韓国はなぜ繰り返し賠償を求めてくるのか(20)

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 前回のブログでは、韓国の歴代の大統領が、反日以外のナショナリズムを創出する努力をしてこなかったことを指摘しました。その結果、真の愛国のナショナリズムを構築できないために、国民を幸せに導けなかったことも検討しました。

 文在寅大統領も、反日を韓国のナショナリズムにしようとする姿勢は歴代の大統領と変わりはありません。しかし、文大統領はそれだけでなく、愛国のナショナリズムを形成しようとしているようにもみえます。ただし文大統領が目指しているのは、韓国の愛国ではなく、朝鮮を統一して創られる新たな国家の愛国です。

 では、文大統領が描く統一国家の行く末には、何が待っているのでしょうか。

 

ワンコリアを目指す

 去る8月15日の光復節文在寅大統領は、「平和への反映をなす平和経済を構築し、統一光復を完成させる」と宣言しました。

 光復とは、復興すること、かつての栄光を取り戻すことです。ただし朝鮮半島における光復とは、日本による統治からの解放を意味しています。文大統領は、「光復が実現出来ていないのは、南北が分断されているからだ」と訴え、さらに「南北の経済強力により平和経済が実現できれば、一気に日本経済の優位性に追いつくことができる」とも主張しました。

 そして、「2032年にソウル・平壌合同オリンピックを成功裏に開催し、遅くとも2045年光復節100周年には平和と統一に一つとなった国、ワンコリア(One Korea)となり、世界のなかでそびえ立つことができるように確固たるものにすると約束する」と公言しました。

 文大統領は、実に壮大な構想を抱いていると言えるでしょう。

 

現実経済との大きなギャップ

 しかし、文大統領の壮大な構想には、現実から乖離した希望的な理想が多分に含まれています。

 文大統領は、「所得中心の成長」を経済政策の中心に据えました。そして「2020年に最低賃金を時給1万ウォン(約1000円)にする」と宣言しました。そして反対派の声を押し切って、2018年の最低賃金を、前年の6470ウォンから7530ウォンにまで引きあげました。
 その結果として、1年後に失業率は過去17年間で最悪になり、輸出、物価上昇率は急激に悪化しました。そして経済格差はさらに拡大しました。それにも拘らず文大統領は、昨年の7月14日に、2019年の最低賃金を10・9%アップの8350ウォンにすると発表しました。
 景気の状況も考えずに最低賃金だけを引き上げれば、企業は雇用を控えることになるでしょう。そして企業は競争力を失って輸出は減り、生産力が減退すれば物価は上昇するのではないでしょうか。文政権での経済の悪化は、もはや既定路線に入ったものと思われます。

 さらに、北朝鮮の名目国内総生産(GDP)は1兆8000億円程度で、日本の鳥取県高知県などの名目県内総生産とほぼ同額にすぎません。

 こうした両国が結びつくことによって、本当に「一気に日本経済の優位性に追いつくことができる」のでしょうか。

 

金正恩から嘘つき呼ばわり

 文在寅氏は、大統領選の時からすでに頑迷な反日主義者として知られており、さらに従北(親北朝鮮)、反米的な考えを持ち、朝鮮半島の「赤化統一」の危機すらささやかれていました。大統領になってからは南北会談を実現し、最近ではGSOMIAを破棄するなど、赤化統一への途に邁進しているようにみえます。

 しかし、ベトナムハノイでの米朝会談が決裂してから、仲介者としての文在寅大統領の評判は北朝鮮では地に堕ちました。北朝鮮は、韓国が共同開催を呼び掛けていた「3・1独立運動100周年記念行事」を完全に無視したばかりか、韓国からの会談の要請に一切応じようとしていません。

 さらにフランスで行われたG7サミットで、アメリカのトランプ大統領が、韓国の文在寅大統領を「信用できない」と語っただけでなく、「金正恩は、『文大統領はウソをつく人だ』と俺に言ったんだ」と重ねて批判したといいます。

 両国の首脳同士の信頼関係のない中で、ワンコリアは実現できるのでしょうか。

 

中国側に属することは幸せか

 このような悪条件をはねのけ、文在寅大統領とその後継者が朝鮮半島の赤化統一を果たしたら、韓国を含む新たな国家にはどのような未来が待っているのでしょうか。

 赤化統一された新国家は、中国側陣営に取り込まれることになるでしょう。新国家は中国を中心とした体制に所属することになり、それは21世紀の新しい柵封体制が誕生することを意味します。

 では、中国の支配下に属することによって、朝鮮の人々は幸せになれるのでしょうか。

 もともと朝鮮は、千二百年もの間中華帝国の柵封体制に属してきたわけですから、ある種の安心感、安定感は得られるかもしれません。その一方で、中華帝国による苛酷な支配を思い起こすことになるでしょう。

 

中国の徹底した攻撃

 2017年にアメリカの要請を受けて、韓国がTHAADミサイル(サードミサイル:終末高高度防衛ミサイル)の配備を決めたときの中国の対応は、実に徹底していました。

 

 「中国に膨大な量を輸出していた韓国産化粧品はいきなり検査で不合格判定を受けて輸出を禁止された。韓国産のバッテリーを使った電気自動車に支給されていた補助金は中止され、サムスンやSDIやLG化学に莫大な被害を与えた。中国の消費市場に23年間で1兆円を投資していたロッテマートは、中国政府の措置によって中国市場から完全に撤退させられた。

 そして中国でも人気があった韓流コンテンツの放送中止、韓国芸能人の中国での活動を許可しないなど、文化面でも徹底して禁止した」(『韓国人が書いた 韓国の大統領はなぜ悲劇的な末路をたどるのか?』1)261‐262頁)

 

 さらに、文在寅大統領が訪中した際には、数日間一人で食事をとらされるとい侮辱を受けたといいます。

 こうした中国の徹底した対応によって、韓国政府は2017年11月に、「THAADをこれ以上配置しない」「アメリカのミサイル防御体系(MD)に入らない」「アメリカ・日本との関係を軍事同盟に発展させない」という約束をして、中国との関係を回復させました。韓国政府は、まさに中国に屈したのです。

 

柵封時代の記憶を蘇らせる

 こうした中国の対応は、柵封時代の記憶を蘇らせる端緒になるかもしれません。朝鮮半島が赤化統一されれば、その記憶はさらに鮮明になるでしょう。

 朝鮮は千二百年もの間、中華帝国の属国でした。牛馬や金銀や宦官の他に高貴な女性まで貢ぎ物として献上し、多くの朝鮮人が奴隷として強制連行されるという屈辱的な扱いを受け続けてきました。

 たとえば柵封体制下の李氏朝鮮は、清の属国でした。半島内で起こったすべての出来事は、仔細までいちいち明細書に書き出し、清国に提出しなければなりませんでした。朝鮮国王は清の皇帝によって任命され、朝鮮政府には貨幣の鋳造権がないなど、朝鮮には実質的に主権がありませんでした。
 朝鮮国王の地位は、清朝朝廷の臣下として一地方の官僚と同じ扱いを受けていました。そして、清の使者に対して三跪九叩頭(さんききゅうこうとう)の礼(三度ひざまずき、九度頭を地に着ける)をもって迎えねばなりませんでした。

 こうした屈辱的な記憶は、朝鮮の人々の無意識の中に抑圧されてきました。しかし、21世紀になって同様の状況に置かれたときに、抑圧されてきた記憶は再び意識の中に頭をもたげてくることになるのです。

 

日本への誤解が解ける日

 朝鮮半島が赤化統一され、新たな朝鮮の国家が、中国を中心とした共産主義体制に組み込まれたとき、日本には国土を侵略されないための新たな防衛体制が必要になります。日米安保体制の強化と共に、憲法を改正して国防軍を明記し、国土を防衛するための大幅な戦力の増強が喫緊の課題になると考えられます。

 こうした軍事力の増強は、日本社会にとって大きな負担になるでしょう。しかし、良い点がひとつだけあります。

 それは、21世紀の柵封体制に組み込まれた朝鮮の人々が、中華帝国から千二百年間にわたって受け続けてきた屈辱的な記憶を蘇らせることです。その結果、日本から人類史上類例のない過酷な植民地支配を受けたという主張も、「主権」「国王」「国語」「人命」「姓名」「土地」「資源」の七つを日本から奪われたという主張も、従軍慰安婦問題も、徴用工問題も、すべて中華帝国から受けた被害をもとに創られた架空の物語であることが明らかになるでしょう。

 その時にこそ、日本に対する長年の誤解が完全に解ける日が来るのかもしれません。(了)

  

 

 文献

1)黄成京:韓国人が書いた 韓国の大統領はなぜ悲劇的な末路をたどるのか?.彩図社,東京,2018.