韓国はなぜ繰り返し賠償を求めてくるのか(8)

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 この一連のブログを書いている間にも、また日韓で新たな問題が起こりました。それは、韓国海軍が起こした、自衛隊機への火器管制レーダー照射事件です。この明らかな問題行為に抗議した日本に対して、なんと韓国外務省は日本に謝罪を要求するという事態に発展しています。なぜ、このような珍事が起っているのでしょうか。

 

火器レーダー照射事件の概要

 まずこの事件の概要から振り返っておきましょう。昨年の12月20日、日本の排他的経済水域内の公海上である石川県能登半島沖で、海上自衛隊のP-1哨戒機が韓国海軍の広開土王級駆逐艦によって火器管制レーダーを照射されるという事件が起こりました。
 火器管制レーダーを照射するとはロックオンすること、つまり韓国海軍の駆逐艦が日本の哨戒機に対して攻撃動作に入ったということを意味します。これは明らかな敵対行為に当たるため、反撃されても文句が言えない行為であると言えるでしょう。そこで日本側は韓国の駆逐艦に意図を問い合わせましたが、応答がなかったといいます。

 以上のような韓国海軍の行為に対して、日本政府は正式に抗議しました。これに対して韓国側は、「レーダーを運用したが日本の哨戒機を追跡する目的で使用した事実はない」とか、「遭難した北朝鮮の捜索のために火器管制レーダーを可動させたが、瞬間的に日本の哨戒機が入り込んできた」などと弁明したうえに、「海上自衛隊の哨戒機が低空飛行で威嚇してきたことが問題だ」と逆に日本を非難しました。
 そこで日本がその際の映像を公開し、韓国側がレーダーを5分間、2回にわたり照射したことや、火器管制レーダーは捜索用に適さないことなどを挙げて反論すると、韓国の軍関係者や一部の韓国メディアは、「日本の反応は行き過ぎ」と非難したり、さらに「安倍首相が支持率挽回のために反韓感情を利用した」という意見まで飛び出しました。そして、ついに韓国国防省が、「威嚇的な低空飛行」をしたとして日本に謝罪を求める声明を発表したのです。

 

内的自己が前面に出ている韓国

 韓国の一連の行動は、威嚇したうえにさらに相手に謝罪を求めるという通常の理解を超えたものです。それどころか、相手を一層いらだたせ、問題の解決をますます困難にする対応であると思われます。最初の段階でレーダー照射を謝罪し、関係者を処罰して再発防止策を提示すれば、問題は直ぐに終息したでしょう。それどころか、いわゆる徴用工問題で悪化しつつあった日韓関係を、改善させる端緒になったかも知れません。

 それができないのは、現在の韓国が内的自己が前面に出ているからです。ここで、内的自己の特徴をもう一度述べておきましょう。

 

 「内的自己は、そのような外的自己を自分の仮の姿、偽りの自己と見なし、外的自己の行うことに感情的に関与しなくなり、あたかも他者の行動をながめるように距離をおいて冷静に突き放してそれを観察しようとする。
 内的自己のみが真の自己とされるが、内的自己は、外的現実および他者と切り離され、遊離しているため、ますます非現実的となり、純化され、美化され、妄想的となって行く」(『ものぐさ精神分析1)12頁)

 

 このように内的自己は現実から切り離され、ますます非現実的になり、妄想的となって行きます。現在の韓国は内的自己が前面に出ているため、現実的な対応ができなくなっています。それは内的自己が自尊心を守ることを最優先し、現実がまったく見えていないからです。

 

内的自己が求めるものとは

 このように内的自己は、自尊心を守ることをなによりも最優先します。そのために現実への対応を放棄し、自己の内面に閉じこもり、自己を純化し、美化して行きます。朝鮮が併合され、内的自己と外的自己に分裂した当時の内的自己を思い起こしてみましょう。

 併合時代における内的自己を代表する人物が、安重根(アン・ジュングン)と姜 宇奎(カン・ウギュ)でした 。彼らは、伊藤博文を暗殺し、朝鮮総督に任命された斎藤実を暗殺しようとした独立運動家です。彼らは現在の基準でいえばテロリストですが、韓国では民族独立を訴えた運動家であり、建国の英雄として今日でも称えられています。彼らは真の朝鮮人として純化され、美化されて尊敬を集めています。

 以後の内的自己は、彼らを模倣しています。韓国の自尊心を守ることができれば、韓国人として純化され、美化されて尊敬を集めることができます。そこには、現実的な観点は排除されています。つまり、自尊心を守ること以外は視界からいっさい失われるのです。

 

従軍慰安婦と徴用工問題では

 いわゆる従軍慰安婦問題では、この問題の発端となった「済州島で韓国人女性を強制連行した」という吉田清治の記事が虚偽であると分かっても、そのような事実は何の影響も与えませんでした。韓国人は、反日ナショナリズムで得られる自尊心を保つために、今日も世界中で慰安婦像を建て続けています(昨年12月28日にフィリピン北部ルソン島中部のラグナ州サンペドロ市に設置された慰安婦像が、日本大使館の抗議を受けて1月3日までに撤去されました)。さらに文政権は、「最終的かつ不可逆的な解決」をうたった2015年の日韓合意を覆し、11月21日に「和解・癒し財団」の解散を発表しました。

 いわゆる徴用工問題も同様です。彼らの多くは自らの意志で日本の企業で働き、相応の報酬を得ていたため徴用工ではないのですが、今日では強制労働をさせられたと主張しています。さらに、この問題は、1965年の日韓請求権協定で完全に決着したはずでした。それにもかかわらず、韓国最高裁新日鉄住金に賠償を命じたのみならず、原告代理人関係者は1月2日になって、ついに韓国内にある同社の資産差し押さえ申請を裁判所に提出しました。

 以上の二つの事案は、国と国との約束を一方的に無視した、または近代的な法の概念を破った近代国家としてはあり得ない行為です。こうした現実的な国際関係や法の概念という現実は切り離され、ただただ自尊心を守ることしか見えていないのが、現在の韓国の状態です。

 

火器管制レーダー問題の解決はない

 現在の韓国が、内的自己が前面に出ている以上、火器管制レーダー問題は現実検討に基づいた解決はあり得ません。韓国は自尊心を守ることしか考えられないため、どのような客観的な事実を突きつけても、絶対にそれを認めることがないからです。

 これまでも日本側が客観的な事実や映像を提供しても、韓国側がそれを認めることはいっさいありませんでした。そればかりか、1月4日には、日本が提出した映像にわずか11秒の映像を、しかも日本の哨戒機が威嚇的な低空飛行をしたとはとうてい見えない映像を添えて、日本に謝罪するように求めてきました。すでにこの問題は、事実をもとに検討する範疇を超えてしまったと言えるでしょう。

 防衛省はさらなる証拠の公開を検討しているほか、近く韓国側に反論する文書を出す方針のようです。さらに今後の韓国側の対応次第では、証拠として軍事機密であるレーダーの波長データの公開を検討していると言います。

 軍事機密の公開まで至ったらどうなるでしょうか。さすがに韓国政府は事実を認めて謝罪するでしょうか。残念ながらそうなる可能性は低いでしょう。

 

自尊心を守るために絶対に謝罪しない

 内的自己が前面に出ている韓国は、自らの自尊心を傷つけるようなことは絶対に行わないでしょう。では、この問題はどうなるのでしょうか。

 ここで参考になるのが、「日韓歴史共同研究」における論争です。古田博司は、日韓で行われた歴史共同研について、次のように述べています。

 

 「韓国が日本の歴史に文句をつけてくる歴史論争なのだが、これはもう、はっきり言って戦争である。戦争は、なにも武器を使ってする戦争だけが戦争ではない。武器を使わないでする戦争のことを外交というのだが、日韓歴史共同研究は外交の一つである。(中略)

 会議は怒鳴りあいである。韓国人が歴史歴事実を曲げて嘘をつく。韓国側の先生が嘘をつくと、日本側の先生が『嘘をつくんじゃない』と怒鳴る。そうすると、韓国側の教授たちが『良心はないのか!』『愛情はないのか!』などと再び怒鳴る」(『韓国・韓国人の品性』2)42‐43頁)。

 

 火器管制レーダー問題でも、同じことが起こるのではないでしょうか。この問題で日本側が客観的事実を突きつければつけるほど、「日本人に良心はないのか!」「日本人には韓国に対する愛情はないのか!」と訴えるような感情論に終始することになると考えられます。

 

文在寅政権は究極の内的自己

 現在の日韓関係において、こうした問題が次々と起こっているのは偶然ではありません。それは、文在寅ムン・ジェイン)政権が内的自己を代表する、それも過去にないほど究極の内的自己を代表する政権だからです。この点については、次回のブログで検討してみたいと思います。(続く)

 

 

文献

1)岸田 秀:ものぐさ精神分析青土社,東京,1977.

2)古田博司:韓国・韓国人の品性.ワック株式会社,東京,2017.