インシュリンの投与量を決めて皮下注射を行う治療が追加されました。
こうして新型コロナ感染症の重症分類が「中等度Ⅱ」に悪化したわたしは、レムデシビルの点滴治療に加えて、ステロイド薬の内服治療、そして血糖値を測定しながらインシュリンを皮下に注射する治療が必要になったのでした。
食欲が出てきた
新型コロナ感染症の状態を精査してもらおうと思って救急外来を受診したわたしは、思いも寄らずそのまま入院とってレムデシビルの点滴が始まり、入院3日目(第11病日)の8月14日(月)からは酸素投与が、入院4日目(第12病日)の8月15日(火)からはステロイド剤の内服投与とインシュリンによる血糖コントロールを開始するという、本格的な治療が始まることになりました。
やれやれ、大変なことになってしまったというのがこのときのわたしの気持ちでした。しかし、悪いことばかりではありません。入院3日目(第11病日)の8月14日(月)から「食べ物が辛く感じる」という症状がなくなり、食欲が出てきたのです。この日を最後に、37度以上の発熱がみられなくなりました。
入院4日目(第12病日)の8月15日(火)には呼吸器内科の先生からの丁寧な説明を受け、充分に納得したうえで新たな治療を受けることができました。病状に必要な薬物投与、納得した上での治療、それに体力の回復が加わって、この日以降に病状は改善に向かいました。
検査値が改善
入院6日目(第14病日)の8月17日(木)には、炎症を示す血液検査がすべて改善傾向を示しました。酸素飽和度も改善したため、入院6日目から経鼻での酸素投与も終了しました。
入院7日目(第15病日)の8月18日(金)には、レムデシビルの点滴が終了しました。レムデシビルは、結局7日間投与を受けたことになります。
以上のような血液検査や酸素飽和度の改善は、新型コロナ肺炎が順調に改善してきたことを現わしています。それに伴って自覚書状も改善し、全身倦怠感も軽減して行きました。検査値の改善に伴って、食事やシャワー後に咳と痰が出ること以外には症状はほぼ消失しました。
入院10日目(第18病日)の8月21日(月)の血液検査では、炎症値を現わす数値はさらに改善し、正常に近い値になりました。
こうしていよいよ、退院に向けての準備が始まりました。わたしは、入院治療を受けながら、病室でストレッチや腹筋を徐々に開始しました。
ついに退院が決定
順調に肺炎が回復したわたしは、予定通り8月24日(木)に退院することができました。入院13日目、症状出現翌日から第21病日のことです。
退院に対しては、主治医の先生や協力して治療に当たって下さった先生方に深謝致します。また、担当の看護師さん、毎日看護をしていただいた看護師さんや入院治療に関わっていただいた職員のみなさんにも感謝しかありません。お陰様で、元気に退院することができました。
また、職場では長期期間わたしの仕事を代行していただいた同僚の先生たち、そして病棟、外来、デイケアの職員のみなさん、突然の休職にも拘わらずしっかりと精神科を支えていただき本当にありがとうございました。お陰さまで、自分の治療に専念することができ、こうして退院することができました。
そして、面会ができない間にも闘病を裏から支えててくれていた妻には、感謝以外の言葉は見当たりません。
病気をすると改めて感じることですが、健康の大切さとともに、自分は一人で生きているのではない、本当に多くの人に支えられて生きているのだといことが実感できました。
みなさま、本当にありがとうございました。
おまけ、 体力ってこんなに落ちるの?
ところで、今回の新型コロナ肺炎によって、わたしは自宅で1週間、入院で2週間の合わせて3週間ほぼ横になって過ごしました。その結果、退院してみて驚いたことがあります。たった3週間で、体力はこんなに落ちるんだということです。
まず、病室から出たときにびっくりしたことが、今までのようにまっすぐに歩けなくなっていたことです。右足の付け根に力が入らなくなっており、右足全体がスムーズに前に出ません。そのため右に傾きながら、場合によっては右手でものを掴みながらでないと歩けないのです。
平面でもそうなのですから、坂や階段では予想以外に歩きにくくなっていました。さっそく下りの階段でこけました。幸い怪我はしませんでしたが、擦り傷を負ってしまいました。当たり前のことですが、60代になって寝込むことは体力の低下に直結するものであると、まさに痛みを伴って思い知りました。
肺の機能がどれだけ回復するのか
筋力だけでなく、肺炎の後遺症も考えなければならないでしょう。新型コロナ肺炎の後遺症として、肺線維症があげられます。新型コロナ肺炎の炎症(間質性肺炎)が進行すると、肺の繊維化が進むことがあります。そうなると、空気を取り込むスペースである「肺胞腔」に繊維の沈着を起こしたり、肺自体が硬くなって空気を取り込みにくくなることが起こります。
こうなる病態を肺線維症と呼びますが、面倒なのは肺線維症になる可能性が、個人によってかなり異なることです。わたしの場合もまだどうなるか分かりませんから、半年くらいかけて状態をみていかなければなりません。
ただ、何もしないわけにはいけません。主治医の先生の許可を取って、足を引きずりながらさっそく水中ウオーキングを行ってきました。
この後の病状の経過も、機会があれば報告していきたいと思います。(了)