安倍政権はなぜ歴代最長になったのか(2)

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  安倍総理は第一次政権で行き詰まった後、潰瘍性大腸炎の悪化(と、うつ状態)によって退陣を余儀なくされました。その後の安部氏は、自分が何を失敗したのか、何をすべきだったのかを見つめ直しただけでなく、後の政権の失敗からも教訓を学び取ろうとしました。こうした経緯を経て、第二次政権以降の安部総理は、どのように変貌したのでしょうか。

 

経済政策に舵を切る

 第二次安倍政権の特徴は、第一次内閣で手がけた外交、安全保障から一転して、経済政策に重点を置いたことです。デフレ経済を克服するためにインフレターゲットが設定され、これが達成されるまで大胆な金融緩和措置を講ずるという政策が発表されました。この経済政策は、アメリカ合衆国大統領ロナルド・レーガンの経済政策として有名な「レーガノミクス」にちなんで、「アベノミクス」と称されました。

 アベノミクスは、経済成長を目的として、1.大胆な金融政策、2.機動的な財政政策、3.民間投資を喚起する成長戦略 の三つを「三本の矢」として政策運営の柱に掲げました。これらの政策は金融緩和をして市場に資金を流出し、財政出動によって市場に投入する資金を増やし、さらに民間企業への投資を増やして経済を活性化しようとするものです。2%のインフレターゲットを置くなど、デフレを脱却し、経済成長を推し進めることに重点を置いた戦略であると言えるでしょう。

 

反安倍勢力の主張

 アベノミクスに対しては、賛否両論が巻き起こりました。反アベノミクス派からは、得をするのは富裕層や大企業だけで、庶民にとっては厳しい経済状況になるとか、経済格差を助長するだけであるといった批判がなされました。反アベノミクスの識者の中には、アベノミクスのことを「アホノミクス」と称する人もいました。

 また、財務省財政再建を主眼としており、財政の健全化のために支出を増やすよりも増税が必要であると強調します。彼らを代表する財政破綻論者は、日本は1000兆円の借金を抱えていて、このままでは財政が破綻すると主張します。そのため財政再建が絶対に必要であり、もはや消費税を増税するしかないと訴えています。

 では、アベノミクスは間違った経済政策であり、そこには成果はみられないのでしょうか。

 

失業率低下と株価上昇

 アベノミクスの成果として挙げられるのは、失業率の低下と株価の上昇です。

 第二次安倍内閣が発足した平成24年12月の時点での完全失業率は、4.2%でした。それが徐々に低下を続け、令和元年11月の完全失業率は2.2%にまで下がりました。大卒者の卒業年の就職率は、平成30年には98%まで上昇しています。

 一方で、第二次安倍内閣が発足した平成24年12月26日の日経平均株価は、10,230円でした。その後株価は上昇を続け、令和2年1月17日現在の日経平均株価は、24,041円と2倍以上に上がっています。

 反アベノミクスの人々は、これらの数値が示すのは、一部の人々への恩恵に過ぎないと主張します。しかし、わたしは、アベノミクスは一定の成果を上げていると思います。その成果が、精神医学の分野でも現れているからです。

 

自殺者の減少

 それは、自殺者の減少となって現れています。

 日本は世界的にみて、自殺者の非常に多い国です。それは、宗教・文化的な背景があるからかも知れません。キリスト教イスラム教は自殺を禁止しているのに対して、日本には武士の切腹にみられるように、自殺を一種の誉れとする文化が存在しているからです。そのためか、日本の自殺者数は、一時は世界のトップテンに入っていました。

 以下の図は、我が国における自殺者の推移です。

 

 

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                 図1

 

 図1が示すように、平成10年から平成23年の間は、日本の自殺者は年間3万人を超えていました。ところが、第二次安倍内閣が発足後は自殺者は減り続け、平成30年には20,840人にまで減少しています。ピーク時の平成15年からすると、13,587人も減少していることになります。

 このような自殺者の増加と減少は、どうして起こったのでしょう。

 

中年男性自殺者の増加

 図1が示す通り、自殺者の増加は男性自殺者の増加によって起こっています。それをさらに年齢別に分析してみましょう。

 

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                  図2

 

 図2が示す通り、自殺者の年代で1番多いのが50歳代で、次が60歳代でその次が40歳代と続きます。したがって図1の資料と合わせて検討すると、自殺者の増加は、中高年の男性自殺者の増加によって起こっていると捉えることができます。

 

増加の原因は経済不況

 平成10年に自殺者は、32,863人と初めて3万人台に到達しました。前年から、一気に8,472人も増加したことになります。このようなことは、世界の歴史を見渡しても稀なことのようで、この統計を他国の精神科医にみせると、日本に一体何が起こったのかと非常に驚かれるといいます。
 では、平成10年にはいったい何が起こったのでしょうか。それは、経済不況の影響が如実に現れたことです。平成3年に始まったバブルの崩壊は、いよいよ経済に深刻な影響をもたらしました。平成9年には企業倒産が1万7439件になり、負債総額は前年度を65%も上回る15兆1203億円にのぼり、戦後最悪になりました。このような経済状況の悪化に追い詰められた人々の急増が、自殺者の数を押し上げる大きな要因になったと推察されます。

 以上の検討から、平成10年から平成23年まで続いた自殺者の異常な増加は、中高年の男性によってもたらされており、そこには経済状況の悪化が大きな影響を与えていたと考えることができるでしょう。

 

減少の端緒は東日本大震災

 日本の自殺者は平成24年に3万人を下回るようになりましが、その前年に大きな出来事がありました。平成23年3月11日に発生した、東日本大震災です。

 東日本大震災は、死者と行方不明者を含めて2万人近くの人命を奪い、東北のインフラを破壊し、原発での水素爆発と放射能被害をもたらして、日本社会に甚大な傷痕を残しました。

 その一方で、被災地では掠奪や暴動はほとんど起こらず、人々は互いに協力し、助け合いました。各国のメディアは、震災後の日本人の秩序正しさ、冷静さ、他者を思いやる心に賞賛を送りました。すべての生命を同等に尊重し、互いを思いやり助け合う日本人の精神は、千年に一度の大震災という非常事態であったからこそ、なおさら外国人を感動させたのでしょう。

 外国人の目を通して伝えられた評価は、異なった文化というフィルターを通したために、より一層明確な形となってわたしたちの元に届けられました。わたしたちはこうして、自分たちが忘れかけていた日本の文化を再認識し、失われていた自尊心を取り戻していったのです。

 わたしは、平成10年から3万人を超えていた自殺者が、東日本大震災が起こった翌年の平成24年に2万7千人台に減少したのは、日本人が自尊心を取り戻したことの具体的な現れであったと考えています。(以上の詳細は、2018年6月のブログ『日本人が誇りを取り戻す日は来るのか』をご参照ください)。

 

アベノミクスが自殺者の減少を推し進めた

 日本人が日本文化の良さを再認識し、自尊心を取り戻すことによって減少し始めた自殺者の数は、平成24年以降も減少を続けました。その要因として大きいのが、男性自殺者数の減少です。図1をみると、全自殺者の減少と男性自殺者数の減少は並行して進んでいます。つまり、自殺者の減少は、男性自殺者の減少に負うところが大きいと考えられます。

 平成10年に男性自殺者数が急増したのは、先に指摘したように、前年に企業倒産が1万7439件になり、負債総額が15兆1203億円で戦後最悪になったことが要因でした。そうであれば、平成24年以降に男性自殺者数が減少を続けていることは、経済状況が改善し続けているからではないでしょうか。つまり、安倍内閣が行ったアベノミクスが、着実に成果を上げていることの証左として自殺者の減少は捉えられるのです。

 

 以上のように、安倍内閣の経済政策は、一定の成果を収めてきました。その成果を実感している人々が安倍政権を支持し、長期政権を支える原動力になっているのでしょう。

 しかし、令和元年10月から消費税を10%に上げたように、安倍総理は必ずしもデフレの克服だけを目指しているわけではないようです。そればかりか、外国人労働者を受け入れる制度を整備したり、アイヌ新法を制定したり、習近平国家主席国賓として日本に招こうとするなど、左翼的な政策も実行するようになっています。

 これはいったい、何を意味するのでしょうか。(続く)