安倍政権はなぜ歴代最長になったのか(番外編)日本の新型コロナ戦略 ③

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 日本の新型コロナウィルスに対する戦略は、クラスターやメガクラスターを監視下に置き、さらなるクラスターを発生させないように一人一人を管理するという地道な活動を行ってきました。

 ところが、東京や大阪などの大都市で、3月下旬ころから感染経路が追えない人々が増えてきました。つまり、隠れたクラスター、監視下に置けないクラスターが増加してきたのです。

 そこで日本は、新たなコロナウィルス対策に迫られることになりました。安倍総理は、4月7日に特別措置法に基づき、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象に、緊急事態宣言を行いました。さらに安倍総理は、「最も重要なことは、国民の皆さんの行動を変えることだ。私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することだ」と国民に訴えかけました。

 果たして新たなコロナウィルス対策は、功を奏するのでしょうか。

 

海外の反応

 安倍総理の緊急事態宣言の発令に対して、海外のメディアは次のように報じています。

 

 「日本は何ヶ月もの間、他の国で使用されているような厳しい措置を課すことなく、比較的低いコロナウイルス感染率を報告することで世界を混乱させてきた。日本の安倍首相は、緊急事態宣言することで人と人との接触を大幅に減らすよう国民に要請することにより、『感染拡大は2週間ほどで減少に変わることが出来る』といった楽観的な見方を示した」

                          ニューヨークタイムズ

 

 ニューヨークタイムズは、日本が新型コロナウィルスに対してきちんと対応してこなかっただけでなく、感染者を過少報告して世界を混乱させてきたと非難しています。さらに、今回の緊急事態宣言は人と人の接触を大幅に減らすように国民に要請しただけであり、感染が2週間で減少に転じると考えるのは、楽観的に過ぎないと指摘しています。

 

 アメリカやドイツ政府は、日本が他者との距離を取る戦略を講じていないことや、広範囲のウイルス検査を実施していないことについて、かねて強く批判している。
また日本の医療専門家からは、東京での流行はすでに制御できる一線を越えており、緊急事態宣言は遅すぎたとの指摘も出ている」  

                                 BBC

 

 「日本が他者との距離を取る戦略を講じていない」とは、欧米諸国がとっている外出禁止令を行っていないことを指しているのでしょう。さらにBBCは、PCR検査を広範囲に行っていないことにも批判を加えています。そして、緊急事態宣言はすでに遅きに失しており、東京は感染爆発を免れないだろうと指摘しています。

 

 また、フランス紙フィガロは、日本ではフランスのようなロックダウン(都市封鎖)はできないという安倍首相の参議院決算委員会での答弁を紹介したうえで、「日本人は在宅を強制されないし、自粛要請に従わなくても企業は処罰されない」と指摘し、「日本の緊急事態宣言は、現実には見せかけだけ」と評しました。

 

 罰則を伴う緊急事態宣言を行ったにもかかわらず、感染爆発を起こした欧米諸国から見れば、日本の緊急事態宣言は見せかけだけで、何の実効性も伴わないものに映ったのでしょう。

 

日本国内からの批判

 同様の批判は、日本国内かも起こっています。

 WHOのテドロス事務局長の上級顧問を務める渋谷健司氏は、HUFFPOST日本語版の中で、日本の動きは遅すぎるくらいだと指摘します。そして、「東京は感染爆発の初期に当たると見ています。(中略)東京は、このままいけば急激に感染者が増えるでしょう。本当なら先週4月1日が緊急事態宣言を出す最後のチャンスだったが、それを逃してしまった。できれば都市封鎖くらいのことをやらないと、東京に関してはもう手遅れかもしれません」と述べて、東京の状況に警鐘を鳴らしています。

 世論調査の結果も批判的です。

 産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)の調査では、安倍晋三首相が7日、東京や大阪など7都府県を対象に「緊急事態宣言」を発令したことには「評価する」が65.3%、「評価しない」が29.0%でしたが、発令のタイミングについては、「遅すぎる」が82.9%で、「適切だ」の12.4%を大きく上回りました。

 この後行われた内閣支持率も、軒並み低下しました。産経新聞・FNN(11~12日)は、支持率39.0%(2.3ポイント減)/不支持率44.3%(3.2ポイント増)。共同通信(10~13日)は支持率40.4%(5.1ポイント減)/不支持率43.0%(4.2ポイント増)。読売新聞(11~12日)は支持率42%(6ポイント減)/不支持率47%(7ポイント増)で、いずれも支持率と不支持率が逆転しました。

 

厚労省クラスター対策班の地道な取り組み

 こうした批判にさらされながらも、実際に新型コロナウィルスの対策に当たっている人たちは、今も地道な活動を続けています。

 厚生労働省対策推進本部クラスター対策班の活動が、4月11日にNHKスペシャルの「新型コロナウィルス 瀬戸際の攻防~感染拡大阻止 最前線からの報告~」で紹介されました。

 そこで描かれたのは、東京での感染者の急増、地方への感染の連鎖、病院での院内感染の増加、そして緊急事態宣言、刻々と変化し、悪化する事態の対応に追われる対策班の緊迫した日々でした。

 対策を講じても新たな問題が発生し、さらに新たな対策を講じていく。こうした状況が繰り返され、果てしなく続くかのようにみえるクラスター対策班の様子は、『Fukushima 50』で描かれた、原発事故後も対応に当たった人々の状況を思い起こさせます。わたしには、クラスター対策班で指揮に当たる押谷仁東北大学教授の姿が、免震重要棟で最後まで指揮を執った吉田昌郎所長とダブって見えました。

 

各市町村でも同様な対応

 クラスター対策班で行われている対応は、各県の保健所や、各市町村の保健所でも行われています。クラスターやメガクラスターを監視下に置き、さらなるクラスターを発生させないように徹底して指導するという地道な活動が行われています。

 そして、新型コロナウィルス感染症への対応は、当然のことながら各市町村に存在する病院でも行われています。

 各県には、新型コロナウィルス感染の対象病床があります。その病床を超えて感染者が発生した地域が、4月15日の段階ですでに16の都道府県に及んでいます。新型コロナ病床は、当初に指定された病床よりも随時拡張しているのですが、それにもかかわらず感染者の増加に追い付いていないのです。そのため、このまま感染者の増加が続けば、重症者の患者の治療が滞ってしまう状況、すなわち医療崩壊が起きかねない状況が迫っています。

 

日本のコロナ対策とは

 憲法に緊急事態条項がなく、非常事態宣言にも罰則を伴う強制力がない日本では、国からの命令で強制的に行動を制限することができません。そのため、中国や欧米諸国のように都市を封鎖することはできませんし、緊急事態宣言を守らない人々を罰することもできません。また、韓国のように感染拡大防止のため、PCR検査で陽性になった人々の行動をスマホのアプリを使って公開し、社会全体で監視するというような対策は日本では馴染まないでしょう。

 では、どうしたらいいのか。新型コロナウィルス感染症への対応も、日本社会に根付いた、日本社会に適したものにするべきでしょうし、畢竟そうならざるを得ないと思われます。

 日本社会に適した方法とは、日本社会の中空均衡構造に適した方法になります。

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                  図1

 

 日本は、欧米諸国のような政府を頂点に置いたピラミッド型社会ではありません。図1のように中心が空で、まわりにバウムクーヘンのように各層が広がる中空均衡構造の社会です。

 安倍内閣が指針と対策を発令しますが、それが強制力をもって各自治体や個人を縛るわけではありません。内閣の指針と対策は、各層に届けられ、その指針をもとに各層の対策が練られます。

 内閣の指針と対策を受けて、各都道府県が独自の判断と対策を行います。厚労省クラスター対策班の指針と対策を受けて、各市町村の保健所が独自の判断と対策を行います。また、保健所と協力しながら各病院が同時の判断と対策を行います。そして、これらを受けて各個人が独自の判断と対策を行うのです。

 

一人一人の行動にかかっている

 これまで日本の新型コロナウィルス感染症対策について述べてきましたが、つまるところ最も大切なことは、一人一人の自覚と行動です。

 新型コロナウィルス感染拡大の阻止に向けて、ひとりひとりが対策の当事者であり主役であるという自覚をもって、人との接触を8割減らし、集団・近距離・密閉空間(習近平)を避ける、または密閉、密集、密接の3つの「密」を避ける行動を率先して採ることです。

 わたしは、日本人が本気になれば、大多数の人はこれができると思います。

 日本では毎年、3,000人がインフルエンザで亡くなっています。日本人が新型コロナウィルスへの対策を徹底することで、インフルエンザの感染者が減って死亡者数も減少することでしょう。その結果として、新型コロナワイルス感染症で一定の人が亡くなるとしても、インフルエンザによる死亡者との合計が、今年は3,000人を下回るとわたしは考えています。(「日本の新型コロナ戦略」了)