安倍政権はなぜ歴代最長になったのか(番外編)日本の新型コロナ戦略 ②

f:id:akihiko-shibata:20200310000804j:plain

 前回のブログでは、新型コロナウィルス感染症に対する日本の戦略について述べました。それは新型コロナウィルスの特徴をもとにした、日本独特の戦略でした。

 今回のブログでは、新たな戦略に迫られる、日本の新型コロナウィルス対策について検討したいと思います。

 

クラスターをつぶすこれまでの戦略

 新型コロナウィルスは、クラスターやメガクラスターを作るという特徴があります。これは通常のコロナウィルスに認められる、くしゃみや咳によって伝染する飛沫感染では説明できない感染形態です。つまり、一度に多数の人が感染するメガクラスターを形成する原因を理解するためには、新型コロナウィルスが、空気感染のような感染形態をとる可能性を考えなければなりません。

 しかし、SARSやかぜ症候群などのコロナウィルスは、これまで飛沫感染(と接触感染)という感染形態しか知られていませんでした。そこで考えられているのが、エアロゾルによる感染です。

 エアロゾルによる感染はまだ仮説に過ぎません。エアロゾルは、空気中で霧状に浮遊する粒子のことをいいます。そして、大声を出したり、歌を歌うなどの換気量が増大するような活動によって空気中に拡散するエアロゾルを、マイクロ飛沫と呼びます。人の口から発したマイクロ飛沫は、密閉した空間の中では一定の時間空気中で漂います。このマイクロ飛沫に含まれるウィルスを吸入することによって、新型コロナウィルスは感染するというのです。

 この仮説に基づけば、1対複数の密接した接触や密封空間での接触によって、クラスターやメガクラスターが発生しているという新型コロナウィルスの感染特徴をよく説明できます。そこで、日本の新型コロナウィルスに対する戦略は、このクラスターやメガクラスターを監視下に置き、感染者や濃厚接触がさらなるクラスターを発生させないように徹底的に指導するという地味な活動を行うことによって、一定の成果を収めてきました。

 

感染経路が追えない

 ところが、東京や大阪などの大都市で、3月下旬ころから感染経路が追えない人々が増えてきました。つまり、隠れたクラスターが増加し、監視下に置けないクラスターが増加してきたのです。

 

 

f:id:akihiko-shibata:20200409014523p:plain

 東京都内の新型コロナウィルス感染者数   毎日新聞デジタル

              図1

 

 図1のように、東京では感染者数の増加と共に、感染経路が不明な症例が増加していることが分かります。4月8日には、感染経路が不明で調査中のケースは、新たな感染者144人のうち7割近い95人を占めています。

 毎日新聞は、「都内感染者のうち『夜の街』の利用者の保健所による聞き取りは難航しており、感染経路不明者の3分の1程度がこうした夜間外出でうつった可能性がある」と指摘しています。

 

感染爆発の危険

 感染経路が不明な感染者が増加するにつれ、都市部ではオーバーシュート(感染爆発)の危機が迫ってきました。

 

  f:id:akihiko-shibata:20200410012443p:plain

                                               東京都 新型コロナウィルス感染症対策サイトより

                    図2

 

 図2は、東京都の新型コロナウィルス感染者の累計です。一定の増加数を保ってきた感染者数が、3月下旬から急激に増加していることが分かります。

 こうした傾向は、日本全体でも認められます。

 

 

f:id:akihiko-shibata:20200410013819p:plain

           新型コロナウィルス 最新状況マップ /JX通信社   

                  図3

 

 図3のように、東京と同じように、全国で感染者が急激に増加しています。その原因はやはり、感染経路が不明な感染者の割合が大きくなっていることです。これまでのように、クラスターを監視下に置くことができなくなっています。そのため、監視下にないクラスターから、突然いくつものクラスターが発生することが起こっているのです。

 こうした状況において、感染拡大を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。

 

緊急事態宣言

 安倍総理は、4月7日に特別措置法に基づき、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県を対象に、緊急事態宣言を行いました。その中で安倍総理は「海外で見られるような『都市封鎖』を行うものではなく、公共交通機関など必要な経済社会サービスは可能なかぎり維持しながら、『密閉』、『密集』、『密接』の3つの密を防ぐことなどで、感染拡大を防止していく」とした対応を求めました。

 さらに安倍総理は「最も重要なことは、国民の皆さんの行動を変えることだ。専門家の試算では、私たち全員が努力を重ね、人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができる。大型連休が終わる来月6日までの1か月間に限定して、国民の皆さんには7割から8割の削減を目指し、外出自粛をお願いする」と呼びかけました。

 

人と人との接触を8割削減させる

 ところで、「人と人との接触機会を最低7割、極力8割削減することができれば、2週間後には感染者の増加をピークアウトさせ、減少に転じさせることができる」とはどういうことなのでしょうか。

 厚生労働省クラスター対策班の西浦博北海道大学教授は、感染者数の予測を数理モデルによって以下のように解析しています。

 

f:id:akihiko-shibata:20200412013133p:plain

                     日本経済新聞電子版より

                  図4

 

 西浦教授の試算によれば、何も流行対策をしなければ東京都の感染者数は急増し、1日あたり数千人を超えてさらに増加する恐れがあるといいます。

 人の接触を2割程度抑えた場合は、流行を数日遅らせることができても、爆発的な患者増は抑えられません。

 一方、人の接触を8割程度減らすことができれば、潜伏期間などを踏まえ、10日~2週間後に1日数千人の感染者が発生しますが、これをピークに、その後には感染者を急激に減少させることができるというのです。 

 

クラスターとの接触を避ける

 では、人との接触を8割削減させるために、どのような行動をとればいいのでしょうか。

 生活をするためには人との接触は避けられません。また、人との接触を割合で測ることも難しいでしょう。だとすれば、具体的にはどうしたらいいのか。

 それは、クラスターとの接触を極力避けることです。東北大学大学院医学系研究科の押谷仁教授によれば、クラスターの発生条件は以下のようでした。

 

f:id:akihiko-shibata:20200404025403p:plain

                図5

 

  図4のように、手の届く距離に多くの人がいる、近距離での会話や発声がある、密接空間であり喚起が悪い、という条件が揃ったときにクラスターが発生しやすいことが分かっています(これを、集団、近距離、密閉空間から、集近閉(=習近平)と呼んでいます)。

 そして、クラスターを避けるためには、3つの「密」を避けることが推奨されています。

 

 

f:id:akihiko-shibata:20200404031632p:plain

                    図6

 

 クラスターを避けるとは、以上のように集団、近距離、密閉(習近平)を避ける、または密閉、密集、密接の3つの「密」を避けることに他なりません。

 これは、厚生労働省対策推進本部クラスター対策班が行ってきた、新型コロナウィルス感染症対策と同じです。つまり、これまで国のクラスター対策班が行ってきたことを、これからは国民一人一人が自ら行うことを意味するのです。

 

 日本社会は、以上のような対策によって、感染爆発を回避することができるのでしょうか。(続く)