朝日新聞はなぜ国益に反する報道を続けるのか(6)

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 前回のブログでは、朝日新聞は内的自己を代表する報道機関であることを指摘しました。そのため朝日新聞は、反米を心に秘め、アメリカと対立する共産主義を支持し、親中国の立場を鮮明にして行きました。

 そして、次に朝日新聞は、対米追従を続ける外的自己にも攻撃性を向けて行きます。今回のブログでは、外的自己に対する攻撃性が、どのような報道になって現れているかを検討したいと思います。

 

教科書問題は外的自己に対する攻撃

 教科書問題とは、 1982年6月に文部省が教科書検定で、高校の歴史教科書の中国華北地域への「侵略」を「進出」に書き換えさせたと新聞各紙が一斉に報じた問題です。この報道は中国、韓国から大きな反発を招き、日本が戦前に戻ろうとしているという印象を世界に与えました。
 中国政府から公式の抗議を受けた政府は、当時の鈴木善幸首相が「記述変更」で決着しようとし、「日本は過去に於いて韓国・中国を含むアジアの国々に多大な損害を与えた」という政府見解を、宮澤喜一官房長官が発表しました。

 教科書問題はこうして、海外からの反発を受けて政府が謝罪見解をするなど、外的自己である自民党政府に充分な打撃を与えることになりました。

 

目的のためには誤報しても構わない

 ところが、「侵略」を「進出」に書き換えさせたという事実がないことが後に判明し、新聞報道が誤報だったことが明らかになります。このときに他紙は訂正とお詫びを掲載しましたが、朝日新聞は「読者にお詫びしなければなりません」としながらも、「ことの本質は、文部省の検定の姿勢や検定全体の流れにあるのではないでしょうか」と問題をすり替えました(『財務省「文書改竄」報道と朝日新聞誤報・虚報全史』1)13頁)。
 ここには「間違った文部省の姿勢を正すためには、誤報は大した問題ではない」という、報道機関としては信じがたい態度が垣間見られます。そして、自らの誤報が日本にどれだけ迷惑をかけたのかという事実に全く無頓着な、朝日新聞のおごりを見て取ることができます。

 なぜそのような態度がとれるのかと言えば、このときに朝日新聞が本当に目指したことが、外的自己である政府を攻撃することだったからです。教科書問題とは、この思いを実現するための手段の一つに過ぎませんでした。

 ところで、報道機関が誤報をすることは、大きな問題ではないのでしょうか。そんなことはないはずです。事実を正確に伝えることは、報道機関にとって最も大切な役割のはずです。

 しかし、朝日新聞は、そう考えてはいませんでした。なぜ誤報を問題視しないかと言えば、朝日新聞が内的自己を代表する報道機関だからです。内的自己は外的現実から切り離されていますから、現実に対して、そして現実を報道する重要性に対して無頓着になることができます。また内的自己にとって重要なことは、自らの誇りや尊厳を保つことですから、自らの誤りを認めることが難しくなります。これらのことから、「事実とは違う報道をしたけれども、ことの本質の部分では間違っていない」という主張を、堂々と記事にすることができたのです。

 

従軍慰安婦問題は誤報の宝庫

 さて、ここで一連の従軍慰安婦問題について検討してみましょう。

 朝日新聞従軍慰安婦報道は、誤報の連続でした。吉田清治済州島で、慰安婦にするために暴力を使って女性を無理やり連れ出したという虚偽の証言や、吉田が謝罪で韓国を訪れる記事など、一連の吉田報道はすべて虚偽に基づいた報道でした。慰安所に軍の関与を示す資料があったという記事も、本当は誘拐まがいの強制連行が起こらないように軍が関与したという内容を、軍が強制連行に関与したという正反対の意味で報道しました。

 また、慰安婦が女子挺身隊の名で戦場に動員されたという記事でも、労働で動員された挺身隊と慰安婦は全く別の存在でした。さらに、元慰安婦の初の証言とされた記事は、挺身隊の名目で戦場に強制連行されたという事実とは異なる内容でした。

 このように。朝日新聞がリードした従軍慰安婦問題は、ほとんどが誤報でした。

 

日本を蝕み続ける慰安婦報道の傷痕

 それにも拘らず、従軍慰安婦問題は世界的な大問題になって行きます。吉田清治の虚偽の話から始まったこの問題は、朝日新聞が軍の関与を指摘し、韓国からの猛反発を受けるなかで宮沢首相が謝罪し、さらに決定的な河野談話が発表されます。

 朝日新聞河野談話の内容を、「慰安婦〈強制〉認め謝罪-総じて意に反した」という見出しで伝えました。ここから、「従軍慰安婦は本人の意に反して強制的に連行された」と日本政府が認め、この見解が真実であると日本人自身でさえ捉えるようになって行きます。

 この河野談話の後に、慰安婦問題は国連の人権委員会で取り上げられ、世界的な問題になりました。さらに韓国の人々は、従軍慰安婦問題を日本を非難するための格好の材料として利用し、現在も世界中で慰安婦像を設置し続けています。

 こうして日本人は、軍が関与して強制的に従軍慰安婦を連行したという冤罪を背負い、罪のない女性を性的奴隷にした恥知らずの民族として世界から蔑まれることになったのです。

 

朝日新聞の驚くべき謝罪

 誤報によってこれだけの影響を与えたことを、朝日新聞はどのように捉えているのでしょうか。さすがに朝日新聞は、2014年8月5日に「読者からの疑問に答える」という形で、一連の慰安婦問題に謝罪の記事を掲載します。しかし、その内容は、謝罪とは程遠いものでした。

 朝日新聞が正式に間違いだったと認めたのは、吉田清治済州島慰安婦を強制連行したという一連の記事について、「裏付け得られず虚偽と判断」として認めたものだけでした。

 強制連行については、「朝鮮や台湾では、軍による強制連行を直接示す公的文書は見つかっていない」としながらも、「問題の本質は、軍の関与がなければ成立しなかった慰安所で女性が自由を奪われ、尊厳が傷つけられたことにある」と、いつもの問題のすり替えを行っています。

 宮沢訪首相が訪韓する直前に、軍が関与したことを示す資料の存在をスクープした記事については、「本誌報道前に政府も存在を把握」していたとし、また報道も記者が詳細を知った5日後に掲載したもので、意図的にこの時期を狙ったものではないと説明しています。さらに、この資料の内容は「業者に違法行為をやめさせようとしたものではないか」という指摘に対しては、「慰安所と軍=国家の関係の隠蔽化方針を、軍司令部に周知徹底させる指示文書」だと反論しています。

 慰安婦と挺身隊を混同していたことに対しては、当時は慰安婦問題に関する研究が進んでおらず、資料にも慰安婦と挺身隊の混合が見られたと釈明しています。元慰安婦の初の証言にも、「記事に事実の捻じ曲げない」と言い切っています。

 

内的自己は現実に盲目である

 以上のように報じたうえで、「これまで慰安婦問題を報じてきた朝日新聞の問題意識は、今も変わっていない」と述べています。つまり、これは謝罪の記事ではなく、吉田記事以外は問題なかった、または当時としては仕方なかった、問題を追及したこと自体は間違っていなかったと開き直った記事でした。

 この「謝罪記事」にこそ、朝日新聞が内的自己であることの特徴が表れています。内的自己は外的な現実と切り離されています。自らの記事が日本にどれだけの被害を与えたのかは、朝日新聞には見えていません。それよりも、内的自己は自らの尊厳を守ることに執着します。したがって、この「謝罪記事」は謝罪が目的ではなく、自らの弁明を目的とした記事だったのだと言えるでしょう。

 

朝日新聞が森友・加計問題に執着する理由

 さて、ここまでの検討を踏まえたうえで、今回のブログで最初に取り上げた疑問について考えてみましょう。朝日新聞は、なぜ法的には問題のない森友・加計問題に必要以上に執着し、1年以上も報道し続けているのかという疑問です。

 それは、両問題に関わっていた(とされている)安倍首相が、外的自己を代表する人物だからです。

 安倍首相は親米の態度をとり続けてきました。日本の民主党政権で冷え切ったアメリカとの関係を修復しただけでなく、オバマ大統領の時代には、歴代の日本の総理大臣として初めて、米国連邦議会の上下両院合同会議において演説を行いました。その際に硫黄島で戦った米兵士と日本兵士の孫を同席させ、両国の和解を演出しました。トランプ大統領ともいち早く面会を果たし、ともにゴルフを楽しむ姿を見せて、日米首脳の蜜月ぶりをアピールしました。両国首脳のこれほどの蜜月は、ロン・ヤス時代の中曽根首相とレーガン大統領以来ではないでしょうか。

 さらに、安倍首相の母方の祖父が日米安保を改定した岸首相であったことが、内的自己からは非難を受ける要因となっているでしょう(米議会での演説のテーマが『希望の同盟へ』だったことは、この祖父を意識してのことでした)。加えて、安倍首相が憲法9条の改正を目指していることも、憲法9条を宗教の根本教義のように奉じ、かつて非武装中立論を唱えた内的自己からはとんでもない暴挙と映るでしょう。

 以上のように、安倍首相は外的自己の本流を行く政治家であり、内的自己である朝日新聞からすれば、どのような手段を使ってでも攻撃を続け、権力の座から引きずり降ろさねばならない宿敵だったのです。そのため朝日新聞は、「安倍一強の政治が内政、外交に様々な歪みを生じさせており、その不正を許してはならない」という正当化のもと、「正しい目的のためには、誤報しても構わない」という報道機関としての禁じ手を駆使しながら、あらゆる側面から安倍攻撃を続けて行くことになるでしょう。(了)

 

 

文献

1)花田紀凱責任編集:財務省「文書改竄」報道と朝日新聞 誤報・虚報全史.飛鳥新社,東京,2008.