祖国を貶める人々 鳩山由紀夫(1)

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 総理在任中はもとより、政界を引退してからもその言動で日本を貶め続けている人物に、鳩山由紀夫氏がいます。

 鳩山氏は中国に招かれ、尖閣諸島は日中間の係争地であると言って領有問題が存在すると認めただけでなく、「中国側から日本が盗んだと思われても仕方がない」とまで発言しました。ロシアが一方的にクリミアの併合を宣言した際には、日本を始め先進7か国が併合に反対しているにもかかわらず、鳩山氏はモスクワ入りして「(クリミア住人は)編入を希望した」と併合に理解を示しました。

 韓国に訪問した際には、抗日の象徴と言われる西大門刑務所跡地を訪れ、モニュメントに献花した後に土下座して謝罪の意を示しました。そして、「日本が貴国を植民統治していた時代に、独立運動家らをここに収容し、拷問というひどい刑を与え命を奪ったことを聞き、心から申し訳なく思っている」と謝罪の言葉を表明しました。

 こうした鳩山氏の言動は、当然のごとく中国、韓国、ロシアでは称賛を受けましたが、日本政府の立場を悪くし、日本の国益を損なうように利用されました。

 鳩山氏はなぜ、いつまでも日本を貶めるような言動を続けているのでしょうか。

 

アメリカからの自立を目指した

 鳩山氏は、日本を貶めることの多い左翼の人たちとは異なる側面を有しています。それは鳩山氏が共産主義への反対を表明し、憲法改正を主張して、2005年には『新憲法試案―尊厳ある日本を創る』(PHP研究所)を出版していることからも分かります。

 また、鳩山氏が総理就任早々に「年次改革要望書」を廃止したことも、アメリカからの自立を目指すための意思表示だったと言えるでしょう。

 宮沢・クリントン首脳会談による政府間合意を根拠として、1994年から毎年、アメリカから日本に年次改革要望書が提示されるようになりました。そこには、日本の産業、経済、行政から司法に至るまで、すべてを対象にした様々な要求が列挙されました。この文書によって示されたアメリカの要求が、現実の政策となって日本社会を改革して行きました。郵政民営化は小泉元総理の持論ではありましたが、年次改革要望書で要求されていたことも見逃すことができません。このシステムによって、日本はアメリカにとって都合のいい社会へと変革されていったのです。

 鳩山総理による年次改革要望書の廃止は、アメリカによる日本への影響力を排除する試みだったと言えるでしょう。

 さらに、在日米軍再編問題では、沖縄の普天間基地について「最低でも県外に移設する」と言って物議をかもしました。結局移設先は見つからずに、この発言が鳩山内閣を退陣に導く端緒となりました。しかし、この問題の根本には、「日米同盟は基調としながらも、日本に米軍の軍隊が未来永劫駐在し続けるのを当然のことと考えてはいけない。米国にもはっきりと主張しなければ、日本としての誇りを失い、独立国と見なされない」(『中央公論』2002年9月号)という鳩山氏の主張があります。

 つまり鳩山氏の言動の背景には、アメリカから日本の自主・独立を目指すという政治思想が存在しているのです。

 

東アジア共同体構想

 鳩山氏は、日本がアメリカ追従を脱して自主・独立を達成した際には、東アジア共同体を目指すべきだという構想を抱いていました。

 ペリーによって無理やり開国させられ、不平等条約を結ばされた日本は、対米戦でアメリカに挑みましたが、アメリカに完膚なきまでに叩きのめされました。そして戦後は在日米軍を抱え、半ばアメリカの軍隊に護ってもらいながら独立を保っています。

 こうした歴史的経緯を鑑みれば、アメリカからの自主・独立を目指し、それが達成された暁にはアジアに軸足を移して、東アジア共同体を目指すという鳩山氏の構想は、一定の理解が得られるものと思われます。鳩山氏が打ち立てた東アジア共同体構想は、大日本帝国が目指した大東亜共栄圏構想と重なるものであり、その焼き直しであると言えるかも知れません。

 では、鳩山氏の構想はなぜ実現しなかったのでしょうか。そして、彼のその後の言動が、日本を貶め続けることになったのはどうしてなのでしょうか。

 

アメリカから自立できない現実

 鳩山氏の構想は、日本人の無意識にあるアメリカへの屈辱感や敵愾心に合致するため、心情的には賛同できるものでした。鳩山内閣の発足当時の支持率が75%にもなった一因として、対米追従を続ける自民党政権とは異なる政治姿勢に対する、国民の期待感があったのかも知れません。

 しかし、アメリカからの自立を成し得た政治家はいません。かの田中角栄でさえ、アメリカからの自立を果たせなかったばかりか、降ってわいたようなロッキード事件によって政治生命を絶たれることになりました。強固な政治力をもっていた田中角栄氏ですらそうなのですから、政治的基盤の弱い鳩山氏が、アメリカから独立を達成できるはずがありません。

 

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 鳩山氏が年次改革要望書を廃止した時点で、アメリカ政府は強い不快感を示しました。さらに、普天間基地の県外移設を公約した際には、アメリカ政府からは強烈な反感を買いました。オバマ大統領に対して、鳩山総理は「トラスト・ミー」と訴えかけましたが、以降アメリカ政府からは相手にされなくなりました。アメリカのマスコミからは、鳩山総理は「ルーピーloopy: 間抜けな)」と揶揄されるようになりました。

 しっかりとした現実的な政治戦略もないまま、自らの理想をそのまま政策に乗せる鳩山氏の手法は、現実の大きな壁に容易に跳ね返されたのでした。

 

現実に跳ね返された後は

 現実の壁に跳ね返され、総理として政策を実現できないまま退陣した鳩山氏は、その後どのような途を歩むことになったのでしょうか。

 ここで考えられる方向は二つでした。一つは跳ね返された現実の政治を理解し、自らの理想を実現するための現実的な方策を探求する方向です。この方法であれば、理想の実現はいったんは遠のきますが、現実と妥協しながら僅かでも理想を実現するための方策を探っていくことになります。これが責任ある政治家の歩む途だと思われます。

 もう一つの方向は、あくまでも理想を追求する方向です。現実の壁は見ないこととして、さらに理想を追求してゆくことになります。この場合は、現実的な政策の実現は遠のき、理想はさらに先鋭化されてゆきます。

 鳩山氏は、残念ながら後者の途を歩みました。

 

宇宙的視野で政治を語る

 もともと鳩山氏は、国という単位で政治を語るべきではないという思想を抱いていました。

 『RONZA』の1996年6月号において、鳩山氏は「わがリベラル・友愛革命」と題する自らの政治理念を発表し、その中で次のように語っています。

 

 スペースシャトルエンデバー号』で宇宙を飛んだ若田光一飛行士は、地球を眺めながら何を思ったことだろう。そして日本を見つけたときに何を感じただろうか。地図には国境があるが、実際の地球には国境が存在しないということを、どのように実感したであろうか。宇宙意識に目覚めつつあるこの時代に、国とは何なのか、私達は何のために生きているのかを、いま一度考え直してみるべきではないか、政治の役割をいま見つめ直す必要があるのではないかと思う」

 

 世界では国と国は利害の対立をみせて争い、紛争を繰り返しています。自国を第一に考え、利益を略奪しているばかりか、他国を侵略している国すらあります。宇宙からみれば、地球には国境は存在しません。今世界で見られている国同士の対立は、なんと狭い視野で、意味のない争いを繰り返しているのでしょうか。宇宙的意識に目覚めれば、国同士の対立は意味をなさないのであって、今こそ地球全体が友愛の精神のもとで一つにまとまるべきである、と鳩山氏は訴えたかったのかも知れません。

 

宇宙意識に目覚めた 

 現実の政治に行き詰まったあと、鳩山氏はついに宇宙的な視野に立って、国と国との関係を考えるようになりました。宇宙から概観すれば、地球で起こっている国家間の紛争など、なんと意味のない愚かな行為でしょうか。実際の地球に国境など存在しないように、政治に求められるのは、国境がなくなってゆくような政策を実行することだと鳩山氏は考えたのです。

 日中間の尖閣諸島問題、植民地問題に端を発した日韓の対立、果てはクリミア半島の帰属をめぐるロシアとウクライナの対立などは、宇宙的な視野に立てばほんの些事にすぎません。友愛の精神を持ち、相手の立場に立って行動すれば、そして両者が宇宙意識に目覚めれば、こうした問題自体が存在しなくなるでしょう。

 鳩山氏はこのように確信して当事国に訪れ、問題の解決を図ろうと行動を起こしたのだと思われます。鳩山氏の中では、自らの行動こそが、世界の紛争を解決する根本的な方法であると確信していたのかも知れません。ただ、そこには決定的に欠落していたものがあります。

 それは、「現実」でした。(続く)