日本にブースター接種は必要か(6)

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 前回のブログでは、mRNAワクチンでは分解されにくい長寿命のmRNAに作り替えられており、ヒトの細胞内でスパイクタンパクが長期間作られ続けていることを指摘しました。長期間作られるスパイクタンパクに対して多量の抗体が産生され、その結果mRNAワクチンは、新型コロナウィルスに対して90%以上の高い予防効果を示しました。

 しかし、行き過ぎた抗体産生に対して、制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)が抑制をかけます。そのため、mRNAワクチンによって産生された抗体の抗体価が、わずか3ヶ月で25%に、6ヶ月で10%以下に低下するのです。

 この機序は、細胞性免疫に対しても起こるのでしょうか。今回のブログで検討してみたいと思います。

 

免疫の恒常性を維持

 制御性T細胞を発見した坂口志文大阪大学免疫学フロンティア研究センター教授は、制御性T細胞が免疫の恒常性に対して果たす役割を、次のように述べています。

 

 「制御性T細胞は、自己免疫性疾患の発症を抑えるだけでなく、かなり広範な免疫応答に関わっていることがわかってきた。例を挙げると、臓器移植時の拒絶反応(移植免疫)、炎症、アレルギー反応、さらには妊娠においても、制御性T細胞は、さまざまなな有害で過剰な免疫応答を抑制することで、免疫の恒常性の維持に重要な役割を果たしている」(『免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか』1)

 

 制御性T細胞が、「有害で過剰な免疫応答を抑制することで、免疫の恒常性に重要な役割を果たしている」としたら、mRNAワクチンによる細胞性免疫の賦活に対しても当然働きかけているでしょう。なぜなら、mRNAは、注射された肩の筋肉だけでなく、脾臓、骨髄、肝臓、副腎、卵巣、そして恐らくは心臓にも入り込んで、スパイクタンパクを作っているからです。制御性T細胞が働かなければ、mRNAが入り込んだこれらの細胞は、細胞傷害性T細胞によって軒並み破壊されてしまうと考えられます。そうなってしまえば、現在副反応として問題視されている心筋炎は、ほとんどの人で発症しているに違いありません。

 

制御性T細胞が免疫を抑制する仕組み

 では、制御性T細胞が免疫応答を抑制する方法は、どのような機序によって行われているのでしょうか。坂口教授は、前掲書で次のように説明しています。

 

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        (『免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか』153頁から引用)                

                 図1

 

 図1は、樹状細胞などの抗原提示細胞が、未感作のナイーブT細胞に抗原提示を行う際に、制御性T細胞がそれを抑制する機序を模式図で示したものです。

 ナイーブT細胞が活性化するためには、T細胞受容体がMHCクラスⅡ受容体から抗原提示を受けるだけでは不充分で、ナイーブT細胞に発現したCD28と抗原提示細胞の補助資源分子であるCD80やCD86が結合することで生じる副刺激が必要になります。抗原提示細胞から抗原提示を受け、かつ抗原提示細胞から副刺激を受けることによって、初めてナイーブT細胞が活性化され、エフェクターT細胞に分化することができます。

 制御性T細胞は、CD28と構造的によく似ていて、しかもCD80やCD86と結合する親和性が20倍も高いCTLA-4を常時発現しており、このCTLA-4を介してCD80/86の発現を抑制します。その結果、制御性T細胞は抗原提示細胞からの副刺激を抑制し、ナイーブT細胞の活性化を阻止しているのです。

 

T細胞免疫の抑制

 以上のナイーブT細胞の抑制は、ナイーブヘルパーT細胞でも、ナイーブ細胞傷害性(キラー)T細胞でも行われます。その結果として、制御性T細胞は、体液性免疫と細胞性免疫の両方を抑制することになります。

 以下はそれを示したシェーマです。

 

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                 図2

 

 図2のように、制御性T細胞はヘルパーT細胞や細胞傷害性T細胞を、そして前回のブログでも述べたようにB細胞の活性化をも抑制しています。

 

自然免疫も抑制

 さらに制御性T細胞は、自然免疫の抑制にも関与しています。

 以下は、その関与を示したシェーマです。

 

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                  図3

 

 胸腺で選別された未熟なT細胞には、大きく分けてCD4という分子をもつCD4陽性ナイーブT細胞と、CD8という分子をもつCD8陽性ナイーブT細胞があります。CD8陽性ナイーブT細胞は全て細胞傷害性T細胞に分化しますが、CD4陽性ナイーブT細胞は3系統のヘルパーT細胞(Th1、Th2、Th17)か制御性T細胞の4つに分化します。

 ヘルパーT細胞のうちTh1は細胞性免疫を、Th2は体液性免疫を推し進め、Th17は免疫反応を推し進める役割を主に担っています。さらに、TH1はマクロファージを、Th17は好中球やマクロファージを刺激して自然免疫を高める働きももっています。

 制御性T細胞は、Th1やTh17を抑制するため、体液性免疫や細胞性免疫だけでなく、高まっている自然免疫も抑制することになるのです。

 

ブースター接種は免疫の過剰反応と抑制を繰り返す

 以上のように、制御性T細胞は、過剰に反応する体液性免疫や細胞性免疫、そして自然免疫を抑制し、免疫の恒常性を維持しようとします。

 mRNAワクチンによって過剰にスパイクタンパクが産生され、mRNAが全身の細胞に入り込めば、体液性免疫や細胞性免疫は過剰に反応を起こします。この過剰な反応が維持されている状態のときに新型コロナウィルスに感染すれば、ワクチンは高い予防効果を発揮してきました(ただし、オミクロン株は変異が大きいため、予防効果にも疑問が呈されています)。しかし、過剰な免疫反応に対して制御性T細胞が恒常性を保とうとすれば、体液性免疫や細胞性免疫、さらには自然免疫は抑制されます。抗体価の減少から推測すれば、これらの免疫反応は、3ヶ月から6ヶ月間で抑制されると思われます。

 免疫が抑制されると、新型コロナワイルスに再び感染しやすくなります。全ての免疫が抑制されているのですから、感染は急速に拡大します。そこで再び免疫反応を高めようとして行われるのが、ブースター接種です。

 

イスラエルでの実例

 ワクチンによる免疫の過剰反応と制御性T細胞による免疫の抑制という現象が、実際に現われているのが、ワクチン先進国であるイスラエルです。

 イスラエルにおける、ワクチンの接種と新規感染者数の変移を示したのが以下のグラフです。

 

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                 出典:世界保健機関(WHO)COVID-19

                 図4

 

 2020年12月19日から、イスラエル政府は世界に先駆けて、高齢者、持病を抱える人、医療従事者を対象にワクチン接種を開始しました。2021年6月1日には、国民の70%以上が2回の接種を終えました。

 しかし、デルタ株による再感染者や重篤な患者が急増したため、イスラエル政府は7月30日から、60歳以上で少なくとも5ヶ月前に2回目のワクチン接種を受けた人に3回目の接種を開始しました。

 イスラエル保健省は、3回目の接種以前には「ファイザーのワクチンの予防効果は39%に低下している」と公表しています。つまり、わずか2ヶ月ほどで、ワクチンの予防効果は90%台から39%まで低下したことになります。これは、制御性T細胞による免疫抑制作用が働いてたからでしょう。図4で、3回目のワクチン接種後も感染者が急増しているのは、制御性T細胞の働きによって、体液性免疫だけでなく、細胞性免疫や自然免疫までが抑制された結果であると考えられます。

 イスラエルの保健省は、 3回目の接種を行った結果、「接種してから10日後の予防効果は、2回目の接種を終えた時より約4倍高まった」とし、さらに「重症化や入院を抑制することにおいては、5倍から6倍効果が高まった」と発表しました。ブースター接種によって、体液性免疫と細胞性免疫が再び活性化されたのです。

 しかし、ブースター接種の効果は、一時的なものに過ぎませんでした。制御性T細胞の働きによって免疫反応が再度抑制され、2021年の12月末からはオミクロン株の急激な感染増加が始まりました。そのためイスラエル政府は、2022年の1月3日から、60歳以上の高齢者と医療関係者に対して、ついに4回目(!)の接種を開始しました。

 以上の経過は、ワクチン接種による免疫の過剰な活性化と制御性T細胞による免疫抑制が交互に繰り返される、果てないループであると言えるでしょう。

 

ワクチン依存症にならないために

 ブースター接種をすれば、体液性免疫と細胞性免疫が活性化されます。富山大学附属病院の報告によれば、ブースター接種による抗体量は、2回接種時の9.5倍に増えたといいます。しばらくは体液性免疫は、そしておそらく細胞性免疫も高い効力を発揮すると思われます。しかし、過剰な免疫反応は、制御性T細胞による免疫抑制反応を招きます。過剰な免疫反応であればあるほど、抑制も強くかかることになるでしょう。そうなれば数ヶ月後には、免疫全体が極端に抑制された状態を招く可能性があります。

 そうなった際には、新型コロナ感染症だけでなく、他の感染症にも罹患しやすくなるでしょう。さらには免疫能力の低下によって、悪性腫瘍が発生したり、増大したりする懸念すらあります。

 ここで免疫能力の低下を補おうとして、さらなるワクチン接種が行われます。ワクチン接種によって、再び免疫は活性化されます。しかし、過剰な免疫活性を招くmRNAワクチンは、一時的な効果しかもたらしません。免疫活性が過剰であればあるほど、免疫の恒常性を保とうとして制御性T細胞が免疫を抑制します。そして、免疫が強く抑制されれば、免疫を回復するためにさらなるワクチンが不可欠になってしまいます。イスラエルのワクチン接種は、まさにこの実例であると言えるでしょう。

 こうした過程は、刹那的な問題解決のためにアルコールや薬物を常用する、アルコール依存症や薬物依存症と同じ病理であると考えられます。つまり、mRNAワクチンは、ワクチン依存症を招く可能性があるのです。

 このような危険性のあるワクチンを、わたしたちは本当に打ち続ける必要があるのでしょうか。(了)

 

 

文献

1)坂口志文 塚﨑朝子:免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか.講談社,東京,2020.

 

参考文献

・齋藤紀先:休み時間の免疫学 第3版.講談社,東京,2018.

・山本一彦 監修 萩原清文 著:好きになる免疫学 第2版.講談社,東京,2019.