日本にブースター接種は必要か(5)

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  前回のブログでは、mRNAワクチンの細胞性免疫について検討しました。mRNAワクチンは、肩の筋肉に注射された後、肩だけでなく、脾臓、骨髄、肝臓、副腎、卵巣にも蓄積されることが分かってきました。そして、mRNAが入ってスパイクタンパクを作る細胞は、細胞傷害性(キラー)T細胞によって非自己であると見なされ、破壊される可能性を考慮しなければなりません。また、mRNAワクチンの副反応として心筋炎が指摘されているのは、心臓の筋細胞にも、mRNAワクチンが入り込んでいるからではないかとわたしは考えています(この問題はテーマを換えて、また検討したいと思います)。

 では、細胞傷害性T細胞が活躍する細胞性免疫は、新型コロナウィルス感染症には効力を発揮しないのでしょうか。

 

細胞性免疫は効力を発揮していない

 これまでにも繰り返し指摘してきたように、ウィルス感染症を改善させる主役は抗体ではなく、細胞傷害性T細胞が活躍する細胞性免疫です。ウィルスが生物の細胞に侵入し、細胞の増殖機能を利用して自分のRNA(またはDNA)を増殖させている間は、細胞の中に入れない抗体は効力を発揮することができないからです。増殖したウィルスを排除するためには、感染した細胞を破壊する細胞傷害性T細胞の働きが重要なのです。

 mRNAワクチンによる抗体価は、3ヶ月で25%に、6ヶ月で10%以下に低下することが分かってきました。たとえ抗体価が低下したとしても、ウィルス排除の主役である細胞性免疫が充分に機能していれば、ワクチンの効果は維持されるはずです。細胞性免疫が機能している間は新型コロナウィルスによる感染や重症化が防がれ、さらに接種が進めば、集団免疫も達成されるはずでした。

 ところが、ワクチンを2回接種し終えた国々で、次々と感染の再拡大が起こっています。そして、それらの国々ではワクチンの追加接種が始まっています。イギリスでは3回目の接種が進行し、イスラエルでは4回目の接種が始まっているのは、細胞性免疫が効力を発揮していないことの例証になっていると言えるでしょう。

 なぜ、mRNAワクチンでは、細胞性免疫が充分な効力を発揮できないのでしょうか。

 

RNAは長時間細胞に残る

 その理由を解く鍵を握るのが、ワクチンに含まれるmRNAです。少々遠回りになりますが、ワクチンのmRNAの特徴について検討することから始めましょう。

 新型コロナワクチンのmRNAについて、厚労省はホームページの中で、次のように説明しています。

 

 mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンで注射するmRNAは、数分から数日といった時間の経過とともに分解されていきます。また、mRNAは、人の遺伝情報(DNA)に組みこまれるものではありません。身体の中で、人の遺伝情報(DNA)からmRNAがつくられる仕組みがありますが、情報の流れは一方通行で、逆にmRNAからはDNAはつくられません。こうしたことから、mRNAを注射することで、その情報が長期に残ったり、精子卵子の遺伝情報に取り込まれることはないと考えられています。(新型コロナワクチンQ&A)

 

 このように厚労省の説明では、mRNAの安全性が強調されています。特にmRNAが体内に残る期間について、「数分から数日といった時間の経過とともに分解される」と述べています。

 しかし、大阪市立大学名誉教授の井上正康氏は、熊本の講演で次のように指摘しています。

 

 サーキュレーションジャーナルとファイザー社の内部資料で、実はmRNAは通常、体内でぱっと細胞の中でたんぱくを作ったらすぐ30分くらいでなくなるんですね。ところがワクチンだったらすぐ無効になるんですね。今回はこのmRNAはこれA,G,C,Uという4つアルファベットを持ってるんですが、そのUというアルファベットにメチル基というね、化学修飾をしてます。それによってものすごく分解されない、長寿命のmRNAができる。我々が核の遺伝子で作っているメッセンジャーとは全く違ったメッセンジャーが出来てるんだと。それを注射してるということをほとんど9割9分の医者が知らないんですね。研究者でもそのことを知っている人がほとんどいません。

 

 井上氏はこのように、ワクチンに含まれるmRNAは、メチル基が化学修飾されたことによって分解されにくくなった、長寿命のmRNAに作り換えられていると指摘します。

 厚労省の言うようにmRNAが数分から数日で分解されれば、人体への影響は少なくなりますが、作られるスパイクタンパクは少量に留まり、ワクチンの効果も少なくなるでしょう。ワクチンの効果を高めるために、長寿命のmRNAが創られたとしても不思議ではないと思われます。そして、この長寿命のmRNAによって、予防効果が90%以上という高性能のワクチンを創り上げたのだと考えられます。

 では、mRNAが細胞に存在する期間はどのくらいになるのでしょうか。井上氏は1ヶ月程度ではないかと指摘しています。

 

長寿命のmRNAがもたらすもの

 井上氏が指摘するように、ワクチンのmRNAが長寿命であったとしら、どのような影響が現れるのでしょうか。

 mRNAが入り込んだヒトの細胞は、mRNAが存在する限り、新型コロナウィルスのスパイクタンパクを作り続けます。すると、ヒトの身体の中でスパイクタンパクが多量に、そして長期間作られます。作られたスパイクタンパクは、マクロファージや樹状細胞が取り込んで分解します。そして、樹状細胞はリンパ節に移動して、ナイーブT細胞(ナイーブT細胞とは、まだ一度も抗原提示を受けていない未感作のT細胞のことをいいます)に抗原提示を行います。

 抗原提示を受けたナイーブヘルパーT細胞は、ヘルパーT細胞に分化し、B細胞が形質細胞に分化して抗体を産生するように導きます。一方で、抗原提示を受けたナイーブ細胞傷害性T細胞は、細胞傷害性T細胞に分化し、mRNAが入り込んで抗原提示している細胞を破壊します。

 こうしてワクチンのmRNAが存在する限り、スパイクタンパクに反応する抗体が作られ、スパイクタンパクを製造する細胞が細胞傷害性T細胞によって破壊され続けます。

 

制御性T細胞の作動

 こうした免疫の状態は、新型コロナワイルスの感染に限れば、確かに有効だと言えるでしょう。しかし、新型コロナウィルのスパイクタンパクのみに特化した免疫反応は、他の感染症に対しては不適格だと考えられます。また、スパイクタンパクを製造する自己の細胞が、細胞性免疫によって破壊され続けることも、身体にとって望ましいことではありません。

 そこで行き過ぎた免疫状態に、ブレーキがかかるような仕組みが作動します。その働きを担っているのが、制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)です。

 制御性T細胞は、1990年代に、「体から除去したら自己免疫性疾患が起こるT細胞」として発見されました。そして、免疫が暴走して自己を傷害するような状態が生じた際に、ヘルパーT細胞と細病傷害性T細胞を抑制するように働くことが分かってきました。

 mRNAワクチンによって免疫が過剰に働いている際にも、この制御性T細胞が作動しているのではないかと考えられます。

 

制御性T細胞による抗体の抑制

 制御性T細胞を発見した坂口志文大阪大学免疫学フロンティア研究センター教授は、制御性T細胞が抗体産生を抑える機序を解明しました(大阪大学研究専用ポータルサイト リソウ 2014-12-19「ワクチン接種反応における制御性T細胞の働きを解明」より)。

 坂口教授によると、その働きは次のようです。

 

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                  図1

 

 図1のように、制御性T細胞は、共抑制性分子CTLA-4を使って、ヘルパーT細胞とB細胞との情報伝達を遮断します。そのことによって、B細胞が形質細胞に分化して抗体を産生することや、B細胞がメモリーB細胞に分化することを阻害するのです。

 mRNAワクチンによって産生された抗体の抗体価が、わずか3ヶ月で25%に、6ヶ月で10%以下に低下するのは、過剰に産生された抗体に反応して、制御性T細胞が抗体産生を阻害しているからではないでしょうか。

 また制御性T細胞は、メモリーB細胞によって体液性免疫の長期的な記憶が形成されることも阻んでいます。そのため変異株が広まる度に、感染爆発が繰り返される要因の一つになっているのだと考えられます。

 

ブースター接種によって抗体量が9.5倍に

 富山大学附属病院は、同病院で12月に3回目のワクチン(米ファイザー製)を打った306人を対象に、接種から2週間後に血中内の抗体の量を調べた結果を発表しています。それによると、2回目の接種から2週間後の数値と比較したところ、対象者(中央値)の血中に含まれる抗体量が9.5倍と大幅に増加していたことが分かったといいます。

 この結果を受けて、同病院総合感染症センターの山本善裕センター長は、「3回目の接種は非常に有効なことがわかった。基礎疾患のある人や高齢者は積極的に接種してほしい」と述べています。

 しかし、ブースター接種によって抗体量が9.5倍に増加したこの結果を、そのまま「非常に有効」と断定していいのでしょうか。抗体が急激に増加すれば、制御性T細胞が働いて、抗体を減少させようとする機序が働くのではないでしょうか。そして、制御性T細胞が活性化されることによって、体液性免疫全体の働きが低下し、他の感染症を起こしやすくする可能性を考慮しなくてもいいのでしょうか。

 抗体を増やしてウィルスを排除するというmRNAワクチンの戦略は、これまでにどの国においても、感染者の一時的な減少しかもたらしませんでした。わたしたちはこの事実を、ブースター接種を行う前に、もう一度真摯に検討してみる必要があると思います。

 

 次回のブログでは、今回触れられなかった、制御性T細胞と細胞性免疫の関係についても検討したいと思います。(続く)

 

 

参考文献

・坂口志文 塚﨑朝子:免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか.講談社,東京,2020.

・齋藤紀先:休み時間の免疫学 第3版.講談社,東京,2018.

・山本一彦 監修 萩原清文 著:好きになる免疫学 第2版.講談社,東京,2019.