日本を貶めようとする人々 総理を蔑んで喜ぶ人たち(3)

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 前回のブログで、安倍総理(当時)を一貫して罵倒し続ける適菜収氏は、実は保守主義者を標榜しており、「保守思想の根幹にあるのは愛であり、『人間を愛せ』ということです。大地に根差したものを愛するのが、反イデオロギーたる保守の本質」だと主張しています。

 その保守主義者である適菜氏は、なぜ安倍総理を、口汚い言葉で罵り続ける必要があったのでしょうか。

 

保守の立場を主張した第一次政権

 安倍総理は、以前から保守色が強いことで知られていました。そのため拒否反応を示すメディアもありましたが、第一次政権の安倍総理は「戦後レジーム(戦後体制)からの脱却」を掲げ、批判を恐れずに信念を貫くという姿勢を示しました。
 平成18(2006)年9月に第一次安倍内閣が発足すると、安倍総理北朝鮮の核実験に対する経済制裁の方針を打ち出しました。国連で北朝鮮制裁決議を引き出し、さらに韓国の廬武鉉大統領や中国の胡錦涛主席と会談して、北朝鮮封じ込めの戦略をとりました。

 内政では、教育基本法改正、防衛省の庁昇格、国家公務員法の改正、国民投票法などを成立させ、首相の諮問機関として「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」を設置しました。さらには日本版NSC国家安全保障会議)設立に向け、国会に設置法案も提出しました。

 こうした安倍総理の強硬な姿勢が、リベラル勢力やマスコミの反感を招き、徹底した安倍批判キャンペーンが繰り広げられました。それに加えて閣僚の問題発言や自殺、事務所費問題などが相次ぎ、平成19(2007)年の参院選自民党は歴史的大敗を喫しました。安倍総理内閣改造を行って出直りを図りましたが、持病の潰瘍性大腸炎を悪化させ、わずか1年で退陣を余儀なくさせられました。

 

経済政策に舵を切る

 こうした経験の反省からか、第二次政権では、安倍総理は経済政策に舵を切りました。安倍総理は、第一次内閣で手がけた外交、安全保障から一転して、経済政策に重点を移しました。デフレ経済を克服するためにインフレターゲットが設定され、これが達成されるまで大胆な金融緩和措置を講ずるという政策を発表しました。この経済政策は、アメリカ合衆国大統領ロナルド・レーガンの経済政策として有名な「レーガノミクス」にちなんで、「アベノミクス」と称されました。

 外国との関係では、安倍総理は2013年3月にTPP(環太平洋パートナーシップ Trans-Pacific Partnership)への参加を表明します。アメリカが離脱した後は主導的な役割を果たし、2018年3月に参加11か国が協定に署名して2018年12月の発効にこぎつけました。さらにヨーロッパ首脳との連携も強化し、2019年2月1日には日本と欧州連合EU)の経済連携協定EPA)が発効され、日本が約94%、EUが約99%の品目で関税をなくすことが決定しました。また、 日本とアメリカ合衆国間の自由貿易協定も、2020年1月1日に発効しました。

 こうした政策は、新自由主義グローバリズムに与するものとして、一部の保守層から批判を受けました。

 

安倍総理の変節

 さらに安倍総理は、保守の立場からかけ離れた政策も実行します。

 財務省の意向を受けて、安倍総理は2019年10月から消費税を10%に上げました。そればかりか、外国人労働者を受け入れる制度を整備したり、アイヌ新法を制定したり、習近平国家主席国賓として日本に招こうとするなど、左翼的な政策も実行しようとしました。

 外国人労働者の受け入れや習主席の国賓来日は、経済界からの要請に沿ったものです。アイヌ新法は当時の菅官房長官が中心になって成立させたものですが、背後には左翼や親北朝鮮勢力が存在することが指摘されています。

 このように安倍政権は、まるで自らの主張がないかのように、あらゆる方面からの要請を政策として実現させていったのです。

 

安倍内閣は中空均衡構造

 安倍総理の保守政治からの変節は、保守層からの激しい反発を招きました。しかし、安倍内閣が、経済界や親中派やリベラルからの要請まで受け入れて政策を実現していったのには、社会構造的な理由があるとわたしは考えています。

 それは、『安倍政権はなぜ歴代最長になったのか』で指摘した、日本社会に特異的な「中空均衡構造」です。「中空均衡構造」は、心理学者の河合隼雄氏が古事記をもとに提唱した概念です。それによれば、「中空均衡構造」を持つ日本社会は、新しいものや異質なものを排除するのではなく、まず受け入れることから始めます。受け入れたものは、それまでの内容とは異質であるため当初はギクシャクしますが、時間の経過と共に全体調和のなかに組み込まれてゆきます。そして調和の中に組み込まれた異質な要素は、いつの間にか日本社会の中に溶け込んでその一部になるのです。

 安倍内閣が歴代最長になったのは、安倍内閣自体が、この「中空均衡構造」を呈するようになったからに他なりません。

 

保守からも攻撃を受けた安倍総理

  安倍内閣は、「中空均衡構造」を呈することによって、あらゆる方面からの要請を受け入れて政策を実現しました。そのため、日本社会のなかで最も安定した基盤をもつ政権になりました。しかし、その一方で、従来のリベラル層からだけでなく、保守層からも反発や攻撃を受けるようになりました。これは特筆すべき事実です。それが安倍総理の大きなストレスになり、任期途中の退陣に追い込まれる要因の一つになりました。

 習近平主席の国賓来日や新型コロナ感染症対策によって、保守層の安倍批判は一層高まりました。保守本流と目されていた安倍晋三という政治家への大きな期待が、安倍総理の変節?によって、裏切られたという失望と怒りに変わったからでしょう。

 適菜収氏も、そうした保守論客の一人なのだと考えられます。しかし、それにしても安倍総理に対する罵りには、目に余るものがあります。

 なぜ、適菜氏はこれほど安倍総理を攻撃する必要があったのでしょうか。

 

総理を罵倒する快感 

 そこには、心理的な要因があると思われます。

 たとえば、安倍総理に対して「バカが総理大臣になった」と非難したとしましょう。すると、非難した適菜氏は、安倍総理をバカと呼べるほど優秀であることになります。つまり適菜氏は、日本の総理大臣、しかも歴代最長政権になった歴史的な総理大臣よりも、数段優れた存在として自己を位置づけられるのです。

 これは、ちょっとない快感でしょう。さらに「安倍晋三がやったことをひとことで言えば、国家の破壊である」「シンプルな売国である」「安倍と安倍周辺の一味は一貫して嘘をつき、社会にデマをまき散らした」と畳みかければ、快感はさらに増してゆきます。

 この快感は、さらなる快感を求めます。これ以上の快感を得るためには、よりひどい罵倒が必要になります。そのため、適菜氏は、安倍総理を犬にまで譬えて「メンタリティーが犬。箸が持てず、犬食いなのもそれが理由だろう」などと非難します。そして、ついに「究極の凡人」「白痴」「目の前にあるゴミ」とまで罵倒するようになったのでした。

 ここまで来ると、適菜氏は、安倍総理を罵倒することに酔いしれているようにさえ見えます。

 

敵の敵は味方

 適菜氏は、「保守思想の根幹にあるのは愛であり、大地に根差したものを愛するのが、反イデオロギーたる保守の本質」だと指摘します。日本の大地に根差したもの、日本の郷土に根差したもの、日本の社会に根差したもの、そして日本の文化に根差したものを愛することは、確かに日本人にとって大切なことでしょう。しかし、これらはあくまでも、保守思想の理想に過ぎません。現実の社会では、この理想が実現しないことも、この理想に反対する人もいるでしょう。

 しかし、適菜氏はあくまで保守の理想を追求します。適菜氏にとっては、グローバリストやリベラリスト、そして親中派の要請を取り入れる安倍総理は、まさに国賊のように映ったのかもしれません。

 一方で、共産主義者は、共産主義によって究極の平等が達成され、理想の社会が実現されることを目指す人々です。彼らにとっても、自由主義経済を推進し、経済格差を助長し、外国人労働者を導入する安倍政権の政策は、共産主義の天敵であると捉えられているでしょう。

 この両者には共通する点があります。それは理想を追求するあまりに、現実的な政策を採る政治家が敵に見えることです。保守主義者である適菜氏が、共産主義者である清水忠史氏と意気投合して共著を出せるのは、両者が安倍総理を共通の敵と見なしているからだと思われます。

 別の見方をすれば、両者は安倍総理を一方的に非難し、蔑むことで世間的に注目を集め、自分たちの存在価値を高めようとする人たちだとも言えるでしょう。(続く)