安倍政権はなぜ歴代最長になったのか(3)

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 前回のブログでは、安倍内閣の経済政策について検討しました。安倍内閣ではデフレの克服に重点が置かれ、積極的な金融緩和と財政出動が行われました。その結果、失業率の低下と株価の上昇をもたらし、さらには3万人を超えていた自殺者の減少にも寄与しました。

 しかし、安倍内閣は、外国人労働者を受け入れる制度を整備し、アイヌ新法を制定し、消費税を10%に上げる政策も行いました。さらに、習近平国家主席国賓として日本に招こうとするなど、左翼的な政策も積極的に推進しています。

 安倍内閣は、なぜこのような政策を実行に移したのでしょうか。

 

外交の中心は日米同盟

 安倍総理はこれまでの政権にはみられないほど外交に力を入れ、毎月のように外国に渡って首脳外交を繰り広げています。第二次安倍政権になってからの訪問国・地域は80、のべ訪問国・地域は173におよび、その飛行距離は1,558,990㎞で、地球38.97周に相当するといいます(2020年1月7日現在、首相官邸ホームページ)。

 安倍総理はこれを「地球儀を俯瞰する外交」と呼んでいますが、多方面にわたる外交の中においても、その中心に位置するのは「日米同盟」でしょう。それは、2015年に安倍総理アメリカ議会で行った演説に現れています。

 

米議会で訴えた「希望の同盟」

 祖父である岸信介以降では初めてとなるアメリカ議会での演説は、実に40分に及びました。そこで安倍総理は、岸内閣が行った(アメリカ軍に基地を提供するためだけの条約から)日米共同防衛を義務づけたより平等な条約に改正した1960年の日米安全保障条約の改定に触れたうえで、日米安保が日米関係の安定と、日本の繁栄にいかに寄与してきたかを訴えました。

 安倍総理は、硫黄島で戦ったローレンス・スノーデン海軍中将と栗林忠道大将の孫である新藤義孝議員を招いて、両者の握手をもって日米和解の象徴としました。そして、日米同盟は、自由と民主主義という共通の価値観を有する両国による、深い信頼と友情で結ばれた同盟であると捉えました。さらに、東日本大震災で救難作戦を採ってくれた米軍に感謝を述べたうえで、日米の同盟を世界を希望に導くための同盟、つまり「希望の同盟」にしようと呼びかけています。

 

トランプ大統領との蜜月

 安倍総理は、世界で最初にトランプ氏と会談した要人として知られています。2016年11月にニューヨークのトランプタワーを訪れた安倍総理は、翌年1月の就任式を控えたトランプ氏に対して、次のように語ったといいます。

 

 「私とあなたは一つの共通点がある。あなたはニューヨーク・タイムズに徹底的に叩かれた。私も、ニューヨーク・タイムズと連携している日本の朝日新聞に徹底的に叩かれた。だが、勝った」(『安倍「一強」の秘密』1)10頁)

 

 これを聞いたトランプ氏は、ニコリと笑って「俺も勝った!」と親指を突き出して答えたといいます。このとき、安倍総理トランプ大統領の心を一瞬で掴んだのです。トランプ大統領は、安倍総理をこう称えています。

 

 「シンゾーはウオーリアー(勇士)だ。グレート・ウオーリアーだ。文在寅(ムンジェイン)のようなウィーク(弱虫)な奴とは違う。平和、平和と唱えて大統領に当選したような奴はダメだ」(『安倍「一強」の秘密』10頁)

 

 その後の安倍総理トランプ大統領の蜜月は周知の通りです。令和に入って最初の国賓として日本を訪れたトランプ大統領は、大相撲観戦をしたりゴルフをしたりと、安倍総理とプライベートな時間を過ごしました。ゴルフの際に撮られた満面の笑みを浮かべた二人の写真が、両首脳の関係を端的に現しているでしょう。

 

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国際舞台での存在感を増す

 安倍総理トランプ大統領との関係だけではなく、ロシアのプーチン大統領とも何度も会談して関係を深めており、さらにヨーロッパ首脳との連携も強化しています。2019年2月1日には日本と欧州連合EU)の経済連携協定EPA)が発効され、日本が約94%、EUが約99%の品目で関税をなくすことが決定しました。また、 日本とアメリカ合衆国間の自由貿易協定も、2020年1月1日に発効しました。中国の海洋進出に対しては、日米豪州に加えてインドのモディ首相との良好な関係を生かして、インド・太平洋地域を連携して封じ込めようとする戦略を立てています。

 こうした実績を背景に、安倍総理の国際的な発言力は高まっています。自国第一主義を掲げるとトランプ大統領とヨーロッパ首脳が対立した際には、両者の仲介役を果たしました。

 

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 最近では、イランの核開発をめぐって。アメリカとイランの緊張が高まっていますが、安倍総理はイランを訪れて最高指導者のハメネイ氏と会談をするなど、仲介者としての役割を果たそうとしています。

 

孤立しつつある中国

 中国がチベット自治区新疆ウイグル自治区において、文化と宗教を根絶する試みを行い、さらに新疆ウイグル自治区では、共産党が政府の収容所に100万人ものイスラム教徒のウイグル人を投獄し、24時間体制で思想改造を行っていることが明るみに出ることによって、国際社会からの非難を受けています。

 さらに、香港政府による逃亡犯罪人引き渡し条例の改正案に反対する人々が、連日大規模なデモを巻き起こす様子が世界中に報道されることによって、中国には自由と人権が存在しないことが、改めてジュローズアップされました。その影響を受けて、1月11日に行われた台湾総統選で、中国から距離を採る立場である民進党蔡英文総統(63)が、史上最多得票で再選を果たしました。

 世界の覇権を握ろうとする中国に対して、すでに2018年からアメリカが追加関税をかけたことを端緒として、相互に関税をかけあう、いわゆる米中貿易戦争が勃発しており、現在もそれは続いています。

 こうした世界情勢の中で、なぜ安倍総理習近平国家主席国賓として日本に招こうとしているのでしょうか。

 

自民党内に勢力を持つ親中派

 安倍総理は、若き時代からウィグルやチベットの人権侵害について、問題意識をもって政治活動を続けてきた政治家です。中国政府による人権弾圧が国際社会から問題視されている現在、世界の流れから逆行するように、習近平国家主席国賓として日本に招くことが本意であるとは思えません。

 そこには自民党内に一定の勢力を持っている、二階幹事長を中心とする親中派の存在があるのでしょう。さらに、中国での利益を増やしたい経団連からの要望も存在しているのでしょう。また、安倍総理の側からも、彼らの存在を無視できない理由があるのだと思われます。それは、一つは選挙での協力関係であり、もう一つは政策実現のための取引ではないでしょうか。安倍総理が悲願としている憲法改正のためには、各業界の支援と自民党内での幅広い賛同を得る必要があるからです。

 しかし、安倍総理習近平主席の来日を受け入れたのには、さらに別の理由も存在しているのではないかと考えられます。(続く)

 

 

文献

1)石橋文登:安倍「一強」の秘密.飛鳥新社,東京,2019.