以前のブログで、若者の自殺の問題から、若者の自己肯定感の低さについて、そして幼児期の心の成長について検討しました。
今回からのブログでは、幼児期以降の心の成長について、現代の日本社会の問題とリンクさせながら考えてみたいと思います。
検討に入る前に、まず現在の日本の若者の現状について、確認しておきましょう。
子どもの数は年々減少している
日本の若者は年々減少しています。というのも、新生児の出生数が減少の一途をたどっているからです。
図1
図1のように、日本の出生数は年々減少しており、令和5年には過去最低の72万7277人まで減少しました。第二次ベビーブームの約3分の1(35%)まで、第一次ベビーブームの約4分の1(27%)にまで減少しています。
ちなみに、合計特殊出生率とは、一人の女性が一生の間に出産する子どもの数を現しています。この数が2(正確には2.07)より少なければ、その社会の人口は減少してゆきます。日本の令和5年の合計特殊出生率は1.20ですから、この傾向が続けば、日本の人口は急速に減少してゆくことになります。
不登校が急激に増えている
次に、日本で減少を続けている子どもたちの現状について見てみましょう。
子どもの成長にとって最も重要なものが教育ですが、日本の教育は、現在危機的な状況にあります。それを端的に示すのが、不登校の急激な増加です。
図2
図2のように、日本の小中学校における不登校の数は令和に入ってから急激に増加しており、令和4年には30万人に迫っています。この増加は、義務教育がすでにその役割を果たせなくなっていることを示唆していると考えられます。
学校はいじめの場になっている
不登校の要因はいろいろと考えられますが、その一つにいじめの問題があります。いじめはわたしたちが学生の頃からありましたが、現在はその数と質が変貌してきています。
図3
図3は、いじめの認知件数の推移です。いじめの件数自体が急激に増えていますが、この数字が「認知件数」であることに注目してください。いじめは昔のように、クラスの中であからさまに行われるとは限らなくなっています。SNSを使って当事者を非難したり、さらし者にしたりするいじめが増えてきました。そうなると、いじめが行われているのかを認知できない事例が増加していることが窺われます。
図3で、中学と高校のいじめの件数が横ばいになっていますが、わたしの臨床の実感や、重大事案の第三者委員会の委員になった経験からしても、中高のいじめは明らかに増加しています。中高のいじめの認知件数が増えていないのは、中高生になるといじめが顕在化しないように巧妙に行われているからだと推察されます。
顕在化しないいじめは、言葉や暴力によるいじめよりもダメージが少ないとは限りません。表に現れないいじめは他者の眼に触れにくくなり、その分助けが得られなくなったり、いじめ自体に歯止めが利きにくくなって、より陰湿になる傾向があります。そうなれば、いじめの被害者の心に与える影響は、より深刻になることすらあるのです。
学校のいじめは、こうして「ステルス化」しています。教育の場ではこの「ステルスいじめ」が増加し、若者の心を蝕んでいると考えられます。
若者は引きこもっている
引きこもりは、社会との接触を異常にまで避ける点において日本に特有の現象と言われ、オックスフォード英語辞典に「hikikomori」として掲載されています。
その引きこもり現象は、近年二つの問題を呈するようになりました。
図4
図4は、日本の内閣府が2023年3月31日に公表した推計値です。この統計は、自室または自宅から出ない狭義の引きこもりと、近所のコンビニエンスストアなどや趣味の用事などだけは外出するといった広義のひきもり状態が、6カ月以上続いているという定義で調査された結果です。
問題点の一つ目は、引きこもりの増加にあります。引きこもりの人数は、2019年の時点の推計では115万人でした。それがわずか4年で146万人へと27%も増加したことです。内閣府はコロナ渦が要因になったと指摘していますが、それはあくまできっかけに過ぎず、もっと根本的な原因があるのではないかと思われます。
二つ目の問題点は、引きこもりをしている人の高齢化です。図4のように、40歳から64歳までの引きこもり当事者の割合は、人口の2パーセントを超えています。これは引きこもりの長期化によって生じた現象ですが、介護が必要な80代の親が、引きこもりの50代の子どもの面倒をみなければならない「8050問題」という新たな社会問題を引き起こしているのです。(続く)