わたしたちはなぜ、マスクを外すことができないのか(1)

 新型コロナ感染症パンデミックも峠を越え、世界の国々の多くは、行動制限を緩和する「ウィズ・コロナ政策」に舵を切っています。それと共に、人びとはマスクを外し、従来の生活に戻りつつあります。日本でも、今後は同様の政策が採られていくでしょう。

 しかし、日本が他国とは明確に違う点があります。それは、マスクの存在です。欧米諸国などがマスクを一斉に外したのと対照的に、日本では屋外でもマスクを付けている人がほとんどです。これから夏に向けて熱中症が増えていく時期に、屋外でのマスクは健康を害する危険すらあります。

 それなのに、なぜわたしたち日本人は、未だにマスクを外すことができないのでしょうか。

 

屋外でも全員がマスク

 散歩のために屋外に出ると、そこには異様な光景が広がっています。出会う人びとが皆マスクをしているのです。それは大人だけではありません。小さい子どもや、中にはベビーカーに乗っている子どもがマスクをしていることがあります。マスクを付けてジョギングをしている人さえ見かけます。まれにマスをしていない人を見つけると、それは外国人だったりするでしょう。

 これは、わたしが住んでいる岐阜に限った光景ではありません。ここ2ヶ月の間に徳島、大阪、そして東京にも二度訪れる機会がありましたが、屋外で皆がマスクをしている風景はどこも同じでした。

 テレビで映し出される町の風景を見ても、スポーツ観戦をする観客を見ても、人は皆マスクをしています、この光景は、日本中でどこかしこでも見られるでしょう。

 

                 沖縄セルラースタジアム那覇 5月17日

 

                 大相撲五月場所 両国国技館 5月17日

 

全国で同じ光景が見られる不思議

 しかし、考えてみれば、これは不思議な現象です。マスク着用は、法律で決められたことではありませんし、誰かに命令されたことでもありません。政府によって、着用義務が課せられているわけでもありません。

 それなのにわたしたち日本人は、全国津々浦々、あらゆる場所で同じようにマスクを付けています。

 日本には1億2千万人の人間が住んでいます。人びとはそれぞれが個人として、異なる人格と思想を持っています。日本は自由主義の国であり、法の許す範囲であれば、個人の意志に従って自由に行動することができます。したがって、人がマスクをするかどうかは、個人の判断に委ねられているはずです。

 それにも拘わらず、日本人が皆、屋外でもマスクをするという同じ行動を採っているのは、実に不思議なことではないでしょうか。

 

マスクは科学的には意味がない

 そもそも、マスクをすることで、新型コロナ感染症を防ぐ効果はあるのでしょうか。ウィルスそのものは、マスクの網の目を容易に通り抜けます。マスクをしていても、ウィルスは入り込んできますし、逆に口腔や鼻腔からマスクの外に出て行きます。

 では、マスクには全く意味がないかと言えば、そうとも限りません。マスクは唾液や喀痰の飛沫なら絡め取りますから、飛沫に含まれるウィルスの放出や侵入は防ぐことができます。つまりマスクは、飛沫が届くような近い距離(通常2mと言われています)でのくしゃみや会話からは、感染を防ぐ効果を発揮します。

 一方、飛沫から水分が蒸発して乾燥するとそれは飛沫核になり、軽量になって空気中を長時間浮遊するようになります。これはエアロゾルと呼ばれ、通常のマスクを容易に通過します。つまり、飛沫が届くような距離で会話をしている際には、マスクにはある程度感染予防効果がありますが、エアロゾルが浮遊しているような状況ではマスクには意味がないことになります。

 では、こうした点から考えて、屋外でマスクを付ける意味はあるのでしょうか。屋外は換気はいいし、人と人の距離も離れているため、ウィルスを含んだエアロゾルを大量に吸い込むことはありません。そのため、屋外では感染する可能性はほとんどありません。近距離で大声で喋っていれば別ですが、少なくとも黙って歩いている人から、飛沫を浴びることはないでしょう。

 そうであれば、そもそも屋外では感染するリスクは非常に少なく、近距離で会話をする場合を除けば、マスクを付けることには科学的な根拠はないと考えられます。

 

欧米ではマスクは義務ではなくなった

 欧米では、屋外でのマスクの着用は見られなくなっています。それは、スポーツイベントを見れば明らかです。

 

 

 上の写真は、大谷翔平選手がメジャーリーグ通算100号を打ったときの写真です。観客は誰もマスクはせずに、大谷選手の偉業を称えています。

 

 

 上の写真は、イングランドプレミアリーグで、5月16日にアーセナルが敵地で完敗した時の写真です。観客は誰一人として、マスクを付けていません。

 このようにマスク着用義務の廃止は、欧米諸国では着々と進んでいます。

 イギリスではボリス・ジョンソン首相が、イングランドで導入されていた新型コロナウイルス対策を転換し、すでに1月27日から、公共施設でのマスク着用やワクチン接種証明の提示が廃止されています。

 フランスでは、2月2日から屋外でのマスク着用の義務が撤廃されていましたが、5月16日からは、公共交通機関を利用する際のマスク着用の義務も解除されました。フランス国内においては、地下鉄、バス、長距離高速列車(TGV)、航空機などでのマスク着用が不要になっています。

 EUでも5月16日に、EASA(ヨーロッパ航空安全庁)とECDC(ヨーロッパ疾病予防管理センター)が、空港や飛行機の機内で医療用マスクを着用すべきとしてきた勧告を解除しました。

 アメリカでは、3月25日にハワイ州でマスクの着用義務が撤廃され、ついに全米50州のすべてでマスクの着用義務がなくなっています。

 このように欧米諸侯では、マスク着用義務の廃止は、屋外だけでなく、公共施設や交通機関でも進められているのです。

 

日本でもようやくマスク廃止の議論が

 翻って、日本ではどうでしょうか。

 5月19日、新型コロナウイルス感染症対策を厚労省に助言する専門家組織であるアドバイザリーボードが、マスク着用について、屋外で周囲との距離が十分に確保できない場合でも、会話がほとんどなければ必ずしも必要ないとする見解をまとめました。

 これを受けて、翌20日に後藤厚労大臣は、屋外では周囲との距離が十分とれなくても、会話が少なければ、必ずしもマスクを着用する必要はないとの見解を発表しました。一方で、通勤電車の中では、会話をほとんど行わない場合でもマスク着用を推奨するとしています。

 また、政府見解では、未就学児のマスク着用についても言及されました。それによれば、 2歳未満については引き続きマスク着用は推奨せず、2歳以上で就学前の子どもについても、一律にマスク着用を求めないとしました。

 

 以上のような政府の発表を受けて、日本からは今後、人びとがマスクをする姿は見られなくなってゆくのでしょうか。(続く)