超過死亡数が過去最高を更新しているのはなぜか(4)

 松野官房長官は4月6日の会見で、2022年の超過死亡が前年比で大幅に増加したとの推計について、「近年の中では大きな数値」との認識を示しました。その上で、新型コロナウイルスによる影響については、決定的な原因として断定するのは困難と語りました。

 また、ワクチン推進派の人々は、世界各国と比較して日本の超過死亡数はむしろ少ないとして、ワクチン接種と超過死亡数の増加との関係を否定しています。

 超過死亡数が激増した原因に、ワクチン接種は本当に関係がないのでしょうか。

 

世界の超過死亡数と比較すると

 超過死亡数の大幅な増加に対して、ワクチン推進派の人々は、日本の超過死亡数は世界と比べれば多くないと指摘します。それどころか、ワクチンを接種したことによって少なくなっていると主張しています。

 その根拠になっている統計資料は、以下の様です。

 

                『Our  World in Data』より

                  図1

 

 図1のように、2022年末の段階で、100万人当たりの超過死亡数で比較すると、確かに日本は少ない部類に属します。

 図1で示されている各国の、2022年12月末時点における延べブースター接種率を見てみましょう。

 

   『新型コロナウィルスワクチン接種率の推移【世界・国別】』より

                  図2

 

 図2のように、延べブースター接種率(人口100人あたりの追加接種回数)をみると、日本は極端に高く、南アフリカは極端に低いことが分かります。延べブースター接種率の高い日本の超過死亡数が低く、接種率の低い南アフリカの超過死亡数が高いという結果をみれば、超過死亡数とワクチン接種の間には何の関連もないように見えます。いや、むしろ逆相関があって、ワクチン接種によって超過死亡数が減っているように捉えられます。

 この捉え方は、本当に正しいのでしょうか。

 

累積死亡数を現している

 ここで注意が必要なのは、図1のデータが「すべての原因による累積死亡者数」となっており、その累積期間は2020年以降となっていることです。つまり、新型コロナの感染が世界的に拡大した2020年以降の死亡者の累積数と、その前年の予測に基づく予測数とを比較して算出した超過死亡ということになります。

 すなわち、2020年からのすべての死亡者数の合算数が示されているのであり、パンデミックによって生じた新型コロナ感染症死や、医療機関の圧迫によって治療を受けられなかった他の疾患死なども含まれています。

 日本では、ワクチン接種が始まる前の2020年の超過死亡数は-3万5,045人だったわけですから、累積死亡者数が各国と比較して少ないのは当然の結果です。一方で、南アフリカでは、2020年から21年にかけて4回の感染爆発を経験しており、その間の新型コロナ死は、先進国と比較してもかなりの数に上ったことが窺われます。

 

2022年の超過死亡数でみると

 そこで図1のデータを、2022年末から12ヶ月前までに限った累積死亡数で出し直してみましょう。

 

                 『Our  World in Data』より

                   図3

 

 図3のように、2022年に限ると、日本の超過死亡数は他国と比べても低くないばかりか、むしろ高い部類に入ることが分かります。

 一方で、延べブースター接種率の低い南アフリカでは、超過死亡数は逆に少なくなっています。南アフリカでは2021年末にオミクロンBA.2株のパンデミックを経験し、それ以降は新型コロナ感染症は終息に向かっています(BA.5株でも大きな感染拡大はみられませんでした)。このことが、ワクチン接種が少ない南アフリカで、超過死亡数が少ない要因になっていると考えられます。

 このように2022年に限ってみると、ワクチン接種によって超過死亡数は減少しないばかりか、むしろ増加する傾向が認められます。

 いや、ワクチン接種の多い日本が、他国と比べて超過死亡数が特別高いわけではないという反論もあるかも知れません。

 

ブースター接種は超過死亡数を増やしている

 そこで、日本のブースター接種が特に進んだ2022年10月以降において、対象国を増やして超過死亡数を比較してみましょう。

 小島勢二名古屋大学名誉教授は、Our World in Dataに掲載されたデータを用いて、各国の2022年10月1日から2023年1月31日までの超過死亡と追加接種回数との関係を以下のように示しています。

 

      『アゴラAGORA 言語プラットホーム』2023.4.26 より

                  図4

 

 図4のように、超過死亡と追加接種回数には、相関係数0.54と両者の間には正の相関が見られました。つまり、ワクチンの追加接種が多い国ほど、超過死亡数が増加することが示されたのです。

 

チリの当初のワクチンは中国製

 図4の結果を、もう少し詳しく見てみましょう。

 対象となった39ヶ国のなかで、日本はワクチンの追加接種回数はチリに次いで2位、超過死亡はドイツ、オーストリア、英国、フィンランドに次いで5位でした。

 まず、追加接種回数についてですが、これまで日本が世界一を独走していると述べてきました。そして、チリの追加接種回数についてはあえて触れてきませんでした。それには理由があります。

 チリのワクチン接種の1回目と2回目は中国製のワクチンが主に接種されていました。そのためチリの追加接種は、mRNAワクチンとしては1回目、2回目、3回目の接種なのです。追加接種回数の多いチリで、超過死亡数が少ない理由はこの辺りにあるのではないかと考えられます。

 

日本の超過死亡数はさらに増える可能性も

 次に、人口100万人あたりの超過死亡数です。日本より上位のドイツ、オーストリア、英国、フィンランドの2023年1月31日時点での延べブースター接種率は以下の通りです。

 

   日本       138.6%

   フィンランド   77.7%

   ドイツ      77.5%

   オーストリア   60.5%

   英国       59.9%

 

 このように、各国ともブースター接種率は高い数字を示していますが、ヨーロッパ各国は2022年の後半には追加接種はほとんど行っていません。

 それを示したのが以下の図です。

 

    『新型コロナウィルスワクチン接種率の推移【世界・国別】』より

                  図5

 

 図5のように、ヨーロッパ各国では、追加接種を行っていたのは2022年の前半までです。それにも拘わらず、2022年10月1日から2023年1月31日までの超過死亡数が、日本よりも多いのはどうしてなのでしょうか。

 可能性は二つあります。

 一つは、ドイツ、オーストリア、英国、フィンランドには、追加接種とは別の超過死亡数を押し上げる原因が存在する可能性です。それが何かは、今のところ明らかにされていません。

 そしてもう一つは、超過死亡の増加が、ワクチン接種後に一定の期間続くという可能性です。

 

 もしそうであれば、日本の超過死亡数の激増は、たとえ今すぐにワクチン接種を中止したとしても、一定期間続くことになるのです。(続く)