眞子さまは複雑性PTSDなのか(1)

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 宮内庁は10月1日に、秋篠宮家の長女眞子さまと小室圭さんの結婚発表を行いました。その中で、眞子さま複雑性PTSD心的外傷後ストレス障害)と診断されていたことを明らかにしました。

 この突然の発表は、人びとを驚かせました。眞子さまと小室さんの結婚がすでに決定事項として発表されたこともそうですが、なによりも眞子さま複雑性PTSDだと公表されたことがあまりにも唐突な印象を与えたからです。さらに、複雑性PTSD精神疾患の診断名であり、わざわざ精神疾患であると世間に公表することが、ご本人の名誉と自尊心を傷つけかねないからです。

 宮内庁はいったいどんな目的をもって、このような発表に踏み切ったのでしょうか。そして、眞子さまは本当に複雑性PTSDなのでしょうか。

 

突然の発表

 10月1日の会見には宮内庁幹部のほか、精神科医の秋山剛・NTT東日本関東病院品質保証室長が同席しました。秋山氏によると、眞子さまは2018~19年ごろから、「平穏で幸福な生活を送りたいという願いが、不可能となってしまう恐怖を感じるようになられた」といいます。その結果、眞子さま複雑性PTSD心的外傷後ストレス障害)と診断される状態になっていたことを明らかにしました。

 そして秋山氏は、「複雑性PTSDによって公的な活動や結婚の準備に支障はない」とし、「周囲の方々の温かい見守りがあれば、健康の回復は速やかに進むと考えられる」と述べました。

 秋山氏の説明は、わたしたちが臨床の現場で経験する複雑性PTSDの症状や予後と、かなり異なる印象を受けます。そのため秋山氏の説明は、純粋に医師の立場から病気の説明を行ったのではなく、宮内庁のなんらかの思惑にそってなされたものであるように推察されます。

 ことの真偽は後に検討するとして、まずは秋山氏の発表をたどってみましょう。

 

誹謗中傷によって尊厳が踏みにじられた

 秋山氏は、眞子さまが受けられた精神的苦痛について、次のように述べます。

 

 眞子内親王殿下は、ご結婚に関する、ご自身とご家族及びお相手とお相手のご家族に対する、誹謗中傷と感じられるできごとが、長期的に反復され、逃れることができないという体験をされました。

 このため、2018~19年頃から、誹謗中傷を正すことが難しい、状況を変えることが困難であるという無力感を感じる状態で、ご自分達の人間としての尊厳が踏みにじられていると感じ、また、結婚後、平穏で幸福な生活を送りたいという願いが、不可能となってしまう恐怖を感じるようになられたと伺っています」 

 

 秋山氏は、眞子さまが「ご結婚に関する、ご自身とご家族及びお相手とお相手のご家族に対する、誹謗中傷と感じられるできごとが、長期的に反復され」たために、複雑性PTSDと診断される状態に至ったと説明しています。

 事実、小室さんや彼の母親に対する誹謗中傷、そして結婚自体に対する非難が湧き上がっていたことは確かでしょう。こんなことを言っては大変失礼ですが、一般の家庭であっても、このような結婚話しがきたなら、家族としてはとても賛成できないと思われるからです。

 それはともかく、眞子さまのお立場からすれば、国民からのこのような反応は心外だったでしょうし、愛する人への誹謗中傷には少なからず傷つかれたことと推察されます。さらには、ご自分が望まれた「平穏で幸福な生活を送りたいという願いが、不可能となってしまう恐怖を感じるようになられた」としても不思議ではないでしょう。

 ただし、眞子さま自身に対しての誹謗中傷は、本当にあったのでしょうか。わたしなどは、眞子さまが純粋であるがゆえに惑わされているのではないか、その結果大変つらい思いをされているのではないかと、僭越ながら心配になったほどです。程度の差こそあれ、多くの国民の思いはそうだったのではないでしょうか。

 

眞子さまの精神症状

 いずれにしても眞子さまは、度重なる誹謗中傷によって、次のような症状が出ることになったといいます。

 

 「このため、ご自分を価値がないものと考えられたり、感情が揺さぶられたり、以前に比べると他の人との関係を避けてしまうことがおありになったようです。

 後には、誹謗中傷と感じられる内容を目にした場合はもちろん、例えば、特定の文字を見ると、実際には関係のない内容であっても、恐怖感を再体験(フラッシュバック)することがあったと伺っております。ある時期からは、誹謗中傷と感じられるできごとに関する刺激は、できる限り避けていらっしゃるとのことです。

 加えて、人生が壊されるという恐怖感が持続し、悲観的になり、幸福感を感じるのが難しい状態になっていらっしゃいます。このため、些細な刺激で強い脅威を感じられたり、集中困難、焦燥感、無気力といった症状も、おありのようです。皇族のお立場として、公的なご活動には精一杯の力を尽くしておられ、私的なご勤務なども継続されていましたが、日常的に、非常な苦痛を感じられることが多いと伺っております」

 

 上述の内容のうち、「誹謗中傷と感じられる内容を目にした場合はもちろん、例えば、特定の文字を見ると、実際には関係のない内容であっても、恐怖感を再体験(フラッシュバック)することがあった」、「誹謗中傷と感じられるできごとに関する刺激は、できる限り避けていらっしゃる」、「人生が壊されるという恐怖感が持続し、悲観的になり、幸福感を感じるのが難しい状態」、「些細な刺激で強い脅威を感じられたり、集中困難、焦燥感、無気力といった症状」という箇所が、PTSD心的外傷後ストレス障害)の症状に当たる部分でしょう。

 つまり、過去の恐怖感を何度もフラッシュバックすること、恐怖体験に関わる刺激をできる限り避けること、恐怖感が持続して幸福感を感じられないこと、集中困難、焦燥感、無力感が続くといった症状です。

 さらに、「自分を価値がないものと考えられたり、感情が揺さぶられたり、以前に比べると他の人との関係を避けてしまう」という症状が、複雑性PTSDの症状に当たる箇所でしょうか。過去の恐怖体験によって日常生活が妨げられるだけでなく、自己肯定感が著しく障害されたり、他者との関係が悪化するといった症状が加わることで、複雑性PTSDと診断されるからです。

 

操作的診断法の罠

 上述の秋山氏の発表が、どれけ眞子さまの症状を正確に伝えているかは分かりません。しかし、診断については、症状を列挙して診断名を挙げていることから、彼の診断はICD(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)やDSM精神疾患の診断・統計マニュアル)といった操作的診断法によっていることが分かります。

 操作的診断とは、ある疾患の症状がいくつか列記されており、そのうちのいくつかが当てはまればその疾患として診断されるという診断方法です。症状を当てはめてみるだけで診断がつくわけですから、誰でも大差なく診断をつけることができます。そのため、統計や研究を行うために盛んに利用されるようになりました。ICDやDSMに統計分類とか統計マニュアルという言葉が入っていうのはそのためです。

 一方で、この診断法は症状を当てはめているだけですから、必ずしもその疾患の病理やその疾患の本質を現しているとは限りません。人間の心は複雑であり、心の苦しさが常に同じ症状を出すわけではありません。苦しさが表現する症状は人によって様々ですから、症状だけから心の苦しさや精神の病理の本質を理解することは難しいとわたしは考えています。

 そのため、秋山氏の「眞子さまにはこういった症状がおありになるから複雑性PTSDと診断される」という発表は、必ずしも正しいわけではないと思われます。

 実は、複雑性PTSDと診断される患者さんは、眞子さまの病状とはかなり異なるものです。次回のブログで、複雑性PTSDの一般的な症例について述べてみることにしましょう。(続く)