前回までのブログでは、安倍政権に常に批判を加え続ける人たち、批判のための批判を繰り返す人たちの批判が、いかに現実に即しないものであるのかを述べてきました。
しかし、新型コロナウィルス感染症に対する安倍政権への批判の中でも、現実に即したものもありました。それは安倍総理が、中国全土からの入国制限を2月になってからも行わなかったことです。安倍政権が事実上、中国全土からの入国制限を行ったのは3月5日になってからです。この政策は、当然のごとく多くの批判を招きました。今は観光や経済よりも、感染拡大を抑え込むことの方が優先されるのではないかという批判です。
安倍政権のこの判断によって、日本は新型コロナウィルスの感染爆発を引き起こすだろうと予想されていました。中国からの観光客を、世界で最も多く受け入れたのが日本だったからです。
ところが、その後の日本では、感染爆発は起こりませんでした。そして、日本での死者は、世界で最小の部類に抑えられました。それはジャパニーズ・ミラクルではなく、ジャパニース・ミステリーとさえ言えるものでした。
なぜミステリーは起きたのでしょうか。このミステリーを解明するためには、新型コロナウィルスの性質に目を向ける必要があります。今回のブログでは、番外編として、新型コロナウィルスの特性について検討したいと思います。
死亡者数と感染者数が多い国々
新型コロナウィルスは、世界でパンデミックを起こしました。しかし、感染爆発の程度は、地域によって、国によって大きな違いがあります。
以下は、5月20日の時点での、人口100万人あたりの、死亡者数と感染者数の国別の比較です。
まず、死亡者数と感染者数が多い国々を挙げてみましょう(ジョンズ・ホプキンス大学の集計をもとに計算)。
死亡者数(人) 感染者数(人)
スペイン 593.5 4,958.1
イギリス 533.0 3,763.7
イタリア 531.9 3,748.3
フランス 418.4 2,701.3
スウェーデン 367.7 3,025.4
オランダ 332.8 2,579.7
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アメリカ 280.7 4,668.4
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カナダ 162.7 2,172.0
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ドイツ 97.5 2,144.2
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ロシア 19.6 2,076.0
以上を、便宜的にA群とします。
死亡者数と感染者数が少ない国々
次に、人口100万人あたりの、死亡者数と感染者数が少ない国々を挙げてみましょう(ジョンズ・ホプキンス大学の集計をもとに計算)。
死亡者数(人) 感染者数(人)
フィリピン 7.8 121.4
日本 6.1 129.4
韓国 5.1 216.1
インドネシア 4.6 69.1
ニュージーランド 4.4 313.8
オーストラリア 4.0 283.1
シンガポール 3.9 5105.3
マレーシア 3.6 221.3
中国 3.3? 60.2?
インド 2.4 78.8
: : :
タイ 0.8 43.7
: : :
台湾 0.3 18.9
以上をB群としましょう。
驚くべき各国の差
最も数値の少ない台湾と、最も多いスペインを比べると、感染者数で262倍、死亡者数ではなんと1978倍もの違いがあります。これほどの違いはないにしても、A群とB群の国々では明らかな違いがあります。感染者数で1桁から2桁、死亡者数では2桁の違いが認められます。これの数値は、実に驚くべき差であると言えるでしょう。
この差はどうして生じたのでしょうか。
まず、A群とB群について述べておきましょう。A群はヨーロッパと北米の国々です。そしてB群は東南アジアとオセアニアの、いわば中国の近隣の国々です。各国は人種や民族、国の社会制度や衛生環境、新型コロナウィルスに対する政策や医療制度、そして人々の行動様式が異なりますが、概ねA群とB群では同じ傾向が認められています。すなわち、A群では感染者数と死亡者数が多く、B群では少ないのです。これは、人種や民族、社会制度や衛生環境、各国の対策や医療制度、人々の行動様式を超えた要因が存在することを意味しています。
ウィルスが変異している
A群とB群で、感染者数と死亡者数がこれほど違う理由、人種、民族、社会制度、衛生環境、政治政策、医療制度、そして人々の行動様式を超えて数が異なる理由は、ウィルスの性質そのものに求められるのではないでしょうか。つまり、A群の国々に拡がったウィルスと、B群の国々に拡がったウィルスでは、感染力と病原性が異なっているということです。
ウイルスは遺伝子のコピー(複製)によって増殖します。その複製の過程で突然変異が起こることや、同種のウイルス間で遺伝子組換えが起こって、性質の異なったウイルスが出現します。こうして出現するウイルスを、変異株と呼びます。
新型コロナウィルスは、すでに多様な変異を起こしたことが分かっています。5月17日放送のNHKスペシャル『新型コロナウィルス ビッグデータで闘う』によれば、新型コロナウィルスは、わずか5か月の間に、報告されているだけで5,000種類以上(!)に多様化していると指摘されています。
その変異株は、大別するとアジアで拡大したタイプ、アジアから枝分かれしたヨーロッパタイプ、さらにヨーロッパから枝分かれしたアメリカの東海岸のタイプと、アジアに近い西海岸のタイプに枝分かれしているといいます。
欧米の変異株は感染力と病原性が増している
同番組では、変異株によって感染力と病原性が増す可能性があるかは、専門家でも予測が難しいとされています。そして、変異した遺伝子配列からは予測できないと、専門家の先生方は語っています。
しかし、上述のA群とB群の感染者数と死亡者数の比較から、感染力と病原性の変化は明らかになっているのではないでしょうか。B群の中国近隣諸国に拡がったと考えられるアジアで拡大したタイプ(これを今後は武漢株と呼びます)と、A群のヨーロッパやアメリカの東海岸で拡大したタイプ(これを欧米株と呼びます)を比較すると、確実に感染力と病原性が増していることが分かります。
つまり、武漢株から欧米株に変異することによって、新型コロナウィルスは感染力と病原性を数段増強させたのです。
このように仮定すると、人種、民族、社会制度、衛生環境、政治政策、医療制度、そして人々の行動様式が異なる国々を含むA群とB群で、感染者数と死亡者数が1桁から2桁も違っている理由が理解できると考えられます。
死亡者数が少ないもう一つの要因
新型コロナウィルスが変異を繰り返し、感染者数と死亡者数を増加させていることを検討してきましたが、感染者数と死亡者数の増加は同じ程度ではありません。A群とB群を比較すると、感染者数はほぼ1桁の増加ですが、死亡者数はA群のほとんどの国で、B群の国よりも2桁の増加を示しています。それも医療の水準が高いと考えられているA群の国々の死亡者数の増加が、際立っているのです。
この現象の発現には、もう一つの要因が関係しているのではないかと考えられます。それがBCGの接種です。
BCGは結核に対するワクチンですが、結核に対するワクチン接種が、新型コロナウィルス感染症の死亡者数に影響を与えることなどあり得るのでしょうか。
次回のブログで検討してみたいと思います。(続く)