沖縄は琉球特別自治区になってしまうのか(7)

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 前回のブログでは、沖縄にも普天間基地辺野古移設に賛成し、国防を真剣に考え、さらには日本と日本文化を守ろうと考える人々がいることを紹介しました。彼らは自らを、沖縄における真正保守と位置づけています。そして、その活動を沖縄だけでなく本土に向けて、さらには国連の場でも訴えている我那覇真子さんの活動についても紹介しました。

 今回のブログでは、最近沖縄の問題に提言を行っている橋下徹氏と、それを批判している我那覇さんの主張を紹介したいと思います。

(以下で述べられている我那覇さんの言葉は、You Tube で放送されている「我那覇真子「おおきなわ」#59】知って下さい!橋下徹流「沖縄論」はここが大問題」から抜粋したものです)。

 

橋下徹氏への批判

 今年の1月に前の大阪市長である橋下徹氏が、『沖縄問題、解決策はこれだ!これで沖縄は再生する。』1)という本を出しました。「いまある問題を解決させ、沖縄の明るい未来を実現させる 画期的なヴィジョンを示した新・沖縄独立宣言!」と銘打ったこの本の中で橋下氏は、米軍基地問題の彼なりの解決策や、「沖縄を東洋一の観光リゾート」にするための方策を熱く語っています。

 この提言に対して、我那覇さんは徹底的に批判を加えています。

 我那覇さんは、「そもそも沖縄問題はなく、左翼が自分たちの革命闘争のために騒いでいる左翼革命問題があるだけです」と主張します。勝手に沖縄に問題を作らないでほしいというわけです。さらに、本の内容についても徹底した批判が続きます。

 まず橋下氏が、「沖縄のみなさんがどれほど犠牲になったか、特に、日本軍が沖縄県民をほったらかしに、いわば捨石にして、県民のみなさんの命がどれほど犠牲になってしまったのか」(上掲書17頁)と述べていることに対して、我那覇さんは、沖縄県民は捨石になどされておらず、日本軍と共に日本を守るために決死で戦ったのだと反論します。橋下氏が沖縄県民がいかにひどい目に遭い、本土のための犠牲になっているのかを強調するという歴史認識自体が、沖縄の歴史の事実を理解していないことだと言うわけです。

 

一国二制度は必要か

 橋下氏は、「沖縄を東洋一の観光リゾートにする」という政策目標を定め、そのためには沖縄に一国二制度、すなわち日本に適用されているものとは異なる特別の法制度を沖縄に認めることが必要だと主張します。

 我那覇さんはこの主張に対して、「沖縄にはすでに多くの特例が認められています」と指摘し、さらに「わざわざ一国二制度という制度を沖縄に持ってくることに、別の真意が隠されているのでないかと感じます」とも述べています。

 橋下氏が例として、「一国二制度をやるからには、中国本土と香港のように、日本全体とは決定的に異なることを一部地域でやらなければ意味がありません。中国経済がいまここまで発展したきっかけも、中国の深圳(しんせん)という地域を、中国とは異なる国ではないかと思えるほどの特別地域にしたことにあります」(上掲書128頁)と述べているように、まるで沖縄を中国式の制度に組み込む意図があると取られかねない表現が認められます。このあたりに、我那覇さんは危機感を感じているのでしょう。

 ただし、橋下氏の提案自体は、規制緩和を徹底して行い、民間の活力を活かして沖縄をシンガポールのような一大観光地にしようとするものです。普天間基地跡をカジノを含めた統合型リゾートとして開発し、北部、中部を沖縄の景観を活かしたリゾート地として再開発したうえで、那覇市と名護市を南北鉄道で結ぶという構想が語られています。わたし個人は沖縄の自然にカジノは似合わないと感じますが、橋下氏の構想自体は傾聴に値するものだと思います。問題はなぜ、わざわざ一国二制度という表現を使う必要があるのかということです。

 

「手続き法」は問題解決の切り札か

 橋下氏は、米軍基地を設置するための「手続き法」の制定こそが、沖縄問題解決の切り札だと主張します。これは、米軍基地を設置するためには、その市町村における住民投票を実施しなければならなくするという法律です。この法律によって、沖縄と本土が完全に公平な扱いになると橋下氏は言います。住民投票で支持されれば、米軍基地を全国どこにでも置くことができるようになるからです。

 この主張に対して我那覇さんは、国防や安全保障という国の専権事項を、住民投票で決定できる制度自体がおかしいと反対します。さらに、「国防、安全保障を左翼新聞やマスコミによって洗脳され揺さぶられている県民に委ねてしまおうという、かなり危険な話しです」とも指摘しています。

 わたしも国防を住民投票に委ねることはできないと考えますし、そんなことをすれば、米軍基地はすべて日本から撤退せざるを得なくなると思います。それを喜ぶのは、ただ中国だけでしょう。

 

沖縄にケンカ殺法は必要か

 最後に橋下氏は、国に沖縄の主張を認めさせるためにはきれいごとや正論を吐くだけではだめで、最後は国とケンカするしかないと訴えます。そして、沖縄が本気で国とケンカをするには、「『普天間基地辺野古移設の賛否』というメッセージでは弱すぎる。『沖縄独立の賛否』『中国政府に沖縄の港を貸すことの賛否』くらいの強烈なテーマでの住民投票をやるべきだと思います」(上掲書279‐280頁)と主張します。そうすれば、「このような住民投票を突き付けられて、政府与党や本土の国民は、はたと気付くでしょう。『沖縄に逃げられたら日本は大変なことになる!』『特に中国側に寄られたら大変なことになる!』『沖縄を引き留めるためには、沖縄の言い分をある程度聞かなければならない』」(同281頁)と橋下氏は言うのです。

 我那覇さんはこの提案に対して、「尖閣は自分たちの領土だと主張する中国に対して、なぜ狙われているわれわれから敢て港を貸すという賛否を問うのか。常識から考えて、正気かということに普通はなると思います」と反論します。そして、「こんなことをすれば中国に付け入るスキを与えることになります。沖縄は中国になってしまいます」と警鐘を鳴らしています。

 

中国軍艦は礼儀正しいか

 さらに次の指摘は、橋下氏の真意がいったいどこにあるのかを測りかねる内容になっています。

 「尖閣諸島周辺で中国の公船・軍艦が日本の領海を侵犯したという報道を最近よく見聞きしますが、領海に侵入したからといって直ちに領海侵犯になるわけではありません。海は原則万人に開かれたものという考えより、その沿岸国に害を与えなければ領海に侵入できる(無害通航権)というのが国際法の考え方です。(中略)中国軍艦も礼儀正しく日本国に害を与えないような航行をするのであれば、日本の領海内を航行し、沖縄の港に寄港・停泊することも可能だと理屈をこねることも全く不可能ではありません」(上掲書282頁)。

 はたして、礼儀正しい中国軍艦は存在するのでしょうか。領海侵犯をした時点で、すでに礼儀正しいとは言えないのではないでしょうか。逆に日本の軍艦が中国の領海に侵入し、中国の港に寄港しようとしたらどうなるかを想像すれば、この発言のおかしさは理解できると思われます。

 我那覇さんは、「中国の領海侵犯という挑発行為に対しては、抗議をするという視点で話をするはずなのに、敢て中国が喜ぶような理屈をこねて政府とケンカしなさいと言うんです。どこに軸足を置いてお話しをされているのか。本当に危険な本です。わたしは決意をもって批判します」と訴えています。

 

橋下氏の狙いは何なのか

 大阪で活躍してきた橋下氏が、なぜ急に沖縄について語り出したのでしょうか。

 3月8日に、大阪府松井一郎知事と大阪市の吉村洋文市長がそろって辞職しました。4月の統一地方選挙に合わせて実施される知事選挙と市長選挙に、この2人が入れ替って出馬するためです。松井知事らは、公約としてきた大阪都構想に再チャレンジするための決断だと語りました。

 松井知事と吉村市長は、今年6月の20カ国・地域首脳会合(G20)の誘致、2025年の大阪万博の誘致、カジノを含めた統合型リゾート(IR)の誘致に取り組んできました。これらの成果は、大阪府大阪市が同じ方針を持って、二人三脚で取り組まなければ叶いませんでした。府と市が対立していた時代は、さまざまな分野で大きな無駄が生じており、これは「府市合わせ(不幸せ)」と揶揄されてきました。大阪都構想は、こうした矛盾を解決するための制度だと言えます。

 しかし、2015年5月17日に、大阪市を廃止して5つの特別区を設置する大阪都構想の是非を問う住民投票が実施され、反対票が賛成票を上回って特別区の設置は否決されました。この結果を受けて、当時大阪市長だった橋下氏は政界を引退すると宣言しています。

 その橋下氏が、沖縄の政治問題を声高に語り始めました。しかも沖縄に統合型リゾートを誘致するという政策をひっさげて。大阪都構想を再度問うための、今回の大阪ダブル選挙と何らかの関連があるとしか考えられないでしょう。もしかすると橋下氏は、沖縄を足掛かりにして、政治家として再出発する可能性を模索してるのかも知れません。

 

沖縄の民意を読み誤っていないか

 そのためか橋下氏は、沖縄県民の気持ちに寄り添う姿勢を強調しています。先の大戦で沖縄が捨て石にされたという発言、米軍基地の設置に反対する「手続き法」の提案、沖縄の民意を政府に認めさせるための「ケンカ殺法」の提唱、最後には「沖縄独立の賛否」「中国政府に沖縄の港を貸すことの賛否」を問う住民投票まで提案しています。これらの発言には、橋下氏が徹底して沖縄県民の味方であることを強調する目的があるのだと思われます。

 しかし、沖縄の民意は、本土で報道されている内容と同じだとは限りません。それは、左翼系報道機関の一方的なプロパガンダかも知れません。だからこそ沖縄において、我那覇真子さんらの真正保守から、激しい批判が噴出しているのです。橋下氏は、沖縄の本当の民意を読み誤っているのではないでしょうか。

 そうではなく、もしも橋下氏が、本気で沖縄の独立や中国の一国二制度への編入を考えているなら、橋下氏は中国に取り込まれた小沢一郎氏ら親中派の政治家と、同じ命運をたどることになるでしょう。(続く)

 

 

文献
1)橋下徹:沖縄問題、解決策はこれだ! これで沖縄は再生する。.朝日出版社,東京,2019.