韓国はなぜ繰り返し賠償を求めてくるのか(9)

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 前回のブログでは、現在日韓の間で起こっている、いわゆる徴用工問題、従軍慰安婦問題、そして韓国海軍による自衛隊哨戒機への火器管制レーダー照射事件について検討しました。これらの問題は、現在の韓国社会では内的自己が前面に出ているために、現実検討に基づいた解決が困難になっていることも指摘しました。

 ところで、現在の韓国社会で内的自己が前面に出ているのは、文在寅ムン・ジェイン)が内的自己を代表する大統領であることと無関係ではありません。今回のブログでは、文在寅大統領と韓国の今後について検討してみたいと思います。

 

内的自己を代表する大統領

 安倍首相との日韓首脳会談で文在寅ムン・ジェイン)大統領は、慰安婦などの歴史問題や竹島の領土問題について、激しく言い寄ってきたことは一度もなかったと言います。それよりも、未来志向を掲げ、朴槿恵(パク・クネ)前政権との違いを強調したようです。しかし、これは文大統領独特の外交姿勢のなせる技で、それは、どの国に対しても笑顔で接する「八方美人外交」と言われています。

 実は、文在寅の本心は別のところにあります。大統領選の時から、文候補はすでに頑迷な反日主義者として知られており、さらに従北(親北朝鮮)、反米的な考えを持ち、朝鮮半島の「赤化統一」の危機すらささやかれていました。日本に対しては、獨島(日本名・竹島)の挑発に決して妥協しないこと、慰安婦問題について日本政府に法的責任を問うことを公約として挙げていました。

 このように文大統領は、支持を広げるための政治的な判断ではなく、もともと従北と反日を思想の根本に持っています。つまり彼は、左派であり、かつ韓国の内的自己を代表する人物だと考えられるのです。

 

左派であり内的自己の大統領は初めて

 これまで検討してきたように、内的自己を代表する大統領は、李承晩(イ・スンマン)、金泳三(キム・ヨンサム)、李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)でした。李承晩は米韓相互防衛条約を締結し、反共思想と共に反日思想を韓国社会に形成しました。反共思想を受け継いだ右派の後継者として、金泳三、李明博朴槿恵は位置づけられます。彼らは反日の態度を表明しましたが、その一方では米国との関係を重視し、米軍と共に国防を行うという現実的な側面も備えていました。

 それに対して文在寅ムン・ジェイン)は、左派の大統領として、親北朝鮮の立場を鮮明にしています。周知のように、2018年4月27日に北朝鮮金正恩キム・ジョンウン)委員長と板門店の「平和の家」において、11年ぶりの南北首脳会談を実現させました。そして、半島の完全な非核化を南北の共同目標とすること、休戦状態にある朝鮮戦争の平和協定締結を目指し、米国も含めた会談の開催を推進することを内容とする板門店宣言を発表しました。その勢いをかって、6月にはトランプ大統領金正恩委員長との「世紀のシンガポール会談」の実現まで演出しました。

 こうした政治姿勢が韓国民衆の心を掴み、就任後の支持率は、歴代大統領で最高の84%を記録しました。

 

文在寅の対日姿勢

 文在寅ムン・ジェイン)は、日本に対して徐々に内的自己としての姿勢を見せ始めています。

  まず、いわゆる慰安婦問題です。文在寅は大統領選で日本政府に法的責任を問うことを公約として挙げていましたが、この公約通り「最終的かつ不可逆的な解決」をうたった2015年の日韓合意を覆して、昨年の11月21日に「和解・癒し財団」の解散を発表しました。

 いわゆる徴用工問題では、文大統領がこの事態を招いたことは明らかです。韓国の場合、最高裁のトップである院長は大統領の指名により選ばれます。現在の院長は、去年8月に文在寅大統領に指名された金命洙(キム・ミョンス)です。この金院長は異色の経歴で、最高裁判事の経験もない大抜擢人事だった上に、革新派裁判官が集う「ウリ法研究会」の会長でした。

 金院長は、任期満了となった最高裁判事の後釜に、革新派裁判官を次々と据えました。その結果、13人の最高裁判事のうち金院長含めた7人が革新派になり、最高裁の判事の過半数が革新派になりました。そもそも革新派の裁判官は、反日の立場をとることが多いと言われています。こうして反日の姿勢を持つ判事が増えたことによって、韓国最高裁新日鉄住金に賠償を命じることに繋がったのだと考えられます。さらに文大統領は、原告代理人関係者が、1月2日に韓国内にある同社の資産差し押さえ申請を裁判所に提出したことも黙認しています。

 昨年の12月末に起こった韓国海軍による自衛隊哨戒機への火器管制レーダー照射事件についても、文政権が何の対応もとらなかったために、事態は混迷の度を増しているのです。

 

民族の自尊心を優先すれば現実が見えなくなる

 以上のように、文在寅ムン・ジェイン)大統領は朝鮮民族としての自尊心、そして韓国の自尊心を最も重視した政策を行っています。

 しかし、自尊心を重視した政策には大きな落とし穴があります。以前にも指摘したように、民族や国家の自尊心を支えるものは架空の物語です。したがって、自尊心を重視すればするほど架空の物語を尊重することになり、現実が見えなくなって行きます。現実が見えなくなれば現実的な対応が取れなくなり、結果として現実社会がうまく回らなくなります。自尊心をくすぐられた国民は一時的には満足するかもしれませんが、政治は結果責任の世界ですから、政治・経済で悪い結果が導かれれば、最終的には国民の支持を失うことになります。

 こうした経緯をたどった総理大臣が日本にいます。それは鳩山由紀夫首相です。以前のブログ(2018年6月『日本人が誇りを取り戻す日は来るのか』)でも述べましたが、ここでもう一度振り返っておきましょう。

 

夢を語るだけだった鳩山内閣
 2009(平成21)年の衆議院議員総選挙民主党が圧勝し、政権が交代して新たに鳩山内閣が誕生しました。
 今となっては何をしたいのかさえよく分からなかった鳩山首相でしたが、彼の政策からは、それまで対米追従一辺倒であった自民党の政策から離反しようとするわずかな試みを読みとることができます。
 アメリカからの要望が一方的に実現される「年次改革要望書」が廃止されたのは鳩山政権になってからでした。さらに普天間基地移設問題では、自民党政権時代の日米合意を覆し、基地の沖縄県外移設を高らかに宣言しました。基地移設は「国外」、「最低でも県外」と訴える鳩山首相の政策は、沖縄の人々はもとより、多くの国民から驚きをもって受け取られました。それは彼の政策がアメリカ政府の意向を度外視し、独自の外交戦略を確立しようとする姿に映ったからです。アメリカから独立して独自の外交戦略を確立することこそ、日本民族の自尊心をくすぐる政策であると言えるでしょう。

幻だった普天間基地移設
 しかし、その姿は幻にすぎませんでした。鳩山首相普天間基地問題について、オバマ大統領には「トラスト・ミー」と語り、国会では「腹案を持ち合わせている。現行案と少なくとも同等かそれ以上の効果のある案だと自信を持っている。命がけで体当たりで行動してまいる。必ず成果を上げるので、政府を信頼していただきたい」とまで言い切りました。それにも拘わらず、8カ月間の迷走の末、結局「辺野古でお願いするしかない」と元の案に逆戻りしてしまいました。
 沖縄県民にとっては、期待が大きかっただけに裏切られたという失望がさらに大きくなりました。自民党政権が時間をかけてようやく漕ぎつけた辺野古移設案は、一気に水泡に帰することになりました。国民の期待感は、鳩山政権への不信感に変わりました。残ったものは基地問題の泥沼化と、日米関係の悪化だけでした。

 政権発足当時70%以上の支持率を得ていた鳩山内閣でしたが、鳩山首相自身と小沢幹事長の金銭問題や、普天間基地移設問題を巡る混乱も加わって、わずか9ヶ月弱での退陣を余儀なくされました。そして鳩山首相は、歴代でワースト3の中に数えられるであろう首相として、日本人に記憶されることになったのです。

 

文政権の経済政策

 先のブログで、内的自己を代表する大統領の時代は、経済が悪化していることを指摘しました。文在寅ムン・ジェイン)政権でもすでに、同様のことが起こりつつあります。

 文政権は、「所得中心の成長」を経済政策の中心に据えました。そして「2020年に最低賃金を時給1万ウォン(約1000円)にする」と宣言しました。東京都の最低賃金が、昨年の10月から985円になったばかりなのにです。反対派の声を押し切って、2018年の最低賃金を、前年の6470ウォンから7530ウォンにまで引きあげました。

 その結果として、1年後に失業率は過去17年間で最悪になり、輸出、物価上昇率は急激に悪化しました。そして経済格差はさらに拡大しました。それにも拘らず文大統領は、昨年の7月14日に、2019年の最低賃金を10・9%アップの8350ウォンにすると発表しました。

 景気の状況も考えずに最低賃金だけを引き上げれば、企業は雇用を控えることになるでしょう。そして企業は競争力を失って輸出は減り、生産力が減退すれば物価は上昇するのではないでしょうか。文政権での経済の悪化は、もはや既定路線に入ったものと思われます。

 こうした経済政策の失敗などを受けて、文在寅ムン・ジェイン)政権の支持率が急速に低下しています。韓国ギャラップ社によると、昨年12月末には支持率が45%で不支持率が46%となり、初めて支持率を不支持率が上回りました。

 こうなると内的自己を代表する文大統領は、いよいよ反日の姿勢を前面に出して行くことになるでしょう。本日(1月10日)大統領府で開かれた年頭の記者会での発言は、今後文政権から堰を切って噴出して行くであろう、反日政策の始まりを告げる内容であったと言えるでしょう。(続く)