安倍政権はなぜ歴代最長になったのか(16)

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 日本の新型コロナウィルスの新規感染者は4月11日をピークに減少に転じ、感染者総数も次第に減少して行きました。安倍内閣は緊急事態宣言を、5月16日に39県で解除し、5月25日には解除を全国に広げました。安倍総理は記者会見で、「世界的にも極めて厳しいレベルの解除基準を全国的にクリアした」と述べました。こうして日本は、新型コロナウィルス欧米株の封じ込めに成功した世界で初めての国になったのです。

 それにもかかわらず、安倍内閣の政策は全く評価されず、安倍総理の支持率は下がり続けています。なぜこのような、摩訶不思議な現象が起きているのでしょうか。

 

指導者の国際評価で最下位

 ロンドン時事通信によれば、23カ国・地域の人々を対象に、それぞれの指導者の新型コロナウイルス対応の評価を尋ねた国際比較調査で、日本が最下位となりました。調査はシンガポールブラックボックス・リサーチとフランスのトルーナが共同で実施し、政治、経済、地域社会、メディアの4分野でそれぞれの指導者の評価を指数化しました。日本は全4分野のいずれも最下位で、総合指数も最低だったということです。
 政治分野では、日本で安倍政権の対応を高く評価した人の割合は全体の5%にとどまり、中国(86%)、ベトナム(82%)、ニュージーランド(67%)などに大きく劣りました。日本に次いで低かったのは香港(11%)で、フランス(14%)が続きました。

 ブラックボックスのデービッド・ブラック最高経営責任者(CEO)は「日本の低評価は、緊急事態宣言の遅れなどで安倍政権の対応に批判が続いていることと合致している。間違いなくコロナウイルス指導力のストレステスト(特別検査)で落第した」と分析したということです。

 これは5月8日の記事です。この時期までには、「PCR検査の少なさは政府の無策のせい」、「緊急事態宣言は遅すぎた」、「(5月の連休明けには)緊急宣言解除が遅すぎる」などと散々マスコミから批判されており、安倍内閣の新型コロナウィルス感染症対策を支持するマスコミは見当たりませんでした。こうした無節操な政府批判が、安倍総理への低評価に影響を与えていたのかも知れません。

 では、5月25日に緊急事態宣言が解除された後には、安倍内閣の政策は高評価に転じたのでしょうか。

 

突如降ってわいた黒川問題

 5月9日深夜から10日朝にかけて、突然「#検察庁法改正案に抗議します」がtwitter上で広がりました。きゃりーぱみゅぱみゅさんや小泉今日子さんら著名な芸能人らも参戦し、一時は500万ツイート(!)にも達したといいます。抗議の内容は、「安倍内閣が、政権に近い黒川弘務氏を検事総長につけるため、改正案を成立させようとしている」ことに抗議するという内容でした。

 黒川氏が安倍総理に近いということが作り話だっただけでなく、「黒川氏の定年延長」と「検察庁法改正案(検察官の定年延長)」とは別の話だったにもかかわらず、これらがいっしょくたに語られ、安倍内閣は自分に都合のいいように検察官の人事を操っているという印象操作が行われていました。

 さらに、5月21日の週刊文春で、黒川氏が産経新聞社会部記者や朝日新聞の元検察担当記者らと賭けマージャンをしていたことが報道されるに及んで、黒川氏は東京高検検事長を辞任し、黒川氏の定年延長を決めていた安倍内閣への批判が高まりました。

 

安倍潰しのための報道

 朝日新聞はすかさず5月23、24日に世論調査を行い、安倍内閣の支持率が29%に急落し、不支持率が52%にのぼったと公表しました。

 一連の黒川問題の流れには、安倍政権を批判するための、実に巧妙に作り上げられたストーリーが見え隠れしています。さらに、朝日新聞が5月24日に世論調査の結果を発表したことは、翌25日に発表される予定であった緊急事態宣言の解除によって、安倍内閣の支持率が上がらないための絶妙な作戦があったと考えられます。そのために朝日新聞は、自社の記者の不祥事すら利用したのです。まさに、「肉を切らせて骨を断つ」大勝負に出たのだと言えるでしょう。

 

安倍内閣を終わらせることが目的

 安倍内閣の下で、新型コロナウィルス感染症の対策が大きな成果を上げているにもかかわらず、安倍内閣の支持率がこれほど低いのはどうしてでしょうか。

 主な理由は、これまで述べてきたようなマスコミをはじめとした、反安倍の勢力による徹底した安倍批判があるからでしょう。彼らの目的は、批判によって政府の政策をより良いものにすることにはありません。その目的は第一に、安倍内閣を非難すること自体にあります。すなわち、非難のための非難です。極端に言えば、安倍総理を引きずり下ろすためであれば、日本に損失を与えても構わないという姿勢すら認められます。医療体制が充分に整っていない状況にもかかわらず、PCR検査が少ないと非難し続けたことは、その典型例でしょう。

 

日本国民の側にも要因が

 しかし、それにしても安倍内閣の評価は、成果に比べて低すぎるのではないでしょうか。その要因は、反安倍のマスコミにだけでなく、国民の側にもあると思われます。

 国民は政府の対策によってではなく、自分たちの対応によって新型コロナウィルス感染症を克服したという自負を持っているのではないでしょうか。実際問題として、強制力のない非常事態宣言によって感染爆発を回避することなど、国民の多大な努力なくしては達成することなど不可能でした。

 安倍総理が4月7日に7都府県を対象に緊急事態宣言を行った際に、「最も重要なことは、国民の皆さんの行動を変えることだ。専門家の試算では、私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができる」と呼びかけました。

 

自ら接触削減を達成した

 安倍総理の呼びかけによって、日本国民は、本当に人との接触を7~8割減少させました。しかも、何の法的拘束力も強制力もなかったのにです。

 その結果、例えば対象であった東京では、以下のように新規感染者数の減少を達成しました(JX通信社 「新型コロナウィルス 最新感染状況マップ」を転用)。

 

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                 図1

 

 図1が示すように、東京では緊急事態宣言の5日後に新規感染者数の減少傾向が出現し、11日後には全体のピークが減少に転じています。

 このように日本人は、何の罰則も強制力もない状態で、自らの意志で人と会うことを制限し、自制した生活を送ることを達成しました。国民が政府の対策によってではなく、自分たちの対応によって新型コロナウィルス感染症を克服したという自負を持っていたとしても、何の不思議もないでしょう。なにしろ日本国民は、緊急事態宣言を嫌がらなかったばかりか、緊急事態宣言を出すのが遅すぎると政府を非難するような国民性を有しているのですから。

 

都道府県知事が活躍

 緊急時多宣言が出された後は、新型コロナウィルス感染症対策の責任者は、各都道府県知事に移されました。各都道府県の実情に合った、細やかで現実的な対策を採る必要があるからです。

 知事が各都道府県の実情に合った、具体的な対策を採れば、都道府県民にはその内容が理解されやすいでしょう。さらに国政の場合のような、外交的配慮や他の政策との整合性、さらには野党との調整などの要因を考量する必要がありません。知事の政策の是非は、都道府県民には見えやすかったと思われます。そのため、大阪府の吉村知事や東京都の小池知事といった、支持率を上げる首長が各地に現れたのです。

 

オールジャパン体制

 さらに、県知事の元には各市町村の首長や、その保健所や病院、そして国民の一人一人が、そのぞれの立場で主導的な役割を果たし、新型コロナウィルス感染症の対策に当たりました。

 このように、日本は政府が主導するのではなく、オールジャパンの体制で新型コロナウィルス感染症を克服しました。それが可能だったのは、日本が欧米のようなピラミッド型の社会ではなく、中空均衡構造を呈するバウムクーヘンのような社会だからです。

 それをシェーマ化すると、以下のようになります。

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                  図2

 

 図2で示したように、日本の新型コロナウィルス感染症の対策は、日本社会に特有な中空均衡構造を形成しながら行われました。この対策は日本社会に適した方法だったからこそ、充分な成果を上げることができたのだと考えられます。

 しかし、この中空均衡構造は、中心が空の構造を呈しており、中空に位置する安倍内閣の役割はほとんど意識されることがなくなります。本当は中心に存在しているのに、何もないかのように認識されてしまうのです。

 安倍内閣の支持率が下がり続けているのは、こうした日本社会の構造的要因もあるのかも知れません。(続く)